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280 汚物の詰まった天使④(逃げる竜)
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「うぃ~~~……気持ち悪かった」
迷宮の本体に意識を戻し、小休憩を挟む事に。
あぁぁぁぁぁ、もう! 気持ち悪いったらありゃしね!
諸々の緊急性の高い諸事情が終わったら、駆逐しなきゃ。駆逐しなきゃ。駆逐しなきゃ。駆逐駆逐駆逐……
「荒れてるなの。モフモフ貸してあげるなの」
「むっきゅ? モフる?」
……おっと、いけないいけない。俺が引っ張られる訳にはいけませんね。エマさんからモフモフさんを借り受け、モフリながら一呼吸。
……うん。大丈夫、まだ大丈夫。俺はまだ正常です。正常な判断の元、あいつ等を駆逐しましょうそうしましょう。後の平穏の為に、そこは決定事項である。
さて、人形越しだと気持ち悪いモノが視界に映るので、コアさんの<カメラ>を経由して観戦することに。俺がげぇげぇ吐いている内に、戦況はどう変化していますかねぇっと。
「……何で斬竜さん、キレてるんです?」
蛇が木々に巻き付く様に天使像に絡みつき、シュレッダーの様な牙で、結界越しの頭部へとガリガリと齧り付いている。
辺り一面は均一に耕され、人型の姿が殆ど見られない。疎らに映る人型も、天使像から、いえ、斬竜さんから少しでも距離を取ろうと、蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑っている。
過去の映像を倍速で確認。コアさんの演算能力を持ってすれば、この程度お茶の子さいさいである。
「うっわ~……」
ものの数分でイラ共が壊滅する光景を横目で確認しながら、ゴドウィンさんの様子を確認することに……って、斬竜さんって地中に潜れたんですね。そして、地中に結界が伸びてないとか、やっぱり判定ガバガバだな?
えぇっと、改めましてゴドウィンさんの方は、おぉ、順調に天使像を砕いていっていますね。もうタイミングも掴んだのか、相手が攻撃する瞬間を狙って、攻撃される前に叩き砕いている。
天使像の方はもうひび割れだらけで、何時崩れてもおかしくない状況です……あの場に居なくて本当に良かった。処理前の下水に身を漬ける特殊性癖は持ち合わせていないのです。
「プルさ~ん。噴竜さんに繋いでくださ~い」
(は~い!)
そういう訳で、あの場に戻る選択肢は無しって事で、プルさんに頼んで、現場へ<念話>を繋いで貰う。
ゴドウィンさんと斬竜さんは、戦闘中と言う事もあり、惰性で翼ブレスを撃っているだけの噴竜さんの方に繋いで貰う。あの中で一番話が分かる子ですしね。
(お、主か? なんかあったのか?)
「気持ち悪いモノが漏れ出したので、逃げました」
(逃げたか~。主も難儀な能力だよな)
「相手がケルド共でなければ、何ら問題はないんですよ。生まれた頃から持っている能力ですからね、既に折り合いは付けています」
あんな気持ちの悪い、汚物にも劣る存在に今まで遭遇した事が無く、免疫がないだけですからね。慣れたいとも思いませんが、付き合いが長くなると慣れるんでしょうね~。人間とはかくも適応能力の高い生き物である。
(そんで、何か用か? 俺、的当てに忙しいんだけど)
「何気に楽しんでいたんですね、そのまま続けていていいので、今後の予定を決めておこうかと」
(予定だぁ? こいつ等ブチ転がした後か?)
「ですです」
そろそろ本命が佳境に入るのと相手の戦力を把握できたので、ここで皆さんが間に入って妨害する必要も、もう無いかなと思いましてね。
(てぇ事は、完全に撤収する訳か。短い間だったけど、懐かしぃねぇ)
そりゃ、生まれてからそれ程時間が経って居ないのですからね。相対的に、相当な期間離れていた事になりますので、それ程不思議な事でもないでしょう。短期間では有りますが何度か<門>を通じて戻ってはいますが、それも噴竜さんが拠点にしている高山地帯には寄っていませんでしたし。
なんか、申し訳ないですね。いや、タイミングがね? 都合がいい理由付けができんかったんよ。
(じゃぁよ、天使像どうすんだ? 接近してってなると、俺ちょっと苦手なんだけど)
「足元を吹っ飛ばしてみて下さい」
噴竜さんの様な遠距離特化型に対しては、この汚物の詰まった天使像は相性が悪いですからね、倒すとなると接近しか手段が無いのは、面倒極まりない相手です。
まぁ、倒す……となったらですがね。
あの結界、地面まで伸びていない様ですので、噴竜さんの火力なら、防がれる事無く地面をひっくり返せるかなと思うんですよ。
移動手段も<飛行>系でなく<浮遊>系のスキルを応用して、ホバー移動している様なので、面白い結果になると思いません?
