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侯爵家
嫉妬
騎士団へ行く前に、アルバートは前日の様に魔法師の建物の前に馬車を到着させた。昨日エドを連れて帰れなかったのはアルバートにとっては不本意だったが、直接無理にでも話をすれば良かったと帰宅後屋敷に届いたエドからの言伝を見て歯を噛み締めた。
エドも不安を感じているに違いない。主の生気が得られないと苦しい思いをするのはエド本人なのだから。
結局いつもの時間に目を覚ましてベッドに自分しかいない事に気づくと、アルバートは大きくため息をついた。毎晩のエドとの戯れは、今や自分にとっても無くてはならないものなのだと自覚してしまう。
「…まったく、本当に魅入られてしまってるじゃないか。エドに私が必要だと思っていたけれど、エドを必要としていたのは私だったのか?」
そんなぼやきも、いつもより寂しい空間に虚しさと共に消えて行った。
とは言え門からエドが走り出して、馬車の中へ飛び込む様にして入ってきた時は思わず目を丸くしたし、座席に膝立ちになって貪る様に私を味わうエドに呆気に取られてしまった。
けれどそれは一瞬で、エドに私の生気を与えようと積極的に口づけを交わしたのは、主としての務めばかりではなかっただろう。
それでも目の前のエドは魔物と言えども少年の姿をしている。開けっぱなしになった馬車の扉から、この光景を気まずそうに見つめる門番達の視線が気にならない訳ではない。
ひとしきり貪る様に口づけをし終わったエドは長い睫毛をゆっくり上げて、私を見つめながら自分の赤い唇を指先で拭った。
「はぁ…。やっぱりアルバートの生気じゃないとしっくりこないし、全然足りないな。」
そのひと言はぼんやりした私の意識を突如覚醒させた。
「…昨夜は大丈夫だったのか?苦しくはなかったか?」
探る様にそうエドに問いかけると、エドは微笑んで事もな気に白状した。
「明け方我慢できなくなって部屋を歩き回っていたら、僕の世話係のゼインが様子を見にきてくれたんだ。僕の事情を知って驚いていたけど、時間も時間でアルバートを呼ぶわけにいかなかったでしょう?
ゼインの生気を試してみようって話になってやってみたんだけど…、主じゃない人の生気じゃ効果が薄いのかも。全然効果が無かった訳じゃないけどね。それともいっそ下の生気だったらもっと持ったのかな?」
エドの隠す気のない開けっぴろげな報告に、アルバートはギリギリと奥歯をきしらせて微笑む事になった。
「ゼインと試した?口づけを?…まさかそれ以上?」
思わず問い詰める様な流れになってしまったけれど、エドは楽し気に美しいオニキスの様な黒い瞳を光らせて笑った。
「ちょっぴり口づけをね?アルバート、そんなに不機嫌にならないで!もちろんそれ以上のことなんてするわけないでしょう?ゼインはアルバートほど光は含まれていなかったし。それが分かっているのに先に進む筈がないでしょう?」
丁度その時開いた馬車から門の側にゼインが立ってこちらを見つめているのに気がついて、アルバートはエドが少年の姿だろうがもう一度貪る様な口づけをした。
エドの呻く様なくぐもった声が聞こえたけれど、ゼインに見せつける様にしたのはエドの主としての当然の事だ。
「やりすぎ…。」
怒った様な口調で、でも快感を煽られて色っぽくなってしまったエドを見下ろして、アルバートは嫉妬の感情のまま突っ走ってしまったのを後悔していた。ああ、こんな顔のままのエドをゼインの元へ送り出すのか?
