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山神との出会い
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◯ プロローグ
「おーい、健太!早くこいよ!」
小学生高学年と思われる数人の男の子達が山道を駆け上がりながら、後ろからヒーヒー言っている少し小太りの男の子を呼んでいる。
健太と言われた男の子は、最近この地方に母親と越していた転校生である。
ガキ大将的なクラスメートの男の子健二とその仲間達と最近親しくなり、学校帰りに遊ぶようになっていた。
しかし都会育ちの少し運動不足な健太は、まだ友達達の足には追いつけなく、足手纏いになりつつもあった。
そんな子供達が、神社の裏山に冒険がてら散策しに来ていたのが、土曜日のことで標高500mほどの山は高さ以上に険しい道が続いていた。
そしていくつかの分かれ道を登る間に、健太と健二達は逸れることになったのだ。
◯ 出会い
「どうしてこうなったんだろう」
健太は、薄暗い山の中で迷子になっていた。
登っても降っても、健二くん達の声はせず、余計に迷う感じがする。
だんだんと心細くなって来た健太は、半べそを描いた状態で大きな木の根元に座り動けなくなっていた。
どのくらい時間が過ぎたのだろうか?
周囲が暗くなり更なる恐怖が健太をを覆い尽くそうとしていた。
すると何処からか足音が聞こえた。
「誰?誰かいるの?健二くん?」
少しの希望と大きな恐怖の中、健太は目を大きく開けて足跡の主を見定めようとしていた。
「やあ。こんな山奥で何してるの?」
その声の主は、小さな男の子だった。
足に履いているのは、スニーカーではなく草で編んだ様な草履。
6月の山の中で見かけるには少々不似合いな格好の10歳くらいの子供だ。
「え!僕は・・・友達と逸れて・・・君は帰る道わかるの?」
健太は少しばかりの力が湧いて、男の子にそう尋ねた。
「帰り道。分かるよ。付いておいで。」
そう言いながら男の子は、健太に手を差し伸べた。
手を取り起き上がった健太は、力強い力に驚きながらも「うん」と頷いて一緒に山を降り始めた。
◯ 不思議な男の子
山を降りながら健太は、男の子の名前を尋ねた。
「僕健太、君はなんて言う名前?」
「僕かい?名前ね・・・無いから君がつけてくれよ。」
「ええ!名前がないの。お父さんやお母さんは?」
「僕にはいないね。僕は1人でここに住んでいるから。」
「ここって、山の中に?」
「うん、そうだよ。」
こんな寂しい山の中に1人で住んでいると言う少年に驚きながらも
「そう、なら僕達は今日から友達だね。そうだ君の名は・・・僕の名前から取って「ケン君」と言うのはどうかな?」
「健太のケンか、いいね。僕はケンよろしくね。」
その後、健太は無事麓の家々が見える坂道まで辿り着いた。
「ケン、ありがとう。また今度一緒に遊ぼうね。」
と言いながら暗くなった坂道を駆け下りながら健太は自宅へ走って行った。
その晩健太らは、両親達に叱られた。
その理由は、あの山が神社の神聖な山で、昔から色々な話が残っていたからだ。
◯ 再会と不思議な力
健太は中学生になっていた。
あれからあの山に住むと言う「ケン」と出会った事はなかった。
それと言うのも、両親からひどく怒られた事で、山に近づくことがなかったこともあり、次第にあの時のことを忘れ始めていたからだ。
中学校の授業の一つに林間学校がある。
あの神社の山からそれほど遠くない山の施設で2泊3日の体験宿泊をするのだ。
クラスごとまたは、班ごとに分かれてオリエンテーションや自学学習をするのが目的だ。
そして健太も5人の班の1人として、薪拾いや溜池での釣りを楽しんでいた。
その晩、1人の女の子がいなくなる事件があった。
どうやら班の中でもうまく溶け込めなかったその女の子は、1人で山を降りようとした様だ。