(ほほう……成る程成る程。面白そうだな!)
「それが成功したら、撤退ですね。一番に撃破するでしょうゴドウィンさんが逃走するのを追いかけて、その場から撤退してください。ダメだったら、また他を試しましょう」
(もう撃っていいのか?)
「ゴドウィンさんが逃げてからでお願いします。ゴドウィンさんにはこちらから指示を出しますので、後は流れで追撃してください。今度は本気で捕まえに掛かって良いですよ。捕まえたら北東方面へ飛んで、適当なところで迷宮へ帰還するって事で」
(了解。ゴドウィンの追撃捕獲が成功して、巣へ戻ったって筋書な)
理解が速くて助かりますね。ゴドウィンさんの方も了承を貰ったので、後はゴドゥインさんの撃破待ちって事で。
―――
打ち、払い、抉り、削り、容赦のないゴドウィンの攻撃により、天使像の白磁の外装が砕け散る。
人型共はその様を遠目から眺める事しかできず、指揮系統が既に消滅しているのか、その場で右往左往するだけである。
そして、なすすべなく蹂躙され続ける天使像に、その瞬間が訪れる。
「グラァ!!」
ゴドウィンの会心の拳が、天使像の一際分厚い胸の外装を穿ち、大穴を開ける。その一撃が止めとなったのか、無残ながらも保っていた姿が崩壊を開始する。
膝が崩れ、自重に耐え兼ね腕が千切れ落ち、形を保っていいたであろう中の黒い汚物が、汚泥となって流れ出す。
イラ教の象徴が無残に散りゆく様は、イラ教の人型に絶望を、カッターナの住民に希望と安堵をもたらす。
だがしかし……後に現れた劇的な変化が、それらの全てを塗りつぶす。
「「「ゲッヒェッヒェッヒェ」」」
「グラァ!?」
一斉に見開かれる目、眼、瞳。黒い汚泥の表面に現れた人の顔から、癇に障る笑い声が幾つも上がり、粘着く黒い触手の塊が蠢き這いずり出る。
その地を汚す様に散り、すべての生物に対し生理的嫌悪を引き立てる……それは、エネルギー源として休眠状態となっていた、邪魔物へ変異した状態のケルドである。
突然動き出したケルドに対し、ゴドウィンが嫌悪と驚愕の声を上げる。さらに、足元からケルドが粘液を擦り付ける様に這い上がってくる。
「グラーーー!!」
振り払に、蹴り飛ばし、踏みつぶすも尚這い上がってくるケルドに対し、ゴドウィンの限界が来たのか、足元へ向けて「焼き払い」のブレスを吐きかける。
身体能力が高い反面、ブレスがそれ程強くない暴竜であるゴドウィンだが、雑魚を一掃するには十分な火力がある。
燃え広がる炎に飲み込まれ、ケルドが次々と悪臭を放ちながら燃え死んでゆく。だがしかし、その範囲はゴドウィンの足元程度。天使像から溢れたケルドを全て焼き殺すには至らず、既に相当な量が周囲へと拡散していた。
「エッジ殿、何匹か逃げました。害虫駆除に当たって下さい」
「おうよ、それ位しかできそうにねぇしな……おいお前等、仕事だ!! 雑魚狩りくらいはしないとな!」
「「「おーーー!!!」」」
ゴドーさんの指示に従い、エッジ達が一斉に散ったケルドを狩る為に行動を開始する。
邪魔者に変異する前の人間であれば時間的猶予も有るだろうが、邪魔物の状態であれば尚の事急がなければならない。
識別できていないのか、識別する気が無いのか……遠巻きに眺めていた人型のケルドにもお構いなく襲い掛かっているのだ。その姿は、一般的に言われる魔物を代表するかのようであり、普通の人種に対して躊躇するなど、期待するだけ無駄と言うものだ。
ケルドが弱いと言え、一般人が勝てる程弱くない。近隣の人里にまで広がろうものなら、それ相応の被害を覚悟する必要がある。
既にカッターナ国土の所有権はイラ共にはなく、ケルドの割合が多い人間の排除も進んでいる。イラやケルドが自滅する分には気にしないが、とてもではないが放置などできない。
もしその毒牙が女性に向けられたなら、邪魔物の特性を考えれば、心身共に悲惨の一言に尽きるだろう。既に、カッターナ国内の女性は、ケルド共によって極端に少ない……これ以上の被害など許容できる訳が無かった。
