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異世界の孤児院

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立派な教会と裏腹に裏手のジメジメとした陰になる場所にそれはあった。
「なんだか健康に悪そうな場所ですね。カビとか生えそうだし。」
「それは当然、この世界、この国では孤児は人扱いされていないんだよ。」
「え?どう言う意味ですか?」
「この世界では子供は親の仕事を受け継ぐことがほとんどだ、故に親の無い子に仕事を教える者はほとんどいない。仕事が無ければ人の嫌がることか危ない仕事しかない。」
「汚くて危険な仕事ですか?」
「そう、一番良くて冒険者だ。それ以外は犯罪者にしかなれないだろうな。」
「冒険者か犯罪者。でも冒険者ならそこそこ食べていけるのでは?」
「それは才能があってそれを伸ばせる環境がある子供に言えることで、才能もなくあってもそれを活かせなければ底辺で生きるしか無いそれも若いうちだけだな。歳を取れば怪我や病気になり生活が破綻するだろう。」
「そんな、国はなにもしてくれないんですか?」
「しているじゃ無いか。僅かでも食事と寝床を与えている、ここがそれだ。」
「でも・・・。」
私はやりきれない気持ちで孤児院の扉を潜った。直ぐに湿ったカビ臭くすえた匂いが鼻につく。
「ん!臭いわね。」
思わずそう口にして薄暗い部屋に目がなれると、目の前に30人ほどの血色が悪く痩せて生気がない子供がジッと私をみていた。
「ヒーッ!ごめんなさい。」
思わず私は謝罪を口にしたが、何に対しての謝罪だったのだろう。

「恵くん、クリアーを掛けてくれないか。できればヒールも。」
と部長に言われた私は、「はい直ぐに」と言いながら
「オールクリアー、キュアアンドヒール。」
と魔力を込めながら魔法を発動した。
「「おおー。」」
と言うどよめきのような声が子供らから漏れて、いかにも新鮮で気持ちの良い風が室内を吹き抜けた。

「良いね君。よし今度は僕の番だ、みんな席に着いて食事だよ。」
と言うと部長は収納からまだ暖かい湯気を立てている食事を次々に取り出して、子供たちの前に並べ始めた。
すると何処にいたのか3人ほどのシスターが現れ、子供達に料理を分け与え始めた。
皆に料理が行き届くと部長が
「今日は創造神様のお告げがあった祝いだ。皆お腹いっぱい食べなさい。」
と声をかけて食事が始まった。
シスターたちは創造神様と言う言葉にざわつきはしたが、慣れた感じで子供の世話をしていた。

その様子を見ていた部長が
「さあ恵くん、場所を変えるよ。」
と私を奥の部屋に連れ出した。


ーー 孤児院院長室にて ーー


奥の廊下を進むと突き当たりに[院長室]と書かれた部屋のドアが、扉をノックする部長。
「どうぞ」
と言う声が中から聞こえた、部長は扉を開けて黙って中に入る、私もそれに続く。
50歳くらいの優しそうな女性が大きな机に座っていた。
「いらっしゃいませ、クレナイ様。後ろの方は新しい使徒様でしょうか?」
と言う言葉に
「何度も言っているでしょう、私は使徒ではありませんよ。でも後ろの恵くんは創造神の加護をもらったようですが。」
と答える部長の言葉に女性は目を見開き
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私は当孤児院の院長をしているアベマリスと言います。恵様とおっしゃるのですね使徒様は。」
と私に深く頭を下げる姿に慌てて
「そんな大それた者ではありません、少しだけ平和と娯楽を与えて欲しいと頼まれただけです。」
「やっぱり使徒様ですね、分かりました私の出来ることはいくらでもお手伝いさせてもらいます。」
と言いながら私の手を取り躓くと額に押し当てたのです。
「ええ、どうしましょう。」
狼狽えている私をニマニマしながら見ていた部長が、
「院長、その辺で話を続けますよ。」
と言うとやって解放された私、部長とソファーに腰掛けてシスターの持ってきたお茶を口にする。
『このお茶、おいしく無いわ。香りも味もしない色のついたお湯みたい。』と思っていると
「おいしく無いだろ。院長室のお茶がこれだ、後は考えるまでも無い。そこで僕はこの孤児院にたまに寄付をするのさ、新婦に渡したもの以外で。」
と言う部長の言葉に教会に入る際に神父に渡したお金は孤児に渡ることはないんだ、と知った。

「部長ならもっと多くの寄付ができたのでは?」
と言う私の疑問に
「多く渡してもその金が神父に取られては何にもならないだろ。だから子供にはわざと小汚い姿で太らない程度に食事を与えているのさ。」
と答える部長の言葉に私は、先程までの子供達の正気のない痩せ細った姿が、演技であることを知った。
「それで院長、後輩の恵くんが来ることができるようになったので、計画を実行しようと思いまして。問題ありませんか?」
と言う部長に笑顔で頷く院長。
私は訳がわからないまま
「計画というのは?」
と口にしていた。
「子供たちを独り立ちするための施設を作るのさ。その為には子供達にお金を稼げる仕事やスキルを身に付けさせなければならない。いわゆる職業訓練校のようなものだ、出来ればそこで生産された品物が施設運営を賄うほどになって欲しいけどね。」
という答えだった、立派なことだ。
部長は異世界でそんなことまでしていたんだ、私のそのお手伝いをしようとその時決心した。


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