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僕はストーカー (お題…駅/社会人)
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駅の雑踏に紛れる様に、僕はいつもの様にあの人を待つ。
あの人に気づかれたい様な、気づかれたくない様な、そんな矛盾した気持ちのせいで、毎回同じ柱に寄り掛かって、改札を見つめる。
イヤホンをつけた耳からは何も流さず、いかにも人待ちしている体裁を取って、腕を組んで待っている。さっき電車から吐き出された人の群れが少なくなったから、もしかしたら次の電車から降りてくるかもしれない。
僕は7回目のなんちゃって逢瀬に、口元を緩めながら次の降車客を待った。
走って改札を過ぎる乗客を皮切りに、次々と人々が改札を通り過ぎて行く。僕はさっきと同じ様に、目を皿の様にしてあの人を探した。
毎日というわけにはいかないけれど、平日、この時間をなるべく空けて、僕はここに7回来て彼を待っている。
彼だ。
こんなに人が次々に目の前を通り過ぎて行くのに、あの人だけは改札の中にいる時からなぜか目に飛び込んでくる。ああ、今日も会えた。7回目。
今日の彼は黒いジャケットに白Tシャツ。ボトムスは多分白いコットンパンツ。黒革のトートバッグを手に持っている。彼はあのバックがマストアイテムなのかな。
スッキリと撫でつけた髪型はいつ見てもセクシーでドキドキする。僕は目が合わない様に、彼の首元を見ながらこっそり観察するんだ。
切長のあの眼差しに見つめられたら、絶対目を逸らすことが出来そうもないから、僕は彼の首しか見られない。ああ不甲斐ない。でも僕はストーカーだから。
彼に話し掛ける勇気も、目を合わせる勇気も無いんだ。
彼が改札を出ていつもの様に右の方へ歩いて行くのを見送ろうと、僕は柱から身を起こした。一瞬彼から目を離してしまったせいで、彼を見失ってしまった。僕が慌てて右の方を見つめていると、僕の左に誰か来た気がした。
僕は邪魔になってしまったのかと、すみませんと謝りながら其方を見た。
彼がいた。あの切長の目を僕は見てしまった。ああ、もう目を逸らせない。心臓も死にそうなくらい踊ってる。
彼はそんな僕を見て微笑んだ。
「君って誰か待ってるの?いつもここに居るよね?」
ああ、彼の声。少し甘くて予想より高い声。僕は初めて目が合って、初めて声を聞いて気が動転していたに違いない。
「僕、あなたのストーカーなんです。」
空気に消えて行く僕の言葉はもう取り返せない。彼は少し目を見開いたけれど、クスッと笑って言った。
「そっか。ストーカーの割には、ただ見送ってくれるだけなんだね。だったら俺の方も君のストーカーかもしれない。君に会いたくて、この時間にここを通れる様に頑張ってるから。」
そう言って彼は笑った。そっか、彼って自分の事俺って言うのか。僕はもうひとつ彼の事を知った。
あの人に気づかれたい様な、気づかれたくない様な、そんな矛盾した気持ちのせいで、毎回同じ柱に寄り掛かって、改札を見つめる。
イヤホンをつけた耳からは何も流さず、いかにも人待ちしている体裁を取って、腕を組んで待っている。さっき電車から吐き出された人の群れが少なくなったから、もしかしたら次の電車から降りてくるかもしれない。
僕は7回目のなんちゃって逢瀬に、口元を緩めながら次の降車客を待った。
走って改札を過ぎる乗客を皮切りに、次々と人々が改札を通り過ぎて行く。僕はさっきと同じ様に、目を皿の様にしてあの人を探した。
毎日というわけにはいかないけれど、平日、この時間をなるべく空けて、僕はここに7回来て彼を待っている。
彼だ。
こんなに人が次々に目の前を通り過ぎて行くのに、あの人だけは改札の中にいる時からなぜか目に飛び込んでくる。ああ、今日も会えた。7回目。
今日の彼は黒いジャケットに白Tシャツ。ボトムスは多分白いコットンパンツ。黒革のトートバッグを手に持っている。彼はあのバックがマストアイテムなのかな。
スッキリと撫でつけた髪型はいつ見てもセクシーでドキドキする。僕は目が合わない様に、彼の首元を見ながらこっそり観察するんだ。
切長のあの眼差しに見つめられたら、絶対目を逸らすことが出来そうもないから、僕は彼の首しか見られない。ああ不甲斐ない。でも僕はストーカーだから。
彼に話し掛ける勇気も、目を合わせる勇気も無いんだ。
彼が改札を出ていつもの様に右の方へ歩いて行くのを見送ろうと、僕は柱から身を起こした。一瞬彼から目を離してしまったせいで、彼を見失ってしまった。僕が慌てて右の方を見つめていると、僕の左に誰か来た気がした。
僕は邪魔になってしまったのかと、すみませんと謝りながら其方を見た。
彼がいた。あの切長の目を僕は見てしまった。ああ、もう目を逸らせない。心臓も死にそうなくらい踊ってる。
彼はそんな僕を見て微笑んだ。
「君って誰か待ってるの?いつもここに居るよね?」
ああ、彼の声。少し甘くて予想より高い声。僕は初めて目が合って、初めて声を聞いて気が動転していたに違いない。
「僕、あなたのストーカーなんです。」
空気に消えて行く僕の言葉はもう取り返せない。彼は少し目を見開いたけれど、クスッと笑って言った。
「そっか。ストーカーの割には、ただ見送ってくれるだけなんだね。だったら俺の方も君のストーカーかもしれない。君に会いたくて、この時間にここを通れる様に頑張ってるから。」
そう言って彼は笑った。そっか、彼って自分の事俺って言うのか。僕はもうひとつ彼の事を知った。
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