それに、既にイラ側は竜達によって壊滅している様な状態だ。防衛に必要な最低限の人数を残してはいるが、攻勢に出ても問題にはならない。
「門を開けるぞ!」
「おら、行け行け行け! 逃げられる前に、狩り尽くすぞ!」
「騒げ! 注意を引け! 魔物、いや邪魔物相手なら、それだけであっちから来る!」
「「「オォーーー!!!」」」
正面の門を開き、重装の者達が武具を打ち鳴らしながら前へ出る。邪魔物の注意を引きつけている内に、その横から足の速い軽装の者達が、多少遠回りしながらも邪魔される事無く、街と違う方向へと散った邪魔物の追撃に向かう。
「ま、彼等程の能力があれば、ケルド程度に後れを取ることもないでしょう」
「ゴトーの旦那にお墨付きを貰うと、なんか安心感が違うな」
「エッジ殿は出られないので?」
「俺は、ここで待機してるわ。一応、現場の責任者を押し付けられてるからな。この後どうなるか、直接見といた方がいいだろ?」
そう言うエッジの視線は、体に付いた煤を払うゴドウィンへと向けられていた。
他の竜と言えば、噴竜はブレスの弾丸を撃ち続け、斬竜は天使像に噛り付くのに夢中である。
そして、そんな二体の姿を確認したゴドウィンはと言うと、先ほどまでの勇猛果敢な姿は何処に行ったのか、気配を消しつつコソコソと二体から距離を取り始める。
「ありゃぁ、逃げる心算か?」
ゴドウィンの行動を見たエッジが、その行動に当りを付ける。
何故この場に留まっているかは定かではないが、元々黒い竜ことゴドウィンは、他の二体の竜から逃れる様にこの地に現れ、追い落され、逃げられない様に囲まれてしまった……と、思われている。
真偽のほどは定かではないが、ゴドウィンの再生能力と、流れ弾によるカッターナの被害、そして何よりも、ゴドウィンに対する容赦のない攻撃が、あれが演技である疑いを住民たちに持たせなかったのだ。
裏で暗躍している人物の正体を知っているエッジはこれっぽっちも信じていないが、カッターナではそれが共通認識となっている。ならば、黒い竜からすれば、自身に注意が向いていない今は逃走するのに絶好のチャンスである。
そして、その予想を肯定するかのように、或いはゴドウィンの行動を後押しするかのように……今まで絶え間なく翼のブレスを打ち続けていた噴竜が動き出す。
「グロォ」
四つん這いの状態だった噴竜が上体を起こし、喉元に力を籠めれば、膨大な量の魔力が喉元の魔力袋に流れ込み、圧縮されて行く。
魔力袋で圧縮された魔力と、周囲の魔力の濃度差によって、煮えたぎるマグマが沸き上がるかの様な強烈な魔力光が、喉元の薄皮越しに放たれる。
「あ、やべ、伏せろお前等ぁ!!」
エッジがその危険性に気付き叫ぶのと同時に、噴竜の口から一際強烈なブレスが放たれる。
空気を<焼き切り>ながら天使像へ向かう光の線は、そのまま天使像へ着弾……することなく、相手が展開する結界の手前の地面に突き刺さる。
光の線は地面を焼き切り、更に奥へと突き進む。結果として地面に大穴を穿つだけに終わったかと思われた次の瞬間。天使像の真下の地面が吹き飛んだ。
翼から放たれるブレスとは比較にならない威力の、衝撃と爆音が駆け巡る。
地面がひっくり返り、その場に大穴が出来上がる。爆心地に居た全ての人型は結界によって無事であるが、衝撃が収まると同時に結界が消え、足場を失った事により落下していく。
更に頭上からは、巻き上がった土砂が降り注ぎ、生き残った人型を埋め立てる。
そして、同様に足場を失い、なすすべなく落下する天使像。その巨体故、全身が埋まることはなかったが、肩口より下は完全に埋まり頭だけを晒す無様な姿をその場に残した。
……そして、吹き飛ばされない様に伏せるカッターナの住民たちを余所に、ゴドウィンはその影に隠れる様に、北西へ向けて逃げる様に飛び去った。
迷宮の本体に意識を戻し、小休憩を挟む事に。
あぁぁぁぁぁ、もう! 気持ち悪いったらありゃしね!
