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第一章 終わりの始まり
10月24日 PM17:00 終わりの始まり
しおりを挟む夕方は一日の終わりのとき。
今は電気が普通にあって、夜になっても街は明るく煌々と光っているけれど、昔の人は太陽が沈むと同時に寝て、太陽が昇ると起きるという生活をしていたのだという。
だったら、街は眠らないとしても、やっぱり世界が茜色に染まるこの時間は一日の終わりの時間なのだと思う。
私はそんな、自分の名前の色で空が美しく染まるこの時間が大好きだった。
その日、試験前ということで部活動がなかったこともあり、たまたま私と朔と京で一緒に帰ることになった。
友達の真由は先生に頼まれた用事があって、少し遅くなるというので、私たちは先に帰ることにしたのだ。
幼馴染みでもある京とは家が近く、朔とも帰る方向は同じなので、いつもではないけれど、たまにこうして三人で帰ることもあった。
「あーあ。明日から試験かよ。試験勉強かったりいなー」
朔は憂鬱そうに肩を落として言う。
「普段から授業で習ったことの復習をきちんとしていれば、試験勉強なんて慌ててやらなくてもちゃんとできるはずだ。お前みたいに前日に詰め込むタイプの気が知れないよ僕は」
「出たよ出た出た。できる人間の余裕の発言! いいよな、試験で赤点なんて取ったことのないやつは」
「だから、僕はそうならないために普段からきちんとだな……」
いつものようにああだこうだ言い合い始めた二人を、私は微笑ましく見ていた。なんだかんだ言っても、私はこの二人が結構仲良しなことを知っている。
互いに自分に無いものを持っている相手だからこそ、それぞれが認めあっているような気がする。
「茜は?」
「へ?」
突然こちらに話を振られ、思わず言葉に窮する。
「だから、試験勉強どうしてんだって話」
「あー、そんなの……」
ちらりと京に視線を送ると、途端に渋い表情が返ってきた。
「ん? ……って、そういうことか! さては茜、京に試験範囲のアドバイスもらってんだろ。ずりーぞ!」
「いいじゃない。持つべきものは、頭のいい幼馴染みよね~」
「おい! こうなったら、京。俺にも勉強教えてくれ! このままお前んち寄るから」
「朔も……? ああ、もう……わかったよ。好きにしたらいい」
京は顔を手で覆い、深海に潜るようなため息をついていた。しかし、私と朔は互いに目配せして喜びあった。
西の空が茜色に染まり、遠くに見える海や山の上を美しく彩っていた。
高台に位置する学校の帰り道から見えるこの光景が、私はとても好きだった。
帰りを急ぐ生徒たち。緩やかに続く坂道。ゆっくりと沈んでいく太陽。
どこか懐かしいと感じるのは、消えゆく今日を惜しむ気持ちからだろうか。心のなかの原風景が、この景色と重なるからだろうか。
太陽が西の山の端にかかり、光を滲ませていく。山陰に飲み込まれるように、世界から光が消えていく。
一日の終わり。
茜色の空。
そして太陽の切れ端が、ゆっくりとすべて山の向こうに沈んでいった。
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*
なにが起こったのか、私には理解できなかった。
世界から太陽が消えたその瞬間、世界を構築していた糸が切れ、すべてがほどけていくように崩れていった。
そこで歩いていた人も、道端に生えていた草花も、踏みしめていた大地さえ消えてなくなり、私はなにもない空間に投げ出されていた。
すべての色彩はなくなり、あらゆるものの形は消えてしまっていた。
私は私自身すらわからなくなり、なにもかもが失われていくのだけを感じていた。
ただ、最後に思ったのは、近くにいた誰かの存在で、けれど、それがなんであったかも、すぐにわからなくなっていった。
その日突然に、世界は終わった。
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