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プロローグと初めてのお使い
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ーー プロローグ
呼吸をするのがきつい。
「うまく息が吸えない・・・もうダメかもしれない。」
僕は長年体を横たえているこのベッドの上で、人生が終わるのを感じていた。
明日で確か15歳になるはずだった。この病院のベットに寝起きして10年以上経っているはず。
生まれた頃から病弱だった僕。小学校も中学校も行くことなくその短い人生が終わるらしい。
もし今度生まれ変わるのならせめて思いっきり走ったり、泳いだりしてみたい。
いやもっと何かをしてみたい。そう誰も聞いていない病室で薄れゆく意識の中、生まれ変わりを望みながら意識がブラックアウトする。
体が溶けてなくなるような感覚とドロドロに溶かされるような熱量を感じながら、漂うような感覚の後、僕は一筋の光を見つけた。
光に誘われるように光の中に入ると、持ち上がるような感覚とともに風を感じた。
「これは玉のような元気な男の子ですよ、奥様。」
産婆をしていた女性が出産したばかりの若い女性に、産まれたばかりの赤子をおくるみに包み顔を見せてニコニコしながら声をかけた。
「私の可愛い赤ちゃん。」
女性は満足した顔で我が子を見つめていた。
ーー 新たな人生でも怪我が怖い
僕の名前は、アレン。明日で5歳になる男の子だ。
僕は知っている。前世の記憶があることを。だから!病気や怪我をすることがとても怖い。
外にはできるだけ出ないようにして、暴飲暴食や寝不足などもってのほか、1日1日を大事に過ごしている。
「ぼっちゃま、今日は天気が良いですよ。お外で遊びませんか?散歩もいいですよ。」
15歳くらいのメイドのアリスがいつものように僕を外に連れ出そうと声をかける。
「外に出ると危険がいっぱいだから出ません。魔物が出るかもしれないし転んで怪我をするかもしれないから。」
いつものように僕は答えて本を手に部屋に篭る。
遠くで囁くような声が聞こえる、
「奥様、ぼっちゃまはどうして外に出るのがあんなに嫌なのでしょうか?」
マリアの声だ
「う~ん、身体は丈夫な方だと思うんだけど、とっても病気と怪我を恐れるのよね。」
お母様の声。
僕は今のままで幸せである。体が痛いこともなく呼吸が苦しいわけでもない。歩けるし走ろうと思ば走ることさえできる。でもこの世界は魔法と魔物が存在する世界、普通の体の僕が外に出ればいかなる危険があるかわからない。
この本にも恐ろしい魔物や呪いという防ぐことのできない危険な魔法があることが記載されている。この世界で天寿を全うすることは、以前の人生を送った世界以上に難しいのである。
体を鍛え、魔法をモノにすれば無双できるんじゃないか?そんなことを考えたこともありました。
でも、産まれたばかりの僕には魔法を使うことも、魔物から逃げることもできそうになかったし、誰が教えてくれるのか知らなかった。
最近、5歳になると教会で洗礼を受けるらしく、そこで女神の加籠を受けることや自分のスキルがわかることがあると知った。まずはそれまで家から外に出ないようにしてなければならないと注意をして生活している。
ーー 教会にて洗礼を受ける 特別なスキルはなかったと思う
両親に連れられ教会に向かう。今日は5歳になった子供が教会で洗礼を受ける日。
子供が1人づつ女神像の前にひざまつき、神父に合図で神に祈りを捧げる。
すると特別な子供には「スキル」と言う才能を与えてくださるそうだ。
剣術のスキルを得れば剣が上達しやすく、魔術者のスキルを得れば魔法が上達しやすくなる。そして病気に強い体や人の何倍もの力を得ることも稀にあるそうだ。
僕はできれば「病気に強い体」か「長生きできる体」が欲しいと思いながら女神像の前にひざまづく。
目を瞑り女神に祈った何か強い光が当たったような感覚がしたが、それ以外は変わらなかった。
すると神父様が言う
「残念ながらスキルは頂けなかったようだ。」
と。分かってはいましたそんな都合の良いことがあるなんて・・・少しだけ思っていました。
肩を落としながら歩いて両親の元に戻るとなぜか2人は喜んでいた。僕は
「スキルは頂けなかったそうです。」
と言うとお父様が
「お前は女神の加護があるようだ、それだけで幸せ者さ。」
と僕の知らないことを言いながらお母様と笑いながら僕の頭を大きな手でポンポンと叩いた。
その日の夜、僕は寝る前にあることを試してみた
「ステータスオープン」
と唱える!すると目の前にあのラベノのステータスが現れた。
アレン=マクガイヤー 5歳 男 ヒューマン レベル 1
HP 005/♾ MP 005/♾ 力 005 速さ 005
状態異常完全無効 女神の加護(神)
スキル
「5」!、HPとMPが5しかない力や速さも5、レベルは1!
これじゃ外に出たら転んだだけで死んでしまう。
スキルは何も無い、状態異常完全無効という意味がよくわからない。
どちらにしても僕は、この世界においても貧弱な体で生まれたようだ。
2度とステータスを見たいと思わないとその時決心した。
ーー 意を決して外に出る やっぱり出なきゃよかった
このままでは転んだだけで死んでしまうと実感した僕は、体を鍛えることにした。ただ室内で。
今日も朝起きるとそっとベッドから降りる。勢いよくベッドから降りると足の骨を折る可能性があるからだ。
周りに危険なものがないことを確認し、枕や毛布を周りに置いて腕立て伏せから始める。
初めの頃でも軽く1000回は出来た。でも子供の体は軽いし手足は短いから誰でもできるよねきっと。
次に逆立ち、これは転ぶと非常に危険な技だ。周りに布団や毛布を敷き詰め倒れていいようにしてから始める。
これもはじめはできなかったが今では3時間くらいできるし、片手でもできるようになったが小さな子供の体だからと思う。
昔の記憶でも幼稚園児がバク転や倒立をする映像を見たことがよくあった、誰でも出来ることだよね。
軽く汗をかいてタオルで汗を拭くと着替えを始める。メイドのアリスが来る前に着替えていないと、アリスの手で着替えさせられるのは恥ずかしいから。
着替えが済むとちょうどドアが開くのと「チェ」アリスの舌打ちが聞こえた。
「おはようございます、アレン様。今日もお早いですね。」
嫌味な口調で部屋に散らかった布団や毛布を片付ける。
「いつも寝具が散らかっているのはなぜ?」
呟くような声。
朝食後に柔軟体操をして、捻挫やアキレス腱を切ることがないように体を温める。
次は木刀を振る少しずつ重りをつけながら回数と早さをあげれるようにしている。最近では空気を切るような音が少し変わってきているし、他のものから「剣が見えないほど早い。」とおべっかを言われるようになったが、信じて慢心してはいけない。
汗を掻くまですると着替えて勉強をする。
この世界には魔法や魔物がいるのだ。危険を知ってこそ長生きができるのである。少したりとも聞き逃すことのないように真剣に勉強をする。
昼食を挟んだ後午後は、貴族としての勉強と魔法の研鑽。僕の家は公爵家で唯一の跡取りが僕である。
お父様は、日々忙しく仕事をしていて顔を見るのも10日に一度か二度程度。
お母様はお茶会やパティーなどによく呼ばれるため、朝に顔を見れればいい方。そんな僕の相手は専属メイドのアリスと家庭教師の先生達。
このような日々を過ごしていたが、剣術を教えてくださる教師が来て開口一番に
「そんな青白い顔では立派な貴族にはなれん。まずは体力作りから外に出て走り込みだ。」
と言いながら僕を抱えて家の外に!