諸々の緊急性の高い諸事情が終わったら、駆逐しなきゃ。駆逐しなきゃ。駆逐しなきゃ。駆逐駆逐駆逐……
「荒れてるなの。モフモフ貸してあげるなの」
「むっきゅ? モフる?」
……おっと、いけないいけない。俺が引っ張られる訳にはいけませんね。エマさんからモフモフさんを借り受け、モフリながら一呼吸。
……うん。大丈夫、まだ大丈夫。俺はまだ正常です。正常な判断の元、あいつ等を駆逐しましょうそうしましょう。後の平穏の為に、そこは決定事項である。
さて、人形越しだと気持ち悪いモノが視界に映るので、コアさんの<カメラ>を経由して観戦することに。俺がげぇげぇ吐いている内に、戦況はどう変化していますかねぇっと。
「……何で斬竜さん、キレてるんです?」
蛇が木々に巻き付く様に天使像に絡みつき、シュレッダーの様な牙で、結界越しの頭部へとガリガリと齧り付いている。
辺り一面は均一に耕され、人型の姿が殆ど見られない。疎らに映る人型も、天使像から、いえ、斬竜さんから少しでも距離を取ろうと、蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑っている。
過去の映像を倍速で確認。コアさんの演算能力を持ってすれば、この程度お茶の子さいさいである。
「うっわ~……」
ものの数分でイラ共が壊滅する光景を横目で確認しながら、ゴドウィンさんの様子を確認することに……って、斬竜さんって地中に潜れたんですね。そして、地中に結界が伸びてないとか、やっぱり判定ガバガバだな?
えぇっと、改めましてゴドウィンさんの方は、おぉ、順調に天使像を砕いていっていますね。もうタイミングも掴んだのか、相手が攻撃する瞬間を狙って、攻撃される前に叩き砕いている。
天使像の方はもうひび割れだらけで、何時崩れてもおかしくない状況です……あの場に居なくて本当に良かった。処理前の下水に身を漬ける特殊性癖は持ち合わせていないのです。
「プルさ~ん。噴竜さんに繋いでくださ~い」
(は~い!)
そういう訳で、あの場に戻る選択肢は無しって事で、プルさんに頼んで、現場へ<念話>を繋いで貰う。
ゴドウィンさんと斬竜さんは、戦闘中と言う事もあり、惰性で翼ブレスを撃っているだけの噴竜さんの方に繋いで貰う。あの中で一番話が分かる子ですしね。
(お、主か? なんかあったのか?)
「気持ち悪いモノが漏れ出したので、逃げました」
(逃げたか~。主も難儀な能力だよな)
「相手がケルド共でなければ、何ら問題はないんですよ。生まれた頃から持っている能力ですからね、既に折り合いは付けています」
あんな気持ちの悪い、汚物にも劣る存在に今まで遭遇した事が無く、免疫がないだけですからね。慣れたいとも思いませんが、付き合いが長くなると慣れるんでしょうね~。人間とはかくも適応能力の高い生き物である。
(そんで、何か用か? 俺、的当てに忙しいんだけど)
「何気に楽しんでいたんですね、そのまま続けていていいので、今後の予定を決めておこうかと」
(予定だぁ? こいつ等ブチ転がした後か?)
「ですです」
そろそろ本命が佳境に入るのと相手の戦力を把握できたので、ここで皆さんが間に入って妨害する必要も、もう無いかなと思いましてね。
(てぇ事は、完全に撤収する訳か。短い間だったけど、懐かしぃねぇ)
そりゃ、生まれてからそれ程時間が経って居ないのですからね。相対的に、相当な期間離れていた事になりますので、それ程不思議な事でもないでしょう。短期間では有りますが何度か<門>を通じて戻ってはいますが、それも噴竜さんが拠点にしている高山地帯には寄っていませんでしたし。
なんか、申し訳ないですね。いや、タイミングがね? 都合がいい理由付けができんかったんよ。
(じゃぁよ、天使像どうすんだ? 接近してってなると、俺ちょっと苦手なんだけど)
「足元を吹っ飛ばしてみて下さい」
噴竜さんの様な遠距離特化型に対しては、この汚物の詰まった天使像は相性が悪いですからね、倒すとなると接近しか手段が無いのは、面倒極まりない相手です。
まぁ、倒す……となったらですがね。
あの結界、地面まで伸びていない様ですので、噴竜さんの火力なら、防がれる事無く地面をひっくり返せるかなと思うんですよ。
移動手段も<飛行>系でなく<浮遊>系のスキルを応用して、ホバー移動している様なので、面白い結果になると思いません?
