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第一章 終わりの始まり
10月24日 PM12:35 朔
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あらゆることには、理由がある。
たとえば今、購買で大量のパンを買っているこの状態もまたそうである。
弁当を持ってき忘れてしまった俺は、朝からの空腹に耐えに耐えて、この購買部が開く時間を今か今かと待っていた。
そして午前の授業が終わるやいなや、一目散に走ってここまで駆けつけた。
「おばちゃん! メロンパンとあんパンとコロッケパンと焼きそばパン二つちょーだい!」
「あいよ! まいどありがとね!」
艶々として恰幅のいいおばちゃんは、俺の注文を受けると元気よく受け答えた。
すでに俺がたどり着いたときには、購買部の前は、パンを買いにきた生徒たちが並び始めていた。
やはり地の利がこの戦いではものを言う。購買部からかなり離れた教室から駆けつけなければならない俺の場合、相当速く走らなければ、目的のパンを手にすることが難しくなる。
だが、毎日陸上部で鍛えた健脚は伊達ではない。購買部へ向かう他の生徒らをどんどん抜かし、俺は行列のかなり前の方につくことができたのだった。
そうしてようやくたどり着いた最前列は、まさにこの戦争を勝ち抜いた勝者の場所だ。
おばちゃんにパンを注文した俺は、なおも後方から押し寄せる敵を必死で抑えながら、おばちゃんがパンを袋に詰めるのを待つ。
「おばちゃん、早く!」
「ハイハイ! 今渡すよ!」
急かすと、おばちゃんは素早く俺にパンの入った袋を手渡した。
「サンキュー!」
「まいどあり!」
俺は敵陣をなんとか抜けると、戦利品を確かめ、にんまりとした。
朝からペコペコだったお腹の虫は、もうすっかり鳴き尽くしたと思っていたら、パンを見た途端に元気を取り戻した様子で、また盛大に鳴り出した。
「まあ待て、俺の胃袋。教室まではすぐだ。焦る気持ちはわかるが、あと少しだ。頑張れ!」
自分の胃袋に叱咤激励を飛ばし、戦利品を手にした俺は、教室へと急いだ。
ガツガツと貪るようにパンをお腹に詰め込んでいく俺を、隣の席で女友達と弁当を食べていた茜が呆れたように見つめていた。
「朔、相当お腹空いてたんだね。ダイソンも真っ青の吸引力だよ……」
「そりゃ、朝から死にそうに腹が減ってたからな。ようやくありつけて、助かったぜ」
「さっきまで飢えて酷い顔になってたからな。しかし、なかなかにエネルギー効率の悪い体だな」
「うるせーよ京。っていうか、今日もまたうまそうな弁当だな。その玉子焼きもーらい!」
と、俺は後ろを振り返って京の弁当箱から鮮やかな黄色に光る玉子焼きをすばやくかっさらってやった。
「あっ! 朔の馬鹿! また僕の力作の玉子焼きを!」
「んー、なかなかだな。だが、茜の玉子焼きにはまだもう一歩及ばずといったところか。精進しなさい」
「く……っ。なにゆえ貴様に僕の玉子焼きの批評を受けなければならないのか甚だしく疑問だが、茜の玉子焼きがおいしいのは悔しいが認めよう。見てろ。次はもっとおいしく作ってみせる!」
意外と乗せられやすい京は、まんまと俺の弁当補助係となったようだ。このぶんだと、そのうち弁当まるごと俺のぶんまで作ってくれるかもしれない。
俺がひとりほくそ笑んでいると、茜がこちらを見て、クスクスと笑っていた。
そんな様子を見ていたら、自然と笑みが伝染し、俺の心はハッピーな色で満たされていった。
たとえば今、購買で大量のパンを買っているこの状態もまたそうである。
弁当を持ってき忘れてしまった俺は、朝からの空腹に耐えに耐えて、この購買部が開く時間を今か今かと待っていた。
そして午前の授業が終わるやいなや、一目散に走ってここまで駆けつけた。
「おばちゃん! メロンパンとあんパンとコロッケパンと焼きそばパン二つちょーだい!」
「あいよ! まいどありがとね!」
艶々として恰幅のいいおばちゃんは、俺の注文を受けると元気よく受け答えた。
すでに俺がたどり着いたときには、購買部の前は、パンを買いにきた生徒たちが並び始めていた。
やはり地の利がこの戦いではものを言う。購買部からかなり離れた教室から駆けつけなければならない俺の場合、相当速く走らなければ、目的のパンを手にすることが難しくなる。
だが、毎日陸上部で鍛えた健脚は伊達ではない。購買部へ向かう他の生徒らをどんどん抜かし、俺は行列のかなり前の方につくことができたのだった。
そうしてようやくたどり着いた最前列は、まさにこの戦争を勝ち抜いた勝者の場所だ。
おばちゃんにパンを注文した俺は、なおも後方から押し寄せる敵を必死で抑えながら、おばちゃんがパンを袋に詰めるのを待つ。
「おばちゃん、早く!」
「ハイハイ! 今渡すよ!」
急かすと、おばちゃんは素早く俺にパンの入った袋を手渡した。
「サンキュー!」
「まいどあり!」
俺は敵陣をなんとか抜けると、戦利品を確かめ、にんまりとした。
朝からペコペコだったお腹の虫は、もうすっかり鳴き尽くしたと思っていたら、パンを見た途端に元気を取り戻した様子で、また盛大に鳴り出した。
「まあ待て、俺の胃袋。教室まではすぐだ。焦る気持ちはわかるが、あと少しだ。頑張れ!」
自分の胃袋に叱咤激励を飛ばし、戦利品を手にした俺は、教室へと急いだ。
ガツガツと貪るようにパンをお腹に詰め込んでいく俺を、隣の席で女友達と弁当を食べていた茜が呆れたように見つめていた。
「朔、相当お腹空いてたんだね。ダイソンも真っ青の吸引力だよ……」
「そりゃ、朝から死にそうに腹が減ってたからな。ようやくありつけて、助かったぜ」
「さっきまで飢えて酷い顔になってたからな。しかし、なかなかにエネルギー効率の悪い体だな」
「うるせーよ京。っていうか、今日もまたうまそうな弁当だな。その玉子焼きもーらい!」
と、俺は後ろを振り返って京の弁当箱から鮮やかな黄色に光る玉子焼きをすばやくかっさらってやった。
「あっ! 朔の馬鹿! また僕の力作の玉子焼きを!」
「んー、なかなかだな。だが、茜の玉子焼きにはまだもう一歩及ばずといったところか。精進しなさい」
「く……っ。なにゆえ貴様に僕の玉子焼きの批評を受けなければならないのか甚だしく疑問だが、茜の玉子焼きがおいしいのは悔しいが認めよう。見てろ。次はもっとおいしく作ってみせる!」
意外と乗せられやすい京は、まんまと俺の弁当補助係となったようだ。このぶんだと、そのうち弁当まるごと俺のぶんまで作ってくれるかもしれない。
俺がひとりほくそ笑んでいると、茜がこちらを見て、クスクスと笑っていた。
そんな様子を見ていたら、自然と笑みが伝染し、俺の心はハッピーな色で満たされていった。
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