産まれてこの方家の外に出た記憶は片手に余るほど。どんな危険が潜んでいるかわからない外界に連れ出されたがそこで僕は思った。
「今日は剣術の先生が一緒だ、危険なことは先生が排除してくれるはず。」
と、恐る恐る廻りを見渡すといつのまにか景色が変わっていた。いや僕の背が伸びたため視界が変わったのだ。
「まずは俺について走れ!」
と言いながら走り出す先生。
それについて走り出そうと足を強く踏み出すと!穴に足がハマり転んでいた。
「えー!」
今の今まで穴なんかなかったのに踏み出した足に合わせるような穴がスネほどの深さである。
転んだ拍子に顔や頭を地面に打ち付けたようだが痛くはなかった。しかし足の穴から僕の背丈ほどの距離にデスマスクをかたどった穴が開いている?
s走り出す。僕は用心しながらゆっくりと後をつけるように早足でついて行く。
安全を考えれば、足を地面からなるべく離さないほうがいい。
そこで僕は過去の記憶から競歩のスタイルを思い出し、競歩のスタイルで先生について行く。先生は後ろを振り返りながら変な顔をしていたが少しずつ速度を上げる。
尻を思いっきり振りながら競歩でついて行く僕と、何かを恐れるような顔の先生。かなりの速度で歩く僕を引き離せない先生が1時間後へたり込んでしまった。
「如何してそんなきみの悪い歩き方で追いつけるんだ。」
と呟いた後、先生は「今日はこれまで」といって帰っていった。
そのあと取り残された僕は、意外と外でも大丈夫ではないかと慢心の心が湧いてきました。
今度は駆け足程度に走ってみても大丈夫ではと蹴り足を少し強めに力を入れた途端、目の前が真っ黒に。
僕は庭の周りに立っていた立木に衝突していたのです。覆いかぶさる折れた大木を他所に退け起き上がると、自分の慢心がこのような自体を引き起こしたのだとわかり
「外では油断は禁物、まだまだダメだ。」
と心に誓い部屋に帰りました。
ーメイドのアリス サイド
本日はアレンぼっちゃまの剣術の先生が来る日です。今までぼっちゃまは数えるほどしか屋敷の外に出たことがありません。今日は先生が外に連れ出してくれるのを期待して見ています。
かけっこをするようです。先生の後についてぼっちゃまが走り出そうとしたところで砂埃がまいました。
埃が晴れるとぼっちゃまが地面に倒れています片足がすねまで土に潜っています。あんな所に穴があったとは気づきませんでした。
慌てて怪我を確認しようと飛び出そうとしたところで、先生から手で制する合図。ここはグッと我慢です。
ぼっちゃまは怪我をしていないようです。というかぼっちゃまが怪我をしたり病気になった記憶は全くありません。
心配症なぼっちゃまは、今度は早歩きで先生の後をついて行くようです。
何故かぼっちゃまのお尻が左右に激しく揺れています。かなりの速度で歩いているのがわかりますが気持ち悪いです。
先生も逃げるように駆け足の速度を上げますが、ぼっちゃまは気持ち悪い歩きで追いついてゆきます。60分ほど経ったところで先生がダウンしました。
1人になった坊ちゃまが、今度は走るようです!また砂埃が起きてぼっちゃまの姿が消えました。
探していると遠くの庭木が折れているのが見えますかなりの大木です。
目を凝らしてみると大木が動き出して、下からぼっちゃまが立ち上がっていました。
私の推理では、ぼっちゃまは信じられないほどの身体能力をお持ちで、それを使いこなせてはないのではと考えます。
だってあんな大木に衝突して木を折り、その木を持ち上げるなど常人に出来るはずがありません。怪我すらしていないようです。これは奥様に報告しておきましょう。
ポケットからおやつのクッキーを取り出しかじりながら報告内容をまとめる私でした。
ーー 魔法を発動する やっぱり危険がいっぱい
次の日、魔法の先生がこう言いました。
「今日は外で実際に魔法の発動をしてみましょう。」
と言いながら僕を外の中庭へと連れて行く。そこには約30m先に人型と丸型の的が10個ほど立っていた。
先生は的の一つを指差し
「見ておいてください。火の精霊よ集いて我に力を与えん、ファイアーボール。」
と指を的に向け詠唱すると、バレーボール大の火の玉が的に向け飛び出し的を焦がす。
「さあ、今のように火の精霊に語りかけながら詠唱し、魔法を発動してみなさい。」
と僕に真似をするようにいう。
確かにこれまでの座学で魔力を感じることができ、体の中を循環することが出来るようになってきてはいましたが不安があります。
あの魔力が体内で暴発したら又は的以外の方向に飛んで人を傷つけしたりしないかという不安。
先ずは人に被害がない上空に向けて小さい炎を飛ばしてみよう。
臍の下から魔力を動かし、右の指先に集めながらイメージを作り上げる。
拳大の火の玉をイメージ。
真っ赤なものより青白いほうが温度が低そうだから。青白い炎のイメージを構築し、早く飛ばさないと遅いと誰かがくるかもしれない。また当たるかもしれないので、一瞬で目的地に到達するイメージで頭上に魔法を放った。「あっ、詠唱するのを忘れていた。」
魔法は詠唱しなければ発動しないので今回は不発ですね。も一度魔法をと準備していると目の前に5mほどのトカゲに羽の生えたような魔物が落ちてきました。
この魔物は本によると亜竜と呼ばれ、かなりの高ランクな魔物だった記憶があります。それが腹を真っ黒に焦がして穴まで開けて死んでいます。
何があったのか不明ですが、今日はこの辺りの空は危険なようです。
先生が慌てて屋敷に避難するようにと叫んでいます。
今日の魔法の授業はこれまでのようです。
「やっぱり外は危険がいっぱいです。今度からは空まで警戒しなければならないと戒めて引きこもります。」
ーメイドのアリス サイド
今日のぼっちゃまの授業は魔法の実践のようです。
中庭に先生と出てきたぼっちゃま。先生の魔法の真似をするようです。
さすが先生です的目掛けて炎が走ります、的に当たると的が焦げています。
ぼっちゃまの番です、集中しているのが分かります。
手を的に向けて・・・いや空に・・頭の上を指差し何かが青白く光ったかと思うと空気を割くような音がして。真上に光が伸びて消えました!なんだったのでしょう?
