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ヴィレスクの地へ
領地への旅
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馬車から見えるのは青々と茂った小麦畑だった。見渡す限り絨毯の様に左右に波打っている。所々色味が違うのがまるでパッチワークの様で、僕はじっとその争いとは無縁の、平和そのものの景色を飽きることなく見つめていた。
「エドワード、この国には戦争はないの?」
僕は自分の剣の手入れに余念がないエドワードに尋ねた。揺れる馬車の中で手入れするのは危険だと思うのだけど、流石にこの長閑な田園の中、真っ直ぐな道を走る分には大丈夫な気がしていた。
エドワードは手を止めて顔を上げると、キラリと目を光らせて僕を見た。
「何?唐突に。…歴史の授業がまだなんだっけ。暇だから授業をしてやろうか。この国の貴族がどうして基本騎士を目指すか分かるか?それはかつて戦争があったからだよ。もっともそれも100年ほど前の話だけどね。
当時新興国であったサギの国が、国境を跨いで我が国に侵略してきたんだ。その頃と言えば、王族間の婚姻が盛んだったこともあって、結果隣国同士親戚みたいなものだったから、まさか他国が攻めてくるなんて思いもしなかったと思うよ。
サギの国は新興国だけあって、武力で下からのしあがって王になったガッシュ王が凄まじい戦略家だったんだ。ぼんやりしていた我が国はあっという間に国境付近を抑えられて、じわじわと侵略を受けてしまった。」
僕はハッと目を見開いてエドワードに尋ねた。
「それってもしかして三翼の戦い?」
エドワードはニカっと笑って頷いた。
「サミュエルは読書家だな。図書室で読んだのか?あれは史実を元に書かれた子供向きの物語なんだ。俺も大好きで何度も読んだ。三翼は今の二つの公爵家と辺境伯の事だよ。」
僕は目をつぶって、額に指をつけて呟いた。
「…ベルシック公爵、ポート公爵、バッファー辺境伯…でしょ?」
エドワードはご機嫌に笑って言った。
「さすが勉強の虫、だな?その三家が踏ん張ってくれたお陰で、今も我がグレイス国は安泰なんだ。物語では、新興国の王族は滅ぼされたと書いてあるけど、実際はどうなんだろうな。密かに恨みを抱えてこの国に入っているかもしれないね。」
僕は自分がこのまま騎士になったとしたら、状況次第では剣を取って戦うのかもしれないと、不安と少しの興奮を感じた。そんな僕をみて、エドワードは笑って言った。
「ハハ、脅かしすぎちゃったかな?その時以来、我が国の戦闘力は周辺国と比べても引けを取らない。昔の様にはならないさ。何かあっても、サミュエルの細腕には期待しないって。俺が守ってやるよ。
まぁ、これを知ったら剣の訓練も意味が違って、やる気が出てくるだろ?」
そう言って僕にウィンクしたんだ。
「エドワード、この国には戦争はないの?」
僕は自分の剣の手入れに余念がないエドワードに尋ねた。揺れる馬車の中で手入れするのは危険だと思うのだけど、流石にこの長閑な田園の中、真っ直ぐな道を走る分には大丈夫な気がしていた。
エドワードは手を止めて顔を上げると、キラリと目を光らせて僕を見た。
「何?唐突に。…歴史の授業がまだなんだっけ。暇だから授業をしてやろうか。この国の貴族がどうして基本騎士を目指すか分かるか?それはかつて戦争があったからだよ。もっともそれも100年ほど前の話だけどね。
当時新興国であったサギの国が、国境を跨いで我が国に侵略してきたんだ。その頃と言えば、王族間の婚姻が盛んだったこともあって、結果隣国同士親戚みたいなものだったから、まさか他国が攻めてくるなんて思いもしなかったと思うよ。
サギの国は新興国だけあって、武力で下からのしあがって王になったガッシュ王が凄まじい戦略家だったんだ。ぼんやりしていた我が国はあっという間に国境付近を抑えられて、じわじわと侵略を受けてしまった。」
僕はハッと目を見開いてエドワードに尋ねた。
「それってもしかして三翼の戦い?」
エドワードはニカっと笑って頷いた。
「サミュエルは読書家だな。図書室で読んだのか?あれは史実を元に書かれた子供向きの物語なんだ。俺も大好きで何度も読んだ。三翼は今の二つの公爵家と辺境伯の事だよ。」
僕は目をつぶって、額に指をつけて呟いた。
「…ベルシック公爵、ポート公爵、バッファー辺境伯…でしょ?」
エドワードはご機嫌に笑って言った。
「さすが勉強の虫、だな?その三家が踏ん張ってくれたお陰で、今も我がグレイス国は安泰なんだ。物語では、新興国の王族は滅ぼされたと書いてあるけど、実際はどうなんだろうな。密かに恨みを抱えてこの国に入っているかもしれないね。」
僕は自分がこのまま騎士になったとしたら、状況次第では剣を取って戦うのかもしれないと、不安と少しの興奮を感じた。そんな僕をみて、エドワードは笑って言った。
「ハハ、脅かしすぎちゃったかな?その時以来、我が国の戦闘力は周辺国と比べても引けを取らない。昔の様にはならないさ。何かあっても、サミュエルの細腕には期待しないって。俺が守ってやるよ。
まぁ、これを知ったら剣の訓練も意味が違って、やる気が出てくるだろ?」
そう言って僕にウィンクしたんだ。
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