暗くなると途端に山は危険な顔を見せる。
周囲には獣もいれば、危険な場所もある。
引率の先生らは、麓と連絡が取れない状況から、捜索隊を編成して麓まで行くことにした。
基本は一本道、しかし不慣れなものが見れば無数に分かれた道が存在する。
居なくなった女の子は、どうやらその何処かの道にはい入り込んだ様で、麓まで探した先生らは見つけることができなかった。
健太はその女の子静香を知っていた。
近所に越して来た女の子で、あまり他の子とは話をしない内気な子で本を一人でよく読んでいたのを思えている。
夜中心配で不安になった健太は、こっそりと施設を抜け出すと山道を走り出した。
なぜか健太は、夜道でも明るく見えるのと人の歩いた跡が見えるのだ。
「こっちだな。しずかさんじっとしていてね。」
最近陸上部に入って鍛えられたおかげか、山道を走り続けてもそんなに疲れない。
すると遠くの方でぼんやり光が見える様な気がした。
さらに急いでその光に向かって走る健太。
すると誰かが手招きをしている。
「!君は・・ケンくんかい?」
「久しぶりだね、健太君。この先に女の子がいるよ。」
ケン君が指す先に行くと、大きな木の室の中に小さく丸まったしずかさんがいた。
「しずかさん。起きて!」
声をかけると女の子は目を開けて驚きながらも
「・・あなたは・・健太さん。どうしてここに」
「君を探しに来たんだ。みんな心配してるよ、一緒に帰ろう。」
と言いながらケンがした様に手を差し伸べて女の子を立たせると、手を繋ぎ話しながら施設の方に歩き出した。
施設に帰ると、当直の先生に女の子が無事帰って来たことを報告した。
ただし、自分で帰って来た女の子をトイレで起きていた健太が見つけたということにして。
林間学校は、無事に終了した。
その後、健太と静香は仲良くなり、その影響か静香もクラスにも馴染め始めた。
時々一緒に帰る二人の会話にあの山で出会ったケンの話が出ることがある。
数年経っていても姿形が変わらないケン、多分彼はあの山神なのだろう。
時々神社にお供物を持って行く様になった健太が、次にケンに出会うのは彼が中学2年になってからのお話。
◯ 山神
山神は、付喪神の人柱である。
神社の山であるこの土地を土地の者が昔より信仰の対象としていたため、小さき付喪神ではなく山自体を御神体とする山神として産まれたのがこの山神である。
ただし、名付けることもなくただ神社の山として敬われていたため、力が無く存在自体も気薄であった。
そんな山神に健太少年が気付き名をつけた。その為山神ケンは、この地域を所管する神へと昇格した様だ。
これから健太の出会う不思議な事象に少なからず力を貸すことになる山神ケンは、人の世界にどの様な影響を与えるのだろうか。
「おーい、健太!早くこいよ!」
小学生高学年と思われる数人の男の子達が山道を駆け上がりながら、後ろからヒーヒー言っている少し小太りの男の子を呼んでいる。
健太と言われた男の子は、最近この地方に母親と越していた転校生である。
ガキ大将的なクラスメートの男の子健二とその仲間達と最近親しくなり、学校帰りに遊ぶようになっていた。
しかし都会育ちの少し運動不足な健太は、まだ友達達の足には追いつけなく、足手纏いになりつつもあった。
そんな子供達が、神社の裏山に冒険がてら散策しに来ていたのが、土曜日のことで標高500mほどの山は高さ以上に険しい道が続いていた。
そしていくつかの分かれ道を登る間に、健太と健二達は逸れることになったのだ。
◯ 出会い
「どうしてこうなったんだろう」
健太は、薄暗い山の中で迷子になっていた。
登っても降っても、健二くん達の声はせず、余計に迷う感じがする。
だんだんと心細くなって来た健太は、半べそを描いた状態で大きな木の根元に座り動けなくなっていた。
どのくらい時間が過ぎたのだろうか?