「…多分まだ帰れないから、今日の夕方にも必ずこうして生気を僕に頂戴ね。約束だよ?」
そう言い残すと、エドはそそくさと馬車を降りてゼインの元へ歩いて行ってしまった。アルバートはゼインと一瞬目が合うと顔を顰めて従者に扉を閉めさせ、馬車を出立させた。
少なくともゼインは大人のエドに生気を与えたのだろう。今の少年の姿のエドに必要だとしても淫らなことをした自分をゼインが睨んでいたのは、嫌悪感か嫉妬か。
アルバートはため息をついた。結局最後の口づけで身体が目覚めてしまったからだ。騎士団に到着するまでに収まる様祈るしかないと、もう一度アルバートはため息をついて窓から朝の街の喧騒を見つめた。
エドも不安を感じているに違いない。主の生気が得られないと苦しい思いをするのはエド本人なのだから。
結局いつもの時間に目を覚ましてベッドに自分しかいない事に気づくと、アルバートは大きくため息をついた。毎晩のエドとの戯れは、今や自分にとっても無くてはならないものなのだと自覚してしまう。
「…まったく、本当に魅入られてしまってるじゃないか。エドに私が必要だと思っていたけれど、エドを必要としていたのは私だったのか?」
そんなぼやきも、いつもより寂しい空間に虚しさと共に消えて行った。
とは言え門からエドが走り出して、馬車の中へ飛び込む様にして入ってきた時は思わず目を丸くしたし、座席に膝立ちになって貪る様に私を味わうエドに呆気に取られてしまった。
けれどそれは一瞬で、エドに私の生気を与えようと積極的に口づけを交わしたのは、主としての務めばかりではなかっただろう。
それでも目の前のエドは魔物と言えども少年の姿をしている。開けっぱなしになった馬車の扉から、この光景を気まずそうに見つめる門番達の視線が気にならない訳ではない。
ひとしきり貪る様に口づけをし終わったエドは長い睫毛をゆっくり上げて、私を見つめながら自分の赤い唇を指先で拭った。
「はぁ…。やっぱりアルバートの生気じゃないとしっくりこないし、全然足りないな。」
そのひと言はぼんやりした私の意識を突如覚醒させた。
「…昨夜は大丈夫だったのか?苦しくはなかったか?」
探る様にそうエドに問いかけると、エドは微笑んで事もな気に白状した。
「明け方我慢できなくなって部屋を歩き回っていたら、僕の世話係のゼインが様子を見にきてくれたんだ。僕の事情を知って驚いていたけど、時間も時間でアルバートを呼ぶわけにいかなかったでしょう?
ゼインの生気を試してみようって話になってやってみたんだけど…、主じゃない人の生気じゃ効果が薄いのかも。全然効果が無かった訳じゃないけどね。それともいっそ下の生気だったらもっと持ったのかな?」
エドの隠す気のない開けっぴろげな報告に、アルバートはギリギリと奥歯をきしらせて微笑む事になった。
「ゼインと試した?口づけを?…まさかそれ以上?」
思わず問い詰める様な流れになってしまったけれど、エドは楽し気に美しいオニキスの様な黒い瞳を光らせて笑った。
「ちょっぴり口づけをね?アルバート、そんなに不機嫌にならないで!もちろんそれ以上のことなんてするわけないでしょう?ゼインはアルバートほど光は含まれていなかったし。それが分かっているのに先に進む筈がないでしょう?」
丁度その時開いた馬車から門の側にゼインが立ってこちらを見つめているのに気がついて、アルバートはエドが少年の姿だろうがもう一度貪る様な口づけをした。
エドの呻く様なくぐもった声が聞こえたけれど、ゼインに見せつける様にしたのはエドの主としての当然の事だ。
「やりすぎ…。」
怒った様な口調で、でも快感を煽られて色っぽくなってしまったエドを見下ろして、アルバートは嫉妬の感情のまま突っ走ってしまったのを後悔していた。ああ、こんな顔のままのエドをゼインの元へ送り出すのか?
「…多分まだ帰れないから、今日の夕方にも必ずこうして生気を僕に頂戴ね。約束だよ?」
そう言い残すと、エドはそそくさと馬車を降りてゼインの元へ歩いて行ってしまった。アルバートはゼインと一瞬目が合うと顔を顰めて従者に扉を閉めさせ、馬車を出立させた。
少なくともゼインは大人のエドに生気を与えたのだろう。今の少年の姿のエドに必要だとしても淫らなことをした自分をゼインが睨んでいたのは、嫌悪感か嫉妬か。
アルバートはため息をついた。結局最後の口づけで身体が目覚めてしまったからだ。騎士団に到着するまでに収まる様祈るしかないと、もう一度アルバートはため息をついて窓から朝の街の喧騒を見つめた。
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