特別な魔物

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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 それ以来絵都は、王都の街中をあの臭いの帯を探すべく時間を見つけて歩き回った。帽子を目深に被り、商人見習いの姿で歩いているお陰で、以前の様な不躾ぶしつけな視線に晒される事もない。

 それはある意味初めての経験だったかもしれない。この世界に囚われる以前も、絵都の見かけのせいで視線を感じなかったとは言えなかったからだ。

 ただ、一度すれ違う馬車から視線を感じる事があった。紋章入りの貴族の馬車だったので、以前アルバートが言っていた魔力の高い貴族は魔力を察知するという話を思い出して、逃げる様に脇道に入って隠蔽の魔法で全身を覆ったりした。

 一定時間ではあるけれど、全身を薄い弱い魔力で覆って絵都の強い魔力を隠すことが出来た。


 『魔力を見せない様には出来ないが、別のものに隠蔽は出来る。お前のその魔力を晒して歩くのは感じる者にとっては二度見レベルだからな。晒さないのもある意味親切かもしれんな。』

 アドラー大魔法師の揶揄いの言葉を苦笑して思い出しながら、絵都は用心を重ねてあの臭いの切れ端を探し歩いた。

 そしてついにある日、絵都は痕跡が集まっている場所を発見した。それは意外な場所だったものの、不用意に近づくのは悪手に思えて、遠目に見ることが出来るお茶屋から観察することにした。


 窓際の席から少し離れた教会をじっと見ていると、自分の座っているテーブルにドサリと座る者が居た。相席だと声を掛けられたわけでも無かったので、絵都は驚いて思わず目の前の相手に目をやった。

「おい、あんた。…何だ随分と別嬪だな。あー、そんなに分かりやすく教会を見てると碌なことにならんぜ。別にあんたは教会派ってわけじゃないんだろ?それだったら、つけ込まれる隙を作るな。」

 30代半ばぐらいに見えるガサツながら身綺麗な格好をした男は、店員にお茶を頼むともう一度絵都の方をマジマジと見つめた。


 「あんた何歳だ?まだ若造だろ?まさか未成年って訳じゃないよな?…随分雰囲気がある奴だと思って見ていたが、あまりにも不用心だからお節介を焼いちまった。

 その見かけなら、余計にあの教会に関わるのはよした方が良い。少しは魔力もある様だしな。教会は魔力のある人間が大好きなんだ。黒い布を腰から下げたり、全身黒い服を身につけている相手には近づくなよ。

 最近は暗い時間だったら、あまり隠そうともせずに強引に拉致するとか聞くからなぁ。あんたみたいに魔力持ちの綺麗な奴は格好の餌食だ。」


 今随分怖い話を聞いたみたいだ。絵都は顔を顰めて目の前の男に尋ねた。

「あの、教会がそんな風に拉致するのは何故なんでしょう。」

 男は肩をすくめると首を傾げた。

「さあな。ただ、拐われたと噂される相手は姿をそれから見せないか、見せたとしても黒ずくめの姿で現れるらしいから洗脳されてるらしいな。教会は今や王族に反旗を翻す国賊の様な立場に成り下がったんだ。

 不用意に近づく者は居ねえよ。だから気をつけな。」


 それだけ言うと近くの店子を呼びつけて、注文をした。このお節介な3男は一体何者だろう。剣を帯同している訳じゃないから騎士ではないだろうけど、それに近い空気を感じる。ある意味隙だらけに見えて隙がない。

 絵都の前から動く気はない様だったので、絵都はもう一度教会の方を見つめるとこの男に尋ねた。

「普通教会は王族と共に国の支えですよね。どうして国賊になったんですか?」


 「随分はっきり聞くな。何も知らんのか。」

 男は絵都に顔を寄せると、声を顰めた。

「教会が異形の魔物に支配されたと言うのが理由だろうな。顕著に現れたのは2年前だ。もしかしたらそれより前から教会に異形の魔物はいたのかもしれんが。黒教会として牧師が黒いローブを纏う様になったのがその頃からだからな。

 それからじわじわとって感じだ。今や、その勢力はバカにならないほど大きくなった。魔力を持つ者も多い。だから王族派も気が気じゃないのよ。国家転覆もあり得るからな。」


 異形の魔物があの男で、もし絵都と同じ囚われの特別な魔物だとしたら、一体どういう事なのだろう。自分の持っている魔力を邪な思いで使えばそうなると言う事なのか?

 しかもあの男は恐ろしい怪鳥に変幻もする。高校生の絵都に執着の眼差しを向けて来たあの男は、絵都がこの世界とリンクする事を知っていたのだろうか。そして今や絵都の膨大な魔力を欲しているとしたら…。

 再びあの男に囚われる恐怖を感じて、絵都はゾクリと身を震わせた。


 1人考え込んでいると、茶屋の前をよく知る相手が通り過ぎるのに絵都は気づいた。そしてその相手も絵都の視線に引き寄せられる様にこちらを見た。ああ、何故ここに…!

 無意識に動いた身体は店を飛び出して、駆け寄って来たアルバートの腕の中に絵都は飛び込んでいた。1人で踏ん張っていたその緊張は、アルバートの前で呆気なく弛緩して、絶対の護りに身体中が歓喜の声を上げた。

 「エド…!」

 アルバートの掠れた声が頭上で聞こえて来たけれど、絵都はその温かな腕の中で、張り詰めていた恐怖や心細さを癒そうと、慣れた匂いのアルバートに子供の様にしがみついていた。





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