世界の終わり、茜色の空

美汐

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第二章 遡る世界

遡る世界3

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 世界が崩壊する。
 砂が手のひらからこぼれ落ちてなくなってしまうように。
 そこに存在していたものは跡形もなく、気配すらもなくなってしまう。

「世界の消えた日から時が戻っているみたいなの」

 私は自分が体験した事柄をできるだけわかりやすく二人に説明した。した、つもりだ。
 朔も京も、しばらく黙っていた。早くなにかを言って欲しい気持ちと、否定されるのが怖いような気持ちがせめぎ合っていた。

「いつ?」

 ぽつりと言ったのは、京だった。

「え?」

「何日前に戻ったかわかるか?」

「え、ええと……気づいたのは今朝だけど……確かこの週の金曜日は早く寝てしまったみたいだから、本当はもう少し前に戻っていたのかも……」

「三日前」

「え?」

「僕は三日前に戻っている」

 目を瞬いた。

「ど、どういう意味……? 戻っているって……」

「世界が消えたあの日、10月24日から数えて三日前に戻っているんだと思う。正確には21日の日没後、だな。ただ21日の夕方太陽が落ちたあと、翌日太陽が昇るまでの時間は曖昧で正確なことはわからないが」

「そ、それって……」

 私が言おうとすると、それを遮るように朔が声をあげた。

「なんなんだよそれ! わけわかんねーよ! 俺たちどうしてそんなことになっちまったんだ?」

 俺たち、という言葉に私は朔の顔を見た。どこか焦りの見える表情が、いつもの朔らしくない。だけど、だからこそ、それが嘘の表情ではないということを私は悟った。
 私は一度深呼吸をして、それから二人に向き直った。

「じゃあ、二人も時を遡った……ってこと? あの世界の崩壊も知ってる……のよね?」

 朔も京も、少しだけためらいながら、どちらからともなくうなずいていた。

 信じられなかった。
 二人の話を聞くまで、やはりどこか夢のなかの出来事のようで、自分の勘違いかもしれないと思っていたことが、こうして話を聞いて現実味を帯びてしまった。
 時間を遡ったことも信じられないことだけれど、それよりも深刻なのは、あの世界の崩壊を他の二人も知っていたことだ。

「もしこれが現実だとしたら、同じことがこの先も待っているってことだよね? それって……」

「アレがまたやってくんのか? 世界が崩れ落ちて、なんにもなくなってしまう……」

 私と朔はそれから絶句したように言葉をなくしていた。訳のわからないことが多すぎて頭は混乱をきたしていた。
 どうしたらいいのか、なにを考えたらいいのかすらわからない。
 自分の頭が、思考することを投げだしてしまったみたいだった。

「……タイムリープ」

 ぽつりとつぶやいたのは、京だ。俯いていた私と朔は、救いを求めるかのように彼に向けて顔をあげる。

「僕たちは、なんの偶然かわからないが、同じ時間をタイムリープしたんだ。世界が終わる三日前に」

 落ち着いた京の声に、ざわざわとしていた心が少し落ち着きを取り戻していった。

「タイムリープって……よく漫画とか映画やドラマとかであるやつだよな? そんなことが現実に起こったっていうのか? しかも三人が同時に?」

「そう考えるしかないだろうな。これが夢じゃないんなら」

「でも、なんで? どうして私たちだけがタイムリープしたの? あの世界の崩壊となにか関係があるの?」

「……わからないが、関係ないとは言い切れないだろうな」

 京の返事は、期待したものではなかったが、予想通りではあった。
 世界の崩壊と同時にタイムリープが起こった。
 それがどんな意味を示しているのかわからないが、私たちがとんでもないことに巻き込まれているということだけはわかった。

「とにかく、世界が今も存在しているということは、あの世界の崩壊は免れたと思っていいのかな? もしそうなら、タイムリープしたことはよかったんじゃないのかな」

 私の言葉に、しかし京はうなずかなかった。できるだけ嫌な想像をしたくないと深く考えることを避けていたが、彼はそれを許さないようだ。わかっていたことだけど。

「過去が繰り返されているということは、再びあの瞬間がやってくる可能性は高いと思う。もちろん茜の言う通り、回避したという可能性もあると思うが、やはりそうでない可能性を考えないでいるわけにはいかないだろうな」

 脳裡によみがえるあのときの光景。一瞬のことだったはずだけれど、記憶のなかではすべてがスローモーションになっていた。足下にあった地面が崩れ去り、周囲にあったすべてが塵のように粉々になって消えていった。
 やがては自分の体すら消え去り、残った意識さえもが、いつの間にか闇に飲まれていった。

「……怖い。なんでそんなことが起きるの? 嫌だ。あの世界の崩壊がまたやってくるなんて、信じたくない」

 私はこみ上げてくるものを堪えきれず、両手で顔を覆った。
 絶望が全身を支配していく。悲しいのに、思考が麻痺してしまっているみたいでなにも考えることができなかった。
 どうしようもない大きななにかによって、すべてが無に消えてしまうなんて、そんなことがあるだろうか。死の恐怖とはまた違う底知れない怖さに、私は酷く怯えた。

「……茜」

 ためらいがちに、呼びかけてきたのは朔だった。

「怖いのは、俺も一緒だ。なさけねーけど、あの世界の崩壊のことを思い出すだけで震えがくる。……けど、俺たちは一人じゃない。三人いる」

 顔をあげると、そこには少しだけ不安混じりではあるが、懸命に笑顔を作っている朔の姿があった。

「なんとかなる。そう思うしかねーんじゃねえかな」

 朔は、空を見上げながらそう言った。
 青くどこまでも透き通った空。
 それを見て、私は少しだけ救われた気持ちになった。

「……そうだね。そうかもしれない」

 今はきっとそう思うよりない。世界がもうすぐなくなるのだとしても、なにもできることはないのかもしれなくても。
 なんとかなる。
 朔の言葉は不思議と胸に響いた。
 ふと見ると、京の顔にも微かに笑みが浮かんでいた。      

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