どうも失敗のようですもう一度魔法を詠唱し始め・・・「ドスン」何かが空から落ちてきました。
落ちてきたのは、凶悪な魔物で有名なワイバーンのようです。
それもかなり大きなもので既に死んでいるようです。先生とぼっちゃまは屋敷に避難しました。
私は庭師のコン爺と護衛のサンダーについて行き魔物を確認します。
腹に拳大の穴と周りに焦げた匂いが立ち込めています。
私にはぼっちゃまの最初の魔法で何か光るものが空に飛び出したように見えたので、それが当たったのではないかと想像しましたが。賢者様や勇者様の物語にしかそんな凄い魔法が出てきません。きっと仲間割れかはぐれ竜にでも襲われたのでしょう。
奥様にはなんと報告すればいいのかお茶を飲みながら考えなければ。
ーー ある日の剣術訓練 ー
外での剣術訓練も回数をこなすほどに、安心してできるようになったが先生がおかしなことをよく言う。
「斬撃を飛ばしてはいけません。木刀で鎧を斬ってはいけません。木剣に炎や電撃を纏わせてはいけません。」
と言うのです。
僕は少しでも早く振り抜こうとしているだけで何かを飛ばしたりしていません。鎧を叩く訓練でも木剣が当たれば激しい衝撃が僕のひ弱な腕に跳ね返ることが想像できます。ギリギリの距離で掠るように木剣を振るっているのに勝手に鎧が崩れ落ちるのです。
火や電撃が木剣に絡み付いていると先生は言うけど、僕にはよくわかりません。
初めの頃は先生も僕と打ち合うような訓練をしようとしていたのに、今では決して僕の前に立ってくれません。多分僕には素質がないんだよ思います。
ーー メイドアリス サイド ー
今日も坊っちゃまは剣術の訓練を真剣にしております。
最近聞くところによると坊っちゃまの剣は、あまりの速さのため火や電気を纏っていると言われています。
恐る恐る木剣で鉄の鎧を叩くおぼっちゃま。何か木刀の先から飛び出し鎧を切り飛ばしています!
御坊ちゃまは気づいていないけど、剣聖様や勇者様も同じ様な斬撃が飛んでいたと物語で読んだことがります。先生も坊っちゃまの前には決して立つことはありません。
今日のお茶菓子は少し硬いです。奥様に違うお菓子を頼んでみましょう。
ーー 母 モンゴメリー
メイドのアリスから息子アレンの日常の状況報告が上がって来ますが。本当なのでしょうか、少し誇張いや物語でも呼んで勘違いしているのではないでしょうか。今日の報告にもお菓子が固かったと書いてあるし、何か勘違いしている恐れがあります。
私ももう少しアレンの側にいて、世話を焼いてあげたいところですが。立場がそれを邪魔しています。
家庭教師にと雇った先生達もすぐに「もう教えることがありません。」とか言って一月として保つ人はいません。
あの子は幼い頃から怖がりで、家に篭りきりの子供だったので少しでも外で遊んで欲しいのだけど。
とりあえず、アリスにお菓子を送ってもう少し詳しく報告させましょう。
ーー 剣術教師 ゴメス サイド
公爵家の5歳の御曹司の剣術指南と聞いて『簡単で利益のあるしごと。』と思い二つ返事で受けた仕事であったが間違いであった。
彼は、自分のことを何もできないダメ人間的な感じで語っているが、私に言わせれば『とんでもない化け物』である。
あのフルプレートの鎧的を斬撃を飛ばして切り裂くのは、剣聖様クラスの実力者と言えよう。しかも自分には実力がないと思い込んでいるため、私と立ち合いの訓練を求めたがる。そんなことしたら私の体は切り刻まれる未来しかない。
明日にでも公爵様に辞意を伝えよう。
ーー 5歳児の大冒険?