(ほほう……成る程成る程。面白そうだな!)
「それが成功したら、撤退ですね。一番に撃破するでしょうゴドウィンさんが逃走するのを追いかけて、その場から撤退してください。ダメだったら、また他を試しましょう」
(もう撃っていいのか?)
「ゴドウィンさんが逃げてからでお願いします。ゴドウィンさんにはこちらから指示を出しますので、後は流れで追撃してください。今度は本気で捕まえに掛かって良いですよ。捕まえたら北東方面へ飛んで、適当なところで迷宮へ帰還するって事で」
(了解。ゴドウィンの追撃捕獲が成功して、巣へ戻ったって筋書な)
理解が速くて助かりますね。ゴドウィンさんの方も了承を貰ったので、後はゴドゥインさんの撃破待ちって事で。
―――
打ち、払い、抉り、削り、容赦のないゴドウィンの攻撃により、天使像の白磁の外装が砕け散る。
人型共はその様を遠目から眺める事しかできず、指揮系統が既に消滅しているのか、その場で右往左往するだけである。
そして、なすすべなく蹂躙され続ける天使像に、その瞬間が訪れる。
「グラァ!!」
ゴドウィンの会心の拳が、天使像の一際分厚い胸の外装を穿ち、大穴を開ける。その一撃が止めとなったのか、無残ながらも保っていた姿が崩壊を開始する。
膝が崩れ、自重に耐え兼ね腕が千切れ落ち、形を保っていいたであろう中の黒い汚物が、汚泥となって流れ出す。
イラ教の象徴が無残に散りゆく様は、イラ教の人型に絶望を、カッターナの住民に希望と安堵をもたらす。
だがしかし……後に現れた劇的な変化が、それらの全てを塗りつぶす。
「「「ゲッヒェッヒェッヒェ」」」
「グラァ!?」
一斉に見開かれる目、眼、瞳。黒い汚泥の表面に現れた人の顔から、癇に障る笑い声が幾つも上がり、粘着く黒い触手の塊が蠢き這いずり出る。
その地を汚す様に散り、すべての生物に対し生理的嫌悪を引き立てる……それは、エネルギー源として休眠状態となっていた、邪魔物へ変異した状態のケルドである。
突然動き出したケルドに対し、ゴドウィンが嫌悪と驚愕の声を上げる。さらに、足元からケルドが粘液を擦り付ける様に這い上がってくる。
「グラーーー!!」
振り払に、蹴り飛ばし、踏みつぶすも尚這い上がってくるケルドに対し、ゴドウィンの限界が来たのか、足元へ向けて「焼き払い」のブレスを吐きかける。
身体能力が高い反面、ブレスがそれ程強くない暴竜であるゴドウィンだが、雑魚を一掃するには十分な火力がある。
燃え広がる炎に飲み込まれ、ケルドが次々と悪臭を放ちながら燃え死んでゆく。だがしかし、その範囲はゴドウィンの足元程度。天使像から溢れたケルドを全て焼き殺すには至らず、既に相当な量が周囲へと拡散していた。
「エッジ殿、何匹か逃げました。害虫駆除に当たって下さい」
「おうよ、それ位しかできそうにねぇしな……おいお前等、仕事だ!! 雑魚狩りくらいはしないとな!」
「「「おーーー!!!」」」
ゴドーさんの指示に従い、エッジ達が一斉に散ったケルドを狩る為に行動を開始する。
邪魔者に変異する前の人間であれば時間的猶予も有るだろうが、邪魔物の状態であれば尚の事急がなければならない。
識別できていないのか、識別する気が無いのか……遠巻きに眺めていた人型のケルドにもお構いなく襲い掛かっているのだ。その姿は、一般的に言われる魔物を代表するかのようであり、普通の人種に対して躊躇するなど、期待するだけ無駄と言うものだ。
ケルドが弱いと言え、一般人が勝てる程弱くない。近隣の人里にまで広がろうものなら、それ相応の被害を覚悟する必要がある。
既にカッターナ国土の所有権はイラ共にはなく、ケルドの割合が多い人間の排除も進んでいる。イラやケルドが自滅する分には気にしないが、とてもではないが放置などできない。
もしその毒牙が女性に向けられたなら、邪魔物の特性を考えれば、心身共に悲惨の一言に尽きるだろう。既に、カッターナ国内の女性は、ケルド共によって極端に少ない……これ以上の被害など許容できる訳が無かった。
それに、既にイラ側は竜達によって壊滅している様な状態だ。防衛に必要な最低限の人数を残してはいるが、攻勢に出ても問題にはならない。
「門を開けるぞ!」
「おら、行け行け行け! 逃げられる前に、狩り尽くすぞ!」
「騒げ! 注意を引け! 魔物、いや邪魔物相手なら、それだけであっちから来る!」
