世界の終わり、茜色の空

美汐

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第二章 遡る世界

遡る世界1

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 ジリリリリ――ッ。

 けたたましく鳴り響く目覚まし時計を、布団の隙間から手探りで止める。しばらくそのまま布団の気持ちよさを味わったあと、ゆっくりと体を起こした。
 ううーん、と伸びをし、朝の空気を吸い込んだ。
 なにか妙な夢を見ていた気がする。やけにリアルで、とても夢とは思えなかった。
 だけど、やはりあれは夢だった。あんなふうに世界が崩壊するなんて、絶対にありえない。夢でよかったと本当に思う。

 私はそろそろとベッドから抜け出し、服を着替えようと、壁にかけてある制服の前に立った。そして、その隣に貼られているカレンダーに目を向け、ふと動きを止めた。
 そういえば、今日は試験の日だったっけ? あれ? あれは夢だったのだから、明日が試験?
 夢と現実がごちゃ混ぜになって、今日がいつだかわからなくなっていた。
 机の上に置いてあるスマホに手を伸ばし、日にちを確認する。

「ん? あれれ?」

 私は目を擦り、その日にちを何度も見直した。そして壁に貼ってあるカレンダーを再び確認して、スマホに表示されている日にちと曜日を見比べる。

「え? 10月22日? 土曜日ってことは学校休み?」

 私は自分が寝ぼけてしまっているのかと混乱した。
 昨日月曜日で学校へ行って、次の日から試験だという話を朔や京としていた。……ような気がする。

「あれは夢……?」

 そうつぶやいて、そのあととてつもなく大変なことが起きていたことを思い出した。

 ――世界の終わり。

 突然、なんの前触れもなく、世界は崩壊した。世界を構成する要素が、原子レベルで解け、霧散し、消えていった。
 あとにはなにも残らない。
 それは虚無。
 世界は影も形もなくなっていった。

 全身の血が頭の先から急速に足元へと落ちていくような感覚がした。恐ろしいとか、そんなレベルの話じゃなく、ただただわけのわからない圧倒的な現実の前に打ちのめされたような、そういう感じ。

「あんなの、夢よ。夢に決まってる。だって、今私はここにいる。世界はここにまだ存在している……」

 あまりにとてつもない夢を見たせいで、今認識している世界への現実感が薄れているのだ。
 下に行こう。きっと両親はそこにいて、いつもと変わらない日常の風景のなかにいるはずだ。
 私はパジャマ姿のまま部屋を出て、駆け足ぎみに階段をおりていった。

「おはよう。茜」

 リビングのドアを開けると、奥のキッチンのほうから母親の声が聞こえてきた。ダイニングの席では父親が座って新聞を広げている。

「おはよう」

「おはよう」

 私が朝の挨拶をすると、父もそれに応えた。それに安堵しつつ、私もダイニングの自分の席についた。

「今日って10月22日土曜日で間違いない……よね?」

 父親の読んでいる新聞の日付を見ながらそう言う。そこに印刷されていた日にちは間違いなく10月22日だった。

「そうよ。なに茜。寝ぼけてるの?」

「え? ううん。そういうんじゃないけど……」

 怪訝そうな表情をする母親に、私は夢で見たことをどう説明しようか迷い、やはりやめた。どうせ馬鹿な夢を見たと揶揄されるだけだ。
 私はなにげなくテレビを点け、流れていた朝のニュース番組をながめた。そこでは水族館でシャチの赤ちゃんが生まれたというニュースが流れていた。

「またこのニュースやってる。確かに可愛いけど」

 私がそう言うと、母親が私の思っていたのとは違う反応を示した。

「あ、とうとう生まれたのね! 妊娠してるって話は聞いてたけれど、いつ生まれるんだろうってずっと気になっていたのよね」

 私はそんな母の反応に驚きと違和感を覚え、目を瞬いた。

「え? だってこのニュース、この前もやってて……」

「なに言ってるの? ほら、アナウンサーも言ってるじゃない。つい一時間前にシャチの赤ちゃんが生まれたって。なにかと勘違いしてるんじゃないの?」

「え?」

 確かにテレビの画面では、アナウンサーがシャチの赤ちゃんは一時間前に生まれたということを伝えている。

 なんで? なんかおかしい。

 そう思い、記憶をたどると私はさらに混乱した。そう。このニュースは見た記憶がある。土曜日の休日のこの時間。そのときもこうしてダイニングの席に座ってテレビでこのニュースを見ていた。母親の反応もそれとそっくり同じ。まるで録画した映像を観ているかのようだった。

 夢のなかで起きたことが現実と重なっている?
 わけがわからず、頭を抱えた。

「茜? 頭でも痛いのか?」

 父が心配したのか声をかけてきた。

「あ、ううん。なんでもない……」

 全然なんでもない状況ではなかったが、説明するのも億劫だった。
 夢で起きたことが繰り返されている。
 このことがなにを意味しているのか、このときの私はまだわかっていなかった。

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