ある日アレンは、新しい武術の家庭教師からこんな課題を与えられた。
「この屋敷から1人であそこに見える森の入り口まで行って帰って来てください。その際森に行った事を証明する物を持ち帰って下さい。」
という課題にアレンは
『多分先生達は、こっそり僕の後をつけて見守るつもりなのだろう。』
と思い込み、
「はい頑張ってみます。」
と答えたた。
次の日、お弁当を持ってアレンは屋敷を出る。
屋敷からたった1人で外に出るのはこれが初めての体験。
森までの距離約10km、5歳児の足で往復して夕方には帰れるということは、片道3時間くらいだろう。
ただ、これは訓練なので昼ごはんを食べたらできるだけ早く帰ってこよう。
と思いながら歩いていると、大通りの露店が見えてきた。
『こういうのを見るのも意外と興奮するな。』と思いながら歩くと。
強面の男達が僕の周りを取り囲むように現れた。
『これはどう言うドッキリだろう。』と考えていたら。
「小僧、ビビって声も出せないのか。」
と言いながら、腕を掴んで引きずろうとした。
「何だこいつ!びともしやがらね。」
腕を掴んだ男が大袈裟に騒ぐ。すると別の男が手伝い2人掛で腕を引っ張るも、びくともしない子供に恐怖を感じ始めたところで。
子供が手を振り解いた。すると大の男2人が吹き飛ばされ、露天の店を直撃して気絶していた。
「おい。逃げるぞ。」
他の男がそう言うと気絶した男らを担いで姿を消した。
僕は、『面白いところに行くと思って、自分で歩こうとしたのに。』と不満を感じたが。
このドッキリも悪くはなかったと思い森へ急いだ。
◇
街を抜け街道に出ると、周囲の風景は農村の風景に変わった。
少しばかり急ごうと僕は走りだした。
周りの風景が飛ぶように流れる。するとものの10分ほどで、森のすぐ近くにたどり着いた。
『確か何か証明になる物を持って来いと言われたよな。』と課題を思い出し、何かないかと見ていたら。
僕より少しばかり大きな小鬼(ゴブリン)が森から出てきた。
『これは子供に色を塗って、僕を驚かせようと言うドッキリだな。』
とその趣旨を看破した僕は、襲い掛かるように木の棒を振り回す、ゴブリン役を軽く突き飛ばした。
ゴブリン役は、飛ぶように森の中へ。
『見事なやられ役だ。』と感心した。
次に現れたのは、豚の顔をした鬼(オーク)だ。
『これは、ちょっと太ったおじさんを役に選んだみたいだが、大丈夫かな。』と思いながら、これにも軽く平手で打ち据えた。
飛ぶように森に消えるおじさんを見ながら、何を持って戻ろう。
そう考えていたら、空から翼竜のような鳥が舞い降りてきた。
『凄いこの世界にも、ジュラシック○ールド的な特殊メイクやロボットがあるんだ。』と思いその翼竜(ワイバーン)の尻尾を掴み、2、3度振り回してから引きずり出した。
『これを持って帰れば、流石にドッキリが失敗したと気づくだろう。』
と子供ながらワクワクしながら、街に戻っていった。
途中、すれ違った旅人が驚いた顔で二度見していたが。
『あの人も、僕をそっとも守る役の人だな。ドッキリがばれて急いで街に帰っている。』と分かった。
街の門が見えてきた所で、大勢の兵隊が騒いでいた。
中に僕の知っている、騎士団の人も居た。
僕は思わず、持っていたロボット(ワイバーン)を持つ腕を振りながら出迎えに答えた。
人の海が二つに割れるように道を作り、僕はその中を歩いて屋敷に戻った。
◇
公爵家屋敷。
アリスが屋敷の門の所で待っていた。
「アリスただいま。新しい武術の先生は居るかい?」
と聞くと、アリスが申し訳なさそうに
「ほんの今さっき、何か用事があるとか言われて・・」
と言葉を濁した。
『多分、僕にドッキリが見破られたもんで次のドッキリを考えるために帰ったんだな。』と思った。
しょうがないので、持ち帰ったロボット(ワイバーン)を庭に置いて屋敷に入ったのだった。
ーー 武術の家庭教師シワン サイド
今回、5歳児の武術指南として公爵家に依頼を受けたが、ハッキリ言って馬鹿らしい仕事だ。
俺は王都での武術大会でもベスト3に入る豪の者だ。それが5歳児の・・・。
ムカついて思わず
「森に行ってその証拠を持ち帰ること。」
と言ってしまった。
屋敷さえほとんど出た事がない5歳児に裏山に行けと。
多分すぐに怖がって泣いて帰ってくるだろう、と思い先回りして裏山で待っていた。
すると中々来ない。
『まさか屋敷すら出られず泣いているのか?』
と思い。戻り始めた頃、騒ぎに気づいた。
商人が公爵家に駆け込み、
「御子息が・・ワイバーンを引きずって街に戻って来ています。」
と言うのだ。意味がわからんと思い、街の門の所まで見に行くと既に多くの人が集まっていた。
人をかき分け見ると、本当にあの子供がワイバーンを引きづりながら歩いている。
俺はその時前任の武術指導の男の言葉を思い出した。
「公爵家の坊ちゃんには気を付けろ。正面に立つと斬られるぞ。」と意味不明なことを言っていたが・・・今その意味がわかった。
俺はすぐに公爵家にかけ戻り
「一身上の都合により、辞めさせてもらいます。」
と言うなり屋敷を飛び出したのだ。
ーー アリス サイド
また、坊っちゃまがやらかしました。
今度はワイバーンを捕まえて歩いて戻ってきたようで、街中が大騒ぎです。
屋敷の門の前で出迎えると、本当にワイバーンの尻尾を掴んで引きずって帰ってきました。
坊っちゃまは、新しい武術の先生の言い付けを間違って聞いていたようで。
「先生は居るかい?」
と聞いてきたので、事情があると言って帰ったと答えると。
「・・ドッキリが・・。」
何かぶつぶつ言って、屋敷に入っていかれました。
当然ワイバーンは庭先に放って行きましたが。
この後騎士団長が、その様子を見ながら
「このワイバーン、首をへし折られているな。他に傷らしいところもない完全体だ。」
と喜んで出入り商人に競売を依頼していた。
更に警ら隊の隊長が、
「坊っちゃまが、街中で暴漢を退治したようで怪我した男どもを捕まえている。」
と執事に報告していた。
ここまで来れば、如何に信じない奥様でも信じるしかないよね。
と思い急ぎ手紙を出した私。
ーー 公爵と公爵夫人
3日後、珍しくお父様が王都からお母様と帰ってきた。
僕を呼ぶと
「アレンこの間の事を説明してくれるかい。」
お父様がそう優しく聞いたきた。
「この間の事を・・あ!そうか。役者やロボットのことだね。」
と言うと
「役者・・ロボット?よく分からんが多分そうだ。」
と答えるお父様。
「皆んなして僕を驚かせようと、色々してくれるんだよ。でもねやりすぎじゃないかと思っているんだ。」
と言いながら、僕は屋敷を出てからの話を両親に聞かせた。
「・・・それでアレンは、皆役者だと思っているのかい。」
とお父様が聞くので。
「当然ですよ。5歳児に投げられる大人や空を飛ぶ翼竜を捕まえられる訳がないでしょう。」
と真顔で答えると。お父様は
「アレンお前を王都の学園に入学させる。そこで普通とは何か知りなさい。」
と言われた。意味がよく分からないが学園に入れるようだ、友達ができるといいな。と思った。
呼吸をするのがきつい。
「うまく息が吸えない・・・もうダメかもしれない。」
僕は長年体を横たえているこのベッドの上で、人生が終わるのを感じていた。