「「「オォーーー!!!」」」
正面の門を開き、重装の者達が武具を打ち鳴らしながら前へ出る。邪魔物の注意を引きつけている内に、その横から足の速い軽装の者達が、多少遠回りしながらも邪魔される事無く、街と違う方向へと散った邪魔物の追撃に向かう。
「ま、彼等程の能力があれば、ケルド程度に後れを取ることもないでしょう」
「ゴトーの旦那にお墨付きを貰うと、なんか安心感が違うな」
「エッジ殿は出られないので?」
「俺は、ここで待機してるわ。一応、現場の責任者を押し付けられてるからな。この後どうなるか、直接見といた方がいいだろ?」
そう言うエッジの視線は、体に付いた煤を払うゴドウィンへと向けられていた。
他の竜と言えば、噴竜はブレスの弾丸を撃ち続け、斬竜は天使像に噛り付くのに夢中である。
そして、そんな二体の姿を確認したゴドウィンはと言うと、先ほどまでの勇猛果敢な姿は何処に行ったのか、気配を消しつつコソコソと二体から距離を取り始める。
「ありゃぁ、逃げる心算か?」
ゴドウィンの行動を見たエッジが、その行動に当りを付ける。
何故この場に留まっているかは定かではないが、元々黒い竜ことゴドウィンは、他の二体の竜から逃れる様にこの地に現れ、追い落され、逃げられない様に囲まれてしまった……と、思われている。
真偽のほどは定かではないが、ゴドウィンの再生能力と、流れ弾によるカッターナの被害、そして何よりも、ゴドウィンに対する容赦のない攻撃が、あれが演技である疑いを住民たちに持たせなかったのだ。
裏で暗躍している人物の正体を知っているエッジはこれっぽっちも信じていないが、カッターナではそれが共通認識となっている。ならば、黒い竜からすれば、自身に注意が向いていない今は逃走するのに絶好のチャンスである。
そして、その予想を肯定するかのように、或いはゴドウィンの行動を後押しするかのように……今まで絶え間なく翼のブレスを打ち続けていた噴竜が動き出す。
「グロォ」
四つん這いの状態だった噴竜が上体を起こし、喉元に力を籠めれば、膨大な量の魔力が喉元の魔力袋に流れ込み、圧縮されて行く。
魔力袋で圧縮された魔力と、周囲の魔力の濃度差によって、煮えたぎるマグマが沸き上がるかの様な強烈な魔力光が、喉元の薄皮越しに放たれる。
「あ、やべ、伏せろお前等ぁ!!」
エッジがその危険性に気付き叫ぶのと同時に、噴竜の口から一際強烈なブレスが放たれる。
空気を<焼き切り>ながら天使像へ向かう光の線は、そのまま天使像へ着弾……することなく、相手が展開する結界の手前の地面に突き刺さる。
光の線は地面を焼き切り、更に奥へと突き進む。結果として地面に大穴を穿つだけに終わったかと思われた次の瞬間。天使像の真下の地面が吹き飛んだ。
翼から放たれるブレスとは比較にならない威力の、衝撃と爆音が駆け巡る。
地面がひっくり返り、その場に大穴が出来上がる。爆心地に居た全ての人型は結界によって無事であるが、衝撃が収まると同時に結界が消え、足場を失った事により落下していく。
更に頭上からは、巻き上がった土砂が降り注ぎ、生き残った人型を埋め立てる。
そして、同様に足場を失い、なすすべなく落下する天使像。その巨体故、全身が埋まることはなかったが、肩口より下は完全に埋まり頭だけを晒す無様な姿をその場に残した。
……そして、吹き飛ばされない様に伏せるカッターナの住民たちを余所に、ゴドウィンはその影に隠れる様に、北西へ向けて逃げる様に飛び去った。
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魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
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勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
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チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
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