周囲が暗くなり更なる恐怖が健太をを覆い尽くそうとしていた。
すると何処からか足音が聞こえた。
「誰?誰かいるの?健二くん?」
少しの希望と大きな恐怖の中、健太は目を大きく開けて足跡の主を見定めようとしていた。
「やあ。こんな山奥で何してるの?」
その声の主は、小さな男の子だった。
足に履いているのは、スニーカーではなく草で編んだ様な草履。
6月の山の中で見かけるには少々不似合いな格好の10歳くらいの子供だ。
「え!僕は・・・友達と逸れて・・・君は帰る道わかるの?」
健太は少しばかりの力が湧いて、男の子にそう尋ねた。
「帰り道。分かるよ。付いておいで。」
そう言いながら男の子は、健太に手を差し伸べた。
手を取り起き上がった健太は、力強い力に驚きながらも「うん」と頷いて一緒に山を降り始めた。
◯ 不思議な男の子
山を降りながら健太は、男の子の名前を尋ねた。
「僕健太、君はなんて言う名前?」
「僕かい?名前ね・・・無いから君がつけてくれよ。」
「ええ!名前がないの。お父さんやお母さんは?」
「僕にはいないね。僕は1人でここに住んでいるから。」
「ここって、山の中に?」
「うん、そうだよ。」
こんな寂しい山の中に1人で住んでいると言う少年に驚きながらも
「そう、なら僕達は今日から友達だね。そうだ君の名は・・・僕の名前から取って「ケン君」と言うのはどうかな?」
「健太のケンか、いいね。僕はケンよろしくね。」
その後、健太は無事麓の家々が見える坂道まで辿り着いた。
「ケン、ありがとう。また今度一緒に遊ぼうね。」
と言いながら暗くなった坂道を駆け下りながら健太は自宅へ走って行った。
その晩健太らは、両親達に叱られた。
その理由は、あの山が神社の神聖な山で、昔から色々な話が残っていたからだ。
◯ 再会と不思議な力
健太は中学生になっていた。
あれからあの山に住むと言う「ケン」と出会った事はなかった。
それと言うのも、両親からひどく怒られた事で、山に近づくことがなかったこともあり、次第にあの時のことを忘れ始めていたからだ。
中学校の授業の一つに林間学校がある。
あの神社の山からそれほど遠くない山の施設で2泊3日の体験宿泊をするのだ。
クラスごとまたは、班ごとに分かれてオリエンテーションや自学学習をするのが目的だ。
そして健太も5人の班の1人として、薪拾いや溜池での釣りを楽しんでいた。
その晩、1人の女の子がいなくなる事件があった。
どうやら班の中でもうまく溶け込めなかったその女の子は、1人で山を降りようとした様だ。
暗くなると途端に山は危険な顔を見せる。
周囲には獣もいれば、危険な場所もある。
引率の先生らは、麓と連絡が取れない状況から、捜索隊を編成して麓まで行くことにした。
基本は一本道、しかし不慣れなものが見れば無数に分かれた道が存在する。
居なくなった女の子は、どうやらその何処かの道にはい入り込んだ様で、麓まで探した先生らは見つけることができなかった。
健太はその女の子静香を知っていた。
近所に越して来た女の子で、あまり他の子とは話をしない内気な子で本を一人でよく読んでいたのを思えている。
夜中心配で不安になった健太は、こっそりと施設を抜け出すと山道を走り出した。
なぜか健太は、夜道でも明るく見えるのと人の歩いた跡が見えるのだ。
「こっちだな。しずかさんじっとしていてね。」
最近陸上部に入って鍛えられたおかげか、山道を走り続けてもそんなに疲れない。
すると遠くの方でぼんやり光が見える様な気がした。
さらに急いでその光に向かって走る健太。
すると誰かが手招きをしている。
「!君は・・ケンくんかい?」
「久しぶりだね、健太君。この先に女の子がいるよ。」
ケン君が指す先に行くと、大きな木の室の中に小さく丸まったしずかさんがいた。
「しずかさん。起きて!」
声をかけると女の子は目を開けて驚きながらも
「・・あなたは・・健太さん。どうしてここに」
「君を探しに来たんだ。みんな心配してるよ、一緒に帰ろう。」
と言いながらケンがした様に手を差し伸べて女の子を立たせると、手を繋ぎ話しながら施設の方に歩き出した。
施設に帰ると、当直の先生に女の子が無事帰って来たことを報告した。
ただし、自分で帰って来た女の子をトイレで起きていた健太が見つけたということにして。
林間学校は、無事に終了した。
その後、健太と静香は仲良くなり、その影響か静香もクラスにも馴染め始めた。
時々一緒に帰る二人の会話にあの山で出会ったケンの話が出ることがある。
数年経っていても姿形が変わらないケン、多分彼はあの山神なのだろう。
時々神社にお供物を持って行く様になった健太が、次にケンに出会うのは彼が中学2年になってからのお話。
◯ 山神
山神は、付喪神の人柱である。
神社の山であるこの土地を土地の者が昔より信仰の対象としていたため、小さき付喪神ではなく山自体を御神体とする山神として産まれたのがこの山神である。
ただし、名付けることもなくただ神社の山として敬われていたため、力が無く存在自体も気薄であった。
そんな山神に健太少年が気付き名をつけた。その為山神ケンは、この地域を所管する神へと昇格した様だ。
これから健太の出会う不思議な事象に少なからず力を貸すことになる山神ケンは、人の世界にどの様な影響を与えるのだろうか。
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