明日で確か15歳になるはずだった。この病院のベットに寝起きして10年以上経っているはず。
生まれた頃から病弱だった僕。小学校も中学校も行くことなくその短い人生が終わるらしい。
もし今度生まれ変わるのならせめて思いっきり走ったり、泳いだりしてみたい。
いやもっと何かをしてみたい。そう誰も聞いていない病室で薄れゆく意識の中、生まれ変わりを望みながら意識がブラックアウトする。
体が溶けてなくなるような感覚とドロドロに溶かされるような熱量を感じながら、漂うような感覚の後、僕は一筋の光を見つけた。
光に誘われるように光の中に入ると、持ち上がるような感覚とともに風を感じた。
「これは玉のような元気な男の子ですよ、奥様。」
産婆をしていた女性が出産したばかりの若い女性に、産まれたばかりの赤子をおくるみに包み顔を見せてニコニコしながら声をかけた。
「私の可愛い赤ちゃん。」
女性は満足した顔で我が子を見つめていた。
ーー 新たな人生でも怪我が怖い
僕の名前は、アレン。明日で5歳になる男の子だ。
僕は知っている。前世の記憶があることを。だから!病気や怪我をすることがとても怖い。
外にはできるだけ出ないようにして、暴飲暴食や寝不足などもってのほか、1日1日を大事に過ごしている。
「ぼっちゃま、今日は天気が良いですよ。お外で遊びませんか?散歩もいいですよ。」
15歳くらいのメイドのアリスがいつものように僕を外に連れ出そうと声をかける。
「外に出ると危険がいっぱいだから出ません。魔物が出るかもしれないし転んで怪我をするかもしれないから。」
いつものように僕は答えて本を手に部屋に篭る。
遠くで囁くような声が聞こえる、
「奥様、ぼっちゃまはどうして外に出るのがあんなに嫌なのでしょうか?」
マリアの声だ
「う~ん、身体は丈夫な方だと思うんだけど、とっても病気と怪我を恐れるのよね。」
お母様の声。
僕は今のままで幸せである。体が痛いこともなく呼吸が苦しいわけでもない。歩けるし走ろうと思ば走ることさえできる。でもこの世界は魔法と魔物が存在する世界、普通の体の僕が外に出ればいかなる危険があるかわからない。
この本にも恐ろしい魔物や呪いという防ぐことのできない危険な魔法があることが記載されている。この世界で天寿を全うすることは、以前の人生を送った世界以上に難しいのである。
体を鍛え、魔法をモノにすれば無双できるんじゃないか?そんなことを考えたこともありました。
でも、産まれたばかりの僕には魔法を使うことも、魔物から逃げることもできそうになかったし、誰が教えてくれるのか知らなかった。
最近、5歳になると教会で洗礼を受けるらしく、そこで女神の加籠を受けることや自分のスキルがわかることがあると知った。まずはそれまで家から外に出ないようにしてなければならないと注意をして生活している。
ーー 教会にて洗礼を受ける 特別なスキルはなかったと思う
両親に連れられ教会に向かう。今日は5歳になった子供が教会で洗礼を受ける日。
子供が1人づつ女神像の前にひざまつき、神父に合図で神に祈りを捧げる。
すると特別な子供には「スキル」と言う才能を与えてくださるそうだ。
剣術のスキルを得れば剣が上達しやすく、魔術者のスキルを得れば魔法が上達しやすくなる。そして病気に強い体や人の何倍もの力を得ることも稀にあるそうだ。
僕はできれば「病気に強い体」か「長生きできる体」が欲しいと思いながら女神像の前にひざまづく。
目を瞑り女神に祈った何か強い光が当たったような感覚がしたが、それ以外は変わらなかった。
すると神父様が言う
「残念ながらスキルは頂けなかったようだ。」
と。分かってはいましたそんな都合の良いことがあるなんて・・・少しだけ思っていました。
肩を落としながら歩いて両親の元に戻るとなぜか2人は喜んでいた。僕は
「スキルは頂けなかったそうです。」
と言うとお父様が
「お前は女神の加護があるようだ、それだけで幸せ者さ。」
と僕の知らないことを言いながらお母様と笑いながら僕の頭を大きな手でポンポンと叩いた。
その日の夜、僕は寝る前にあることを試してみた
「ステータスオープン」
と唱える!すると目の前にあのラベノのステータスが現れた。
アレン=マクガイヤー 5歳 男 ヒューマン レベル 1
HP 005/♾ MP 005/♾ 力 005 速さ 005
状態異常完全無効 女神の加護(神)
スキル
「5」!、HPとMPが5しかない力や速さも5、レベルは1!
これじゃ外に出たら転んだだけで死んでしまう。
スキルは何も無い、状態異常完全無効という意味がよくわからない。
どちらにしても僕は、この世界においても貧弱な体で生まれたようだ。
2度とステータスを見たいと思わないとその時決心した。
ーー 意を決して外に出る やっぱり出なきゃよかった
このままでは転んだだけで死んでしまうと実感した僕は、体を鍛えることにした。ただ室内で。
今日も朝起きるとそっとベッドから降りる。勢いよくベッドから降りると足の骨を折る可能性があるからだ。
周りに危険なものがないことを確認し、枕や毛布を周りに置いて腕立て伏せから始める。
初めの頃でも軽く1000回は出来た。でも子供の体は軽いし手足は短いから誰でもできるよねきっと。
次に逆立ち、これは転ぶと非常に危険な技だ。周りに布団や毛布を敷き詰め倒れていいようにしてから始める。
これもはじめはできなかったが今では3時間くらいできるし、片手でもできるようになったが小さな子供の体だからと思う。
昔の記憶でも幼稚園児がバク転や倒立をする映像を見たことがよくあった、誰でも出来ることだよね。
軽く汗をかいてタオルで汗を拭くと着替えを始める。メイドのアリスが来る前に着替えていないと、アリスの手で着替えさせられるのは恥ずかしいから。
着替えが済むとちょうどドアが開くのと「チェ」アリスの舌打ちが聞こえた。
「おはようございます、アレン様。今日もお早いですね。」
嫌味な口調で部屋に散らかった布団や毛布を片付ける。
「いつも寝具が散らかっているのはなぜ?」
呟くような声。
朝食後に柔軟体操をして、捻挫やアキレス腱を切ることがないように体を温める。
次は木刀を振る少しずつ重りをつけながら回数と早さをあげれるようにしている。最近では空気を切るような音が少し変わってきているし、他のものから「剣が見えないほど早い。」とおべっかを言われるようになったが、信じて慢心してはいけない。
汗を掻くまですると着替えて勉強をする。
この世界には魔法や魔物がいるのだ。危険を知ってこそ長生きができるのである。少したりとも聞き逃すことのないように真剣に勉強をする。
昼食を挟んだ後午後は、貴族としての勉強と魔法の研鑽。僕の家は公爵家で唯一の跡取りが僕である。
お父様は、日々忙しく仕事をしていて顔を見るのも10日に一度か二度程度。
お母様はお茶会やパティーなどによく呼ばれるため、朝に顔を見れればいい方。そんな僕の相手は専属メイドのアリスと家庭教師の先生達。
このような日々を過ごしていたが、剣術を教えてくださる教師が来て開口一番に
「そんな青白い顔では立派な貴族にはなれん。まずは体力作りから外に出て走り込みだ。」
と言いながら僕を抱えて家の外に!
