憑き物付きの九十九さん

こよみ

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澪ちゃん初めての出勤

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さて、どうしよう…。

澪は、事務所の前で悩んでいた。
初めての出勤は元気よく挨拶しながら入っていくべきか、それとも清楚で礼儀正しい少女を演じるべきか…。

バイトなんて初めてだし、よく考えたら男女が1つの部屋で過ごすなんて、間違いがあるかもしれないし?私って自分で言うのもアレだけど可愛い部類に入ると思うんだよね。うん。
それに、話を聞いて掃除したりするだけで1万円って、それもうメイドじゃん?あ、もしかしてメイド服とかに着替えさせられちゃったりするのかな…。ご、ご主人様とか私言っちゃうの?私言っちゃうのか!?

そんな妄想を膨らませていると、急に事務所のドアが開いた。

「入りなよ。」

「あ。はい。」

九十九に促されるまま、昨日と同じソファーに座る。

「さて──。」

ドカッと正面のソファーに座ったかと思うと、ぐわんと前かがみになり、何かを考え込むかのように額の前で指を組む。

「まずは、澪ちゃんの誤解を解いてからの方が良さそうだ。」

誤解…?なんの事だろうか。

「まず、僕は確かに君を雇ったが、メイドとして雇ったつもりは無い。ましてや、女子高生に手を出して捕まるつもりもない。確かに君は可愛い部類に入るんだろうけど、僕は男女関係なく、生きてる人間に興味はないんだ。」

私の痛い妄想が…読まれた…?

「なぜ読まれたかって?」

まただ。私の思考が読まれてる。

「それは君の後ろに居るのが、全部教えてくれるんだよ。別に聞きたくて聞いたわけじゃない。たまたま教えてくれただけだから、そんなに警戒しないでいいよ。」

思わず澪は後ろを振り返ったが、そこには誰も居るはずがなかった。

「あの…ごめんなさい。色々と理解が追いつかないんですけど。」

昨日もそうだったけど、本当にこの男の話す言葉はよくわからない。

「そうだなぁ…。澪ちゃんは、幽霊やおばけの存在は信じてるかい?」

さっきの姿勢のまま、チラッと目線だけを向けながら聞いてくる。この男、絶対に自分がカッコイイのをわかっててやっている。いや、確かにかっこいいんだけど、何かムカつく。

「うーん…。私は見たことないので信じてない…です。」

また思考を読まれたらマズいと思い、脳内で飼い猫のミーちゃんがトランポリンで飛び跳ねてる絵をひたすら想像する。

「いや、常に何を考えているのかわかるわけじゃないから、そんな警戒しないでいいよ。」

少しバツの悪そうな顔をして、鼻の頭をポリポリと掻きながら続けた。

「じゃあ、目に見えない物は信じないのかな?ここにあるはずの酸素や水素、スマホの電波なんかも目に見えないけど?」

少しバカにしたような口調で話す九十九に、少しイラっとしながらも少し強めの口調で反撃する。

「そんなの極論過ぎますよ!空気や電波は科学的にも存在を証明出来るけど、幽霊やおばけは証明出来ないじゃないですか!」

「そう!その通り!証明できないんだよ。でもね、証明出来ないけど存在しているものなんて、この世にいくらでもあるんだよ。」

九十九はソファーにふんぞり返るように座り直し、足を組む。

「例えば………。」

女性のように細長い人差し指を、ピンっと立たせた。自然と目が九十九の指に向いてしまう。

「私たちが生きるこの銀河系、つまり宇宙はどうやって誕生したと思う?」

「それは、ビックバンが起こって…。」

「そんな教科書に載ってるような、お利口さんの答えはいらないよ。」

私の回答は、バッサリと切り捨てられたらしい。

「いいかい?ビックバンなんてのは、どうにかして科学的に説明したくて無理やりこじつけたような理論だ。言ってしまえば、ただの推測にしか過ぎない。多分、こうなんだろう。きっとこうなるはずだ…みたいなね。つまり、女子高生の痛い妄想みたいなもんだよ。」

……やめてください。恥ずかしくて死んでしまいます。

「でも、実際に私達はこうして生きてますよね?」

出来るだけ平静を装って、澪は返した。

「そうだね。よく分からない宇宙の中の、よく分からない地球と言う星で生きてる。誰がどうやって作ったのか、誰も証明出来ないけど、それを受け入れて当たり前のように過ごしてる。」

確かにその通りだけど、どうにも腑に落ちないのは、私が文明人でありたいと思っているからだろうか。

「偶然や奇跡なんて言葉は確かに便利だよね。だけど、どうしてそれが必然だという考え方をしないのか。僕は、それが不思議で仕方ない。僕達の想像すらも及ばない高位の存在が居て、それらが何らかの目的で創ったと考えた方が余程辻褄が合うと思わないかい?」

私は宗教か何かの勧誘を受けているんだろうか。でも、確かにそう言われると納得したくなる自分もいる。

「人はそれを創造主、わかりやすく言うと神として数千年以上もの長い時間をかけて崇めてきた。僕からすれば、訳の分からないビックバンの一言でこの世界の誕生を片付けようとする理論とも言えない理論の方がオカルトだと思うけどね。」

最後の方は吐き捨てるように話すと、「ふぅ…」と呼吸を整えた。
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