上 下
202 / 330

192 ヘッドハンティング③(占拠)

しおりを挟む
「やぁやぁ、キークさんにミールさん。早朝ぶりですね~。やれるもんならな! って事でしたのでやってみましたが、どうでしょう?」
「うぎ」

はっはっは、言質は既に取っているのですよ。今さら逃がしてなるものか。

「今度は、ちゃんと話してくれますか?」
「あぁもう! 何なんだよお前は!?」
「ふっふっふ、それは秘密って事で。うちで働いてくれるなら、【契約書】有りになりますが、お話しますよ?」
「はん!」

どかっと、近くの椅子に腰かけるミールさん。
キークさんは、ゆっくりとその隣の席に座る。これは、深く考えるのを放棄していますね、どうにでもな~れって感じです。安堵しているともとれるかな? まぁ、真面に会話できるのなら、構いませんけどね。会話担当はミールさんっぽいし。

「因みに、ここって何をやっているんですか?」
「奴隷商だよ」
「正規の契約で奴隷になった方は?」
「居ると思うか?」

でっすよね~。人攫いに冤罪に詐欺による借金……ってところでしょうかね。内容は書類を見れば一目瞭然でしょうし、それを見てから、あの肉塊の処遇を決めましょうか。それまではこのまま書類を書くだけの機械です。

それよりも、今後の予定です。奴隷が手に入るのは有り難いですが、この段階で大量に手に入るのは、扱いに困りますね。

「はぁ……後で、解放の手続きと雇用の斡旋。親元、故郷への輸送とその護衛。有能な人のスカウトに、カウンセリングと、検診と……あぁ、こりゃ俺一人じゃ無理ですね。仕方がない、時機を見て手伝い呼ぶか」

 先ずは、邪魔なこの屋敷に居る従業員、奴隷でないケルドをとっ捕まえる事から始めますか。

(捕まえるの~?)
(そうですね、外にバレない様に、営業時間が過ぎたら行動開始です。一晩で掌握しますが、お願いできますか?)
(は~い、お任せあれ~)

 プルさんがバックアップに居れば、どうにかなるでしょう。後は、ゴトーさんの暗部の方で片付けて~、必要があれば情報を絞り出して~、まだ表に出ない方が良いから、ケルドを前面に出すとして~、その為に使えそうな奴は利用して~……

「……なんですか?」
「解放って聞こえたんだか……奴隷をか?」

 今後の予定を思考していたら、ミールさんとキークさんが、怪訝な表情でこちらを見来るので尋ねると、当たり前な事を聞いてきた。
冤罪で捕まっているのですから、解放するのは当然でしょう? あ、放り出すのは責任放棄なので、ちゃんとアフターケアもしますよ? 協力してくれる人材も欲しいですしね、優秀な方は大歓迎ですよ~。

「なので、キークさんとミールさんも、うちで働きませんか? 給金は弾みますよ?」
「はぁぁぁああああああ! わぁったよ! キークも良いな!?」
「はぁ、分かった、ここで断わっても、仕事が無くなるだけだろうしな」
「俺らの人生、何だったんだって話だよ」

キークさんが投げやりに、ミールさんが何かを諦めたかのように了承してくれた。ふっふっふ、これで、表(人族社会の裏)への情報取得経路を確保ですよ~。

「あ~、後、こいつ等も解放してやってくんねぇか?」
「護衛の方々ですか、襲ってきたりしません?」
「「ないない」」

 ま、感情を見るに、かなりの期待と感謝、意気込みが見て取れますし、これなら敵対は無いか。
コアさんにお願いして、数人<マーキング>して貰ってから、肉塊に命令させて護衛さん方を自由にして貰う。

自由じにゅうにしゅぺよひ」
「死ね!」
「おっと」

 肉塊の解放宣言に合わせて、護衛の一人が飛び出すも、他の護衛達によって取り押さえられる。

「落ち着け、やるならこいつの作業が終わってからだ!」

 うむうむ、なかなか気が利くではありませんか、これは優良物件ですね~。是非とも、奴隷状態から解放した後も雇用したいですね、引き抜かなきゃ。

「表に出す事もあるかもしれないので、暫くは生かしますが、要らなくなったら皆さんに差し上げますので、それまで辛抱して下さい」
「ほら、新しい雇い主様もこう言ってる」
「そうそう。それに、抜け駆けなんてずりーじゃねぇか。俺らにも分けろ」
「ふー、ふー、ふー……わりぃ」

 とりあえずは納得してくれたのか、剣を握っていた手から力を抜いて、抵抗を止める護衛の草人さん。うん、冷静になりましたね。

「すまん、此奴も悪い奴じゃ無いんだ。許してやってくれ」
「構いませんよ。ここに居る者なら、怒る権利位あっていいでしょう」

 むしろ、ここに居る全員が殺しに行っても、俺は怒らなかったと思いますよ、止めはしましたが。

「理解が有る雇い主さんで助かる。俺はエッジ、しがない傭兵団のリーダーをやっていた。ここに居る奴の大半は顔見知りだから、何かあったら言ってくれ」

くたびれた感じの、無精ひげを生やした金髪のおじさまが、腰の剣の柄をトントンと叩きながら話しかけてきた。エッジさんですか、こんな環境の中に居たと言うのに、中々タフですね。

「……自分で言っといて何だが、ミールとキークは雇うらしいが、俺達も雇ってくれるって事で良いのか?」
「こちらから、お願いしようと思っていた所です。そこの肉塊の作業が終わるまで時間が掛かりますが、奴隷契約も解除しますので、少々お待ちください」
「「「おー!」」」