産まれてこの方家の外に出た記憶は片手に余るほど。どんな危険が潜んでいるかわからない外界に連れ出されたがそこで僕は思った。
「今日は剣術の先生が一緒だ、危険なことは先生が排除してくれるはず。」
と、恐る恐る廻りを見渡すといつのまにか景色が変わっていた。いや僕の背が伸びたため視界が変わったのだ。
「まずは俺について走れ!」
と言いながら走り出す先生。
それについて走り出そうと足を強く踏み出すと!穴に足がハマり転んでいた。
「えー!」
今の今まで穴なんかなかったのに踏み出した足に合わせるような穴がスネほどの深さである。
転んだ拍子に顔や頭を地面に打ち付けたようだが痛くはなかった。しかし足の穴から僕の背丈ほどの距離にデスマスクをかたどった穴が開いている?
s走り出す。僕は用心しながらゆっくりと後をつけるように早足でついて行く。
安全を考えれば、足を地面からなるべく離さないほうがいい。
そこで僕は過去の記憶から競歩のスタイルを思い出し、競歩のスタイルで先生について行く。先生は後ろを振り返りながら変な顔をしていたが少しずつ速度を上げる。
尻を思いっきり振りながら競歩でついて行く僕と、何かを恐れるような顔の先生。かなりの速度で歩く僕を引き離せない先生が1時間後へたり込んでしまった。
「如何してそんなきみの悪い歩き方で追いつけるんだ。」
と呟いた後、先生は「今日はこれまで」といって帰っていった。
そのあと取り残された僕は、意外と外でも大丈夫ではないかと慢心の心が湧いてきました。
今度は駆け足程度に走ってみても大丈夫ではと蹴り足を少し強めに力を入れた途端、目の前が真っ黒に。
僕は庭の周りに立っていた立木に衝突していたのです。覆いかぶさる折れた大木を他所に退け起き上がると、自分の慢心がこのような自体を引き起こしたのだとわかり
「外では油断は禁物、まだまだダメだ。」
と心に誓い部屋に帰りました。
ーメイドのアリス サイド
本日はアレンぼっちゃまの剣術の先生が来る日です。今までぼっちゃまは数えるほどしか屋敷の外に出たことがありません。今日は先生が外に連れ出してくれるのを期待して見ています。
かけっこをするようです。先生の後についてぼっちゃまが走り出そうとしたところで砂埃がまいました。
埃が晴れるとぼっちゃまが地面に倒れています片足がすねまで土に潜っています。あんな所に穴があったとは気づきませんでした。
慌てて怪我を確認しようと飛び出そうとしたところで、先生から手で制する合図。ここはグッと我慢です。
ぼっちゃまは怪我をしていないようです。というかぼっちゃまが怪我をしたり病気になった記憶は全くありません。
心配症なぼっちゃまは、今度は早歩きで先生の後をついて行くようです。
何故かぼっちゃまのお尻が左右に激しく揺れています。かなりの速度で歩いているのがわかりますが気持ち悪いです。
先生も逃げるように駆け足の速度を上げますが、ぼっちゃまは気持ち悪い歩きで追いついてゆきます。60分ほど経ったところで先生がダウンしました。
1人になった坊ちゃまが、今度は走るようです!また砂埃が起きてぼっちゃまの姿が消えました。
探していると遠くの庭木が折れているのが見えますかなりの大木です。
目を凝らしてみると大木が動き出して、下からぼっちゃまが立ち上がっていました。
私の推理では、ぼっちゃまは信じられないほどの身体能力をお持ちで、それを使いこなせてはないのではと考えます。
だってあんな大木に衝突して木を折り、その木を持ち上げるなど常人に出来るはずがありません。怪我すらしていないようです。これは奥様に報告しておきましょう。
ポケットからおやつのクッキーを取り出しかじりながら報告内容をまとめる私でした。
ーー 魔法を発動する やっぱり危険がいっぱい
次の日、魔法の先生がこう言いました。
「今日は外で実際に魔法の発動をしてみましょう。」
と言いながら僕を外の中庭へと連れて行く。そこには約30m先に人型と丸型の的が10個ほど立っていた。
先生は的の一つを指差し
「見ておいてください。火の精霊よ集いて我に力を与えん、ファイアーボール。」
と指を的に向け詠唱すると、バレーボール大の火の玉が的に向け飛び出し的を焦がす。
「さあ、今のように火の精霊に語りかけながら詠唱し、魔法を発動してみなさい。」
と僕に真似をするようにいう。
確かにこれまでの座学で魔力を感じることができ、体の中を循環することが出来るようになってきてはいましたが不安があります。
あの魔力が体内で暴発したら又は的以外の方向に飛んで人を傷つけしたりしないかという不安。
先ずは人に被害がない上空に向けて小さい炎を飛ばしてみよう。
臍の下から魔力を動かし、右の指先に集めながらイメージを作り上げる。
拳大の火の玉をイメージ。
真っ赤なものより青白いほうが温度が低そうだから。青白い炎のイメージを構築し、早く飛ばさないと遅いと誰かがくるかもしれない。また当たるかもしれないので、一瞬で目的地に到達するイメージで頭上に魔法を放った。「あっ、詠唱するのを忘れていた。」
魔法は詠唱しなければ発動しないので今回は不発ですね。も一度魔法をと準備していると目の前に5mほどのトカゲに羽の生えたような魔物が落ちてきました。
この魔物は本によると亜竜と呼ばれ、かなりの高ランクな魔物だった記憶があります。それが腹を真っ黒に焦がして穴まで開けて死んでいます。
何があったのか不明ですが、今日はこの辺りの空は危険なようです。
先生が慌てて屋敷に避難するようにと叫んでいます。
今日の魔法の授業はこれまでのようです。
「やっぱり外は危険がいっぱいです。今度からは空まで警戒しなければならないと戒めて引きこもります。」
ーメイドのアリス サイド
今日のぼっちゃまの授業は魔法の実践のようです。
中庭に先生と出てきたぼっちゃま。先生の魔法の真似をするようです。
さすが先生です的目掛けて炎が走ります、的に当たると的が焦げています。
ぼっちゃまの番です、集中しているのが分かります。
手を的に向けて・・・いや空に・・頭の上を指差し何かが青白く光ったかと思うと空気を割くような音がして。真上に光が伸びて消えました!なんだったのでしょう?
どうも失敗のようですもう一度魔法を詠唱し始め・・・「ドスン」何かが空から落ちてきました。
落ちてきたのは、凶悪な魔物で有名なワイバーンのようです。
それもかなり大きなもので既に死んでいるようです。先生とぼっちゃまは屋敷に避難しました。
私は庭師のコン爺と護衛のサンダーについて行き魔物を確認します。
腹に拳大の穴と周りに焦げた匂いが立ち込めています。
私にはぼっちゃまの最初の魔法で何か光るものが空に飛び出したように見えたので、それが当たったのではないかと想像しましたが。賢者様や勇者様の物語にしかそんな凄い魔法が出てきません。きっと仲間割れかはぐれ竜にでも襲われたのでしょう。
奥様にはなんと報告すればいいのかお茶を飲みながら考えなければ。
ーー ある日の剣術訓練 ー
外での剣術訓練も回数をこなすほどに、安心してできるようになったが先生がおかしなことをよく言う。
「斬撃を飛ばしてはいけません。木刀で鎧を斬ってはいけません。木剣に炎や電撃を纏わせてはいけません。」
と言うのです。
僕は少しでも早く振り抜こうとしているだけで何かを飛ばしたりしていません。鎧を叩く訓練でも木剣が当たれば激しい衝撃が僕のひ弱な腕に跳ね返ることが想像できます。ギリギリの距離で掠るように木剣を振るっているのに勝手に鎧が崩れ落ちるのです。
火や電撃が木剣に絡み付いていると先生は言うけど、僕にはよくわかりません。
初めの頃は先生も僕と打ち合うような訓練をしようとしていたのに、今では決して僕の前に立ってくれません。多分僕には素質がないんだよ思います。
ーー メイドアリス サイド ー
今日も坊っちゃまは剣術の訓練を真剣にしております。
最近聞くところによると坊っちゃまの剣は、あまりの速さのため火や電気を纏っていると言われています。
恐る恐る木剣で鉄の鎧を叩くおぼっちゃま。何か木刀の先から飛び出し鎧を切り飛ばしています!
御坊ちゃまは気づいていないけど、剣聖様や勇者様も同じ様な斬撃が飛んでいたと物語で読んだことがります。先生も坊っちゃまの前には決して立つことはありません。
今日のお茶菓子は少し硬いです。奥様に違うお菓子を頼んでみましょう。
ーー 母 モンゴメリー
メイドのアリスから息子アレンの日常の状況報告が上がって来ますが。本当なのでしょうか、少し誇張いや物語でも呼んで勘違いしているのではないでしょうか。今日の報告にもお菓子が固かったと書いてあるし、何か勘違いしている恐れがあります。
私ももう少しアレンの側にいて、世話を焼いてあげたいところですが。立場がそれを邪魔しています。
家庭教師にと雇った先生達もすぐに「もう教えることがありません。」とか言って一月として保つ人はいません。
あの子は幼い頃から怖がりで、家に篭りきりの子供だったので少しでも外で遊んで欲しいのだけど。
とりあえず、アリスにお菓子を送ってもう少し詳しく報告させましょう。
ーー 剣術教師 ゴメス サイド
公爵家の5歳の御曹司の剣術指南と聞いて『簡単で利益のあるしごと。』と思い二つ返事で受けた仕事であったが間違いであった。
彼は、自分のことを何もできないダメ人間的な感じで語っているが、私に言わせれば『とんでもない化け物』である。
あのフルプレートの鎧的を斬撃を飛ばして切り裂くのは、剣聖様クラスの実力者と言えよう。しかも自分には実力がないと思い込んでいるため、私と立ち合いの訓練を求めたがる。そんなことしたら私の体は切り刻まれる未来しかない。
明日にでも公爵様に辞意を伝えよう。
ーー 5歳児の大冒険?