 うむうむ、やる気が有って大変よろしい。

「それで旦那、俺らは何をすることになるんだ? 言っておくが、俺らはこれしか能が無いぞ?」

 そう言うと、腰の剣を半分ほど抜き、中の刃を見せて来る。傭兵ですからね、頼るのでしたらそっち方面でしょうね。

「では、休息していて下さい」
「……休憩かよ。ふ、了解した! 万全の体調で仕事に掛からせてもらうぜ」

これが仕事人の顔ってやつですかね? にかっと清々しい笑顔を見せ、他の者を引き連れて部屋から出て行った。一応休憩室は有るみたいですね。
切り替えの早さも相まって、表手向きの護衛としては十分に信頼を置けそうです。戦闘面でも使えるか、後で<鑑定>させて貰いましょう。

本人が望むなら、トレーナーの紹介も辞さない。ノーマルモフモフさんハードビャクヤさんベリーハードコクガさんエクストラフワフワさんヘルルナさんエクストリームプルさんと、色々取り揃えていますよ~。

「マイロード。私めは如何致しましょう」
「あ~~~、ゴトーさんは通常勤務に戻ってください。後、ここの監視と護衛の配置、キークさんとミールさんもお願いします」
「承知いたしました」

この世界では、明かりの確保はそこまで発達していないので、夜は大体の店は閉める事になる。行動を再開するのはそれからなので、一旦家に戻りましょうかね~。

あ~~~、久しぶりに外に出て疲れた。帰ってのんびりしましょ、朗報は寝て待てってね。コアさんに頼み、<神出鬼没>で帰宅する。
通勤時間、脅威の1秒。超立地ならぬ、コアさん特急が便利すぎる。

「よっと、ただいま戻りました」
「お疲れ様です、主様!」
「「「(((お疲れ様~~~)))」」」

う~ん、こうやって迎えられると、帰ってきたって実感が湧きますね。ささっと、人形から本体に意識を戻す。目を開けると、視界一杯に世界樹さんの顔が映し出された。何しているんで?

「お帰りなの。人間、沢山なの?」
「あ~~~ただいま。まぁ、外には沢山でしたね……そんな目で見てもダメです、迷宮に来ている方だけで、我慢しなさい」
「む~~~」

 媚びる様な目で見て来る世界樹さんを避け、体を起こす。欲張りさんめ、有る分だけで我慢しなさい。

「戦闘職とそれ以外との違いも、見て見たかったなの」

 あ、それは確かに有るかも……世界樹さんが、ちらちらこちらを見て来る。ぐぬぬ……悔しいが、有用なのは確か!

「な~のなのなのなのなの、勝利なの!」

結局、押し負けて承認してしまった。何故でしょう、物凄く悔しい!

……いつまでも引きずってはいられない、気持ちを切り替えて行きましょう。逆に考えるんだ、世界樹さんが楽しそうだから良いんだと考えるんだ。

「はぁ……クロスさん、第一拠点の方は順調ですか?」
「ハ! 拠点の清掃、及び警備網の設営、共に終了しております。地下通路の開設にも着手しておりますので、開通次第お知らせいたします!」

流石はクロスさん達ですね、仕事が速い。
因みに、拠点に無断で入ってきた奴らって……あ、やっぱり全部ケルドだった? 奴隷じゃないのが大半ですか、雇われである事は想像に難くないですね。
カッターナでは、ケルドは何かと優遇されているって、報告書にもありましたっけ。人間ケルドは優秀、他は無能ってのが、あの国での認識らしい……アホクサ。

その為、人間の奴隷はかなり少ないらしい。人間が奴隷落ちしそうな場合、その原因が他の人族に擦り付けられるとか。うん……クソが。

その為、仕事を持って居るのは大半が人間だ。
全部奴隷で固めていた、あの肉塊が珍しいのでしょうかね。個人営業でしたし、人間含め、周りを全く信用していなかったのでしょうか……ま、興味もありませんが、最大限利用だけはさせていただきましょう。

「主様の方は、敵対勢力の制圧との事でしたが、順調でありましょうか?」
「問題ないですよ~。寧ろ順調すぎる位ですね~。拠点が増えて仕舞いました」
「おぉ! 第三フェイズまで進んで仕舞うとは、主様にはかないませんな!」
「運が良かったですね」

他人の敷地に無断で侵入せず、且つ自身の能力を生かした情報収集能力を持つ、ケルドでない二人。そして雇い主が、個人経営の糞野郎ケルドと来たもんです。そりゃもう捗る、捗る。遠慮の必要が皆無ですからね。

「資金集めの第二フェイズが肝でしたからね~。奴隷商とは言え、元が商いなだけあって、資金が動いてもある程度なら誤魔化しが効きます。何より奴隷を余所から調達しても、暫くは怪しまれることは無いでしょう」
「では、第四フェイズに移行致しますか?」
「そうですね、人材を確保出来次第、移行しましょう」
「ハ! こちらで周知いたします!」
「よろしくお願いします」

その日の夜、新たに得た拠点にて、死体と達磨が量産されることになりましたが……別に語る事でもありませんね。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,088pt お気に入り:464

喫茶店で隣に座った二人組が最終回の空気感を出している

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

異世界転生オメガ俺、逆ハー築く

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:65

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:29

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:52,765pt お気に入り:53,802

赤毛の阿蘇利くん

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:39

ふれていたい、永遠に

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:206

保健室でイケメンが目隠し拘束されていたので犯してみた話

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:286

天使の分け前

BL / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:1,853

処理中です...