ある日アレンは、新しい武術の家庭教師からこんな課題を与えられた。
「この屋敷から1人であそこに見える森の入り口まで行って帰って来てください。その際森に行った事を証明する物を持ち帰って下さい。」
という課題にアレンは
『多分先生達は、こっそり僕の後をつけて見守るつもりなのだろう。』
と思い込み、
「はい頑張ってみます。」
と答えたた。
次の日、お弁当を持ってアレンは屋敷を出る。
屋敷からたった1人で外に出るのはこれが初めての体験。
森までの距離約10km、5歳児の足で往復して夕方には帰れるということは、片道3時間くらいだろう。
ただ、これは訓練なので昼ごはんを食べたらできるだけ早く帰ってこよう。
と思いながら歩いていると、大通りの露店が見えてきた。
『こういうのを見るのも意外と興奮するな。』と思いながら歩くと。
強面の男達が僕の周りを取り囲むように現れた。
『これはどう言うドッキリだろう。』と考えていたら。
「小僧、ビビって声も出せないのか。」
と言いながら、腕を掴んで引きずろうとした。
「何だこいつ!びともしやがらね。」
腕を掴んだ男が大袈裟に騒ぐ。すると別の男が手伝い2人掛で腕を引っ張るも、びくともしない子供に恐怖を感じ始めたところで。
子供が手を振り解いた。すると大の男2人が吹き飛ばされ、露天の店を直撃して気絶していた。
「おい。逃げるぞ。」
他の男がそう言うと気絶した男らを担いで姿を消した。
僕は、『面白いところに行くと思って、自分で歩こうとしたのに。』と不満を感じたが。
このドッキリも悪くはなかったと思い森へ急いだ。
◇
街を抜け街道に出ると、周囲の風景は農村の風景に変わった。
少しばかり急ごうと僕は走りだした。
周りの風景が飛ぶように流れる。するとものの10分ほどで、森のすぐ近くにたどり着いた。
『確か何か証明になる物を持って来いと言われたよな。』と課題を思い出し、何かないかと見ていたら。
僕より少しばかり大きな小鬼(ゴブリン)が森から出てきた。
『これは子供に色を塗って、僕を驚かせようと言うドッキリだな。』
とその趣旨を看破した僕は、襲い掛かるように木の棒を振り回す、ゴブリン役を軽く突き飛ばした。
ゴブリン役は、飛ぶように森の中へ。
『見事なやられ役だ。』と感心した。
次に現れたのは、豚の顔をした鬼(オーク)だ。
『これは、ちょっと太ったおじさんを役に選んだみたいだが、大丈夫かな。』と思いながら、これにも軽く平手で打ち据えた。
飛ぶように森に消えるおじさんを見ながら、何を持って戻ろう。
そう考えていたら、空から翼竜のような鳥が舞い降りてきた。
『凄いこの世界にも、ジュラシック○ールド的な特殊メイクやロボットがあるんだ。』と思いその翼竜(ワイバーン)の尻尾を掴み、2、3度振り回してから引きずり出した。
『これを持って帰れば、流石にドッキリが失敗したと気づくだろう。』
と子供ながらワクワクしながら、街に戻っていった。
途中、すれ違った旅人が驚いた顔で二度見していたが。
『あの人も、僕をそっとも守る役の人だな。ドッキリがばれて急いで街に帰っている。』と分かった。
街の門が見えてきた所で、大勢の兵隊が騒いでいた。
中に僕の知っている、騎士団の人も居た。
僕は思わず、持っていたロボット(ワイバーン)を持つ腕を振りながら出迎えに答えた。
人の海が二つに割れるように道を作り、僕はその中を歩いて屋敷に戻った。
◇
公爵家屋敷。
アリスが屋敷の門の所で待っていた。
「アリスただいま。新しい武術の先生は居るかい?」
と聞くと、アリスが申し訳なさそうに
「ほんの今さっき、何か用事があるとか言われて・・」
と言葉を濁した。
『多分、僕にドッキリが見破られたもんで次のドッキリを考えるために帰ったんだな。』と思った。
しょうがないので、持ち帰ったロボット(ワイバーン)を庭に置いて屋敷に入ったのだった。
ーー 武術の家庭教師シワン サイド
今回、5歳児の武術指南として公爵家に依頼を受けたが、ハッキリ言って馬鹿らしい仕事だ。
俺は王都での武術大会でもベスト3に入る豪の者だ。それが5歳児の・・・。
ムカついて思わず
「森に行ってその証拠を持ち帰ること。」
と言ってしまった。
屋敷さえほとんど出た事がない5歳児に裏山に行けと。
多分すぐに怖がって泣いて帰ってくるだろう、と思い先回りして裏山で待っていた。
すると中々来ない。
『まさか屋敷すら出られず泣いているのか?』
と思い。戻り始めた頃、騒ぎに気づいた。
商人が公爵家に駆け込み、
「御子息が・・ワイバーンを引きずって街に戻って来ています。」
と言うのだ。意味がわからんと思い、街の門の所まで見に行くと既に多くの人が集まっていた。
人をかき分け見ると、本当にあの子供がワイバーンを引きづりながら歩いている。
俺はその時前任の武術指導の男の言葉を思い出した。
「公爵家の坊ちゃんには気を付けろ。正面に立つと斬られるぞ。」と意味不明なことを言っていたが・・・今その意味がわかった。
俺はすぐに公爵家にかけ戻り
「一身上の都合により、辞めさせてもらいます。」
と言うなり屋敷を飛び出したのだ。
ーー アリス サイド
また、坊っちゃまがやらかしました。
今度はワイバーンを捕まえて歩いて戻ってきたようで、街中が大騒ぎです。
屋敷の門の前で出迎えると、本当にワイバーンの尻尾を掴んで引きずって帰ってきました。
坊っちゃまは、新しい武術の先生の言い付けを間違って聞いていたようで。
「先生は居るかい?」
と聞いてきたので、事情があると言って帰ったと答えると。
「・・ドッキリが・・。」
何かぶつぶつ言って、屋敷に入っていかれました。
当然ワイバーンは庭先に放って行きましたが。
この後騎士団長が、その様子を見ながら
「このワイバーン、首をへし折られているな。他に傷らしいところもない完全体だ。」
と喜んで出入り商人に競売を依頼していた。
更に警ら隊の隊長が、
「坊っちゃまが、街中で暴漢を退治したようで怪我した男どもを捕まえている。」
と執事に報告していた。
ここまで来れば、如何に信じない奥様でも信じるしかないよね。
と思い急ぎ手紙を出した私。
ーー 公爵と公爵夫人
3日後、珍しくお父様が王都からお母様と帰ってきた。
僕を呼ぶと
「アレンこの間の事を説明してくれるかい。」
お父様がそう優しく聞いたきた。
「この間の事を・・あ!そうか。役者やロボットのことだね。」
と言うと
「役者・・ロボット?よく分からんが多分そうだ。」
と答えるお父様。
「皆んなして僕を驚かせようと、色々してくれるんだよ。でもねやりすぎじゃないかと思っているんだ。」
と言いながら、僕は屋敷を出てからの話を両親に聞かせた。
「・・・それでアレンは、皆役者だと思っているのかい。」
とお父様が聞くので。
「当然ですよ。5歳児に投げられる大人や空を飛ぶ翼竜を捕まえられる訳がないでしょう。」
と真顔で答えると。お父様は
「アレンお前を王都の学園に入学させる。そこで普通とは何か知りなさい。」
と言われた。意味がよく分からないが学園に入れるようだ、友達ができるといいな。と思った。
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