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第三章 世界が終わる前にやりたいこと
世界が終わる前にやりたいこと1
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世界がもうすぐなくなるとしたら、なにをしたい?
どこかで聞いたようなフレーズ。
でも、本当の意味でそれを考えたことが、かつてあっただろうか。
世界がもうすぐ失われるかもしれないと、実際に体感として実感している今、僕はこれからなにをすればいいのかと考え、愕然とした。
わからないのだ。
それが。
「これからどうする?」
「とりあえず腹減ったな。なにか食べにいこーぜ」
茜と朔は、先程までの悲壮感からは想像もできないほど普段と変わらないように見えた。
「ねえ、京はなにが食べたい?」
茜が振り向いて僕に問いかける。
「ああ……。なんでもいい」
「ちょっと! なんでもいいっていうのが一番困るっていつも言ってるでしょ。どうせならおいしいもの食べておきたいよね」
「だな。もし世界がなくなるとしたら、食べたいもの食べておいたほうがいいもんな」
確かに二人の言うこともわからなくはない。とりあえずなにもしていなくてもお腹はすく。どうせなら食べたいものを心おきなく食べておきたい。
だけど、本当に今それをする必要があるのか?
もっと僕たちにはなにかしなければいけないことがあるのではないか?
けれど、そのしなければならないなにかがわからない。
世界を救う方法を考える、なんて到底無理なことだし、タイムリープの原理などを考えたところでどうすることもできない。
とにかく、僕たちになにもできることはなかった。
なにか特異能力があるわけでも、権力を持っているわけでもない。もしあったとしても、今のこの現状をどうにかすることなんてできるとも思えない。
僕たちはただ受け入れることしかできない。
世界がもうすぐ終わるのだとしたら、いったい僕はなにをすべきなのだろう?
『満天』というその古めかしい定食屋は、学生がよく通う店とあって、値段が安い割にボリュームのあるメニューが揃っていた。
店選びに迷った挙げ句、結局落ち着いたのは、朔行き付けのここだった。
「おばちゃん。俺カツ丼ね」
「私は天丼」
僕以外の二人はすぐに注文の品を選んでいた。僕はといえば、それほど食欲もなかったこともあって、悩んだ末、きつねうどんを選択した。
店内は、僕たち以外に二組のお客さんが入っていた。店の角に設置されたテレビからは、お昼のニュースが流れている。
注文の品は、頼んでからそう時間も経たないうちに運ばれてきた。ほかほかと湯気が立つなか、出来立ての食事をみんなで口に入れる。
うどんを一口すすると、自分が思っていたよりもお腹が減っていたのか、食欲が急激にわいてきた。うどんの温かさが体中に染みていく。緊張していた心が、ゆっくりほどけるように緩んでいった。
「さて、これからどうするべや」
ぽつりとつぶやいた朔の言葉にどきりとする。見れば朔のカツ丼はすでに綺麗に空になっていた。
「このままだと、またあのときがそのまま訪れるんだよね。きっと」
茜も箸を止めて言う。
しんと一瞬、僕たちのテーブルに沈黙がおりた。急に今置かれた自分たちの状況に向き合い、思考は停止する。
「……なにかねーのかな? 世界の終わりを避ける方法とか」
「だよね。もしそれがわかれば、私たちにもなにかできることがあるのかも」
しかし僕は二人の意見に対し、答える言葉を持たなかった。視線を投げかけてくる彼らに、首を横に振ってみせる。
「……原因がわからない以上僕たちにできることはないと思う。原因がわかったところで、アレをどうやって止めることができるのか、想像もつかないよ」
そう。あの世界の崩壊は、人間がなにかできるというレベルの問題ではない。
なにか、素粒子とか宇宙レベルの想像を超えたことが、僕たちの世界に起こったのだ。
核戦争とか、隕石が地球に落ちてきたとか、そういうわかりやすい世界の終末とはまた違う、神の世界の話というか、人類には想像し得ないことが起きたのだ。
しかし、僕たちはその世界から遡ってここにいる。
そこになにか意味があるのか。僕たちがここにいる理由はなんなのか。
そういう意味でいえば、なにかを僕たちは為さねばならないのかもしれない。
「うーん、京にもわからないってことは、私たちが考えたところで答えなんか見つかるはずないよね」
「だな。それならそのことでいつまでも悩んでいても仕方ない」
「じゃあ、あれかな」
「あれだな」
茜と朔がなにかを思い付いたのか、二人で納得したようにうなずきあっていた。しかし僕には二人の言わんとしていることがまだ想像できずにいた。
「なんだ? あれって」
訊ねると、二人は口を揃えたようにこう言った。
「「世界が終わるまでにやりたいことをやる」」
どこかで聞いたようなフレーズ。
でも、本当の意味でそれを考えたことが、かつてあっただろうか。
世界がもうすぐ失われるかもしれないと、実際に体感として実感している今、僕はこれからなにをすればいいのかと考え、愕然とした。
わからないのだ。
それが。
「これからどうする?」
「とりあえず腹減ったな。なにか食べにいこーぜ」
茜と朔は、先程までの悲壮感からは想像もできないほど普段と変わらないように見えた。
「ねえ、京はなにが食べたい?」
茜が振り向いて僕に問いかける。
「ああ……。なんでもいい」
「ちょっと! なんでもいいっていうのが一番困るっていつも言ってるでしょ。どうせならおいしいもの食べておきたいよね」
「だな。もし世界がなくなるとしたら、食べたいもの食べておいたほうがいいもんな」
確かに二人の言うこともわからなくはない。とりあえずなにもしていなくてもお腹はすく。どうせなら食べたいものを心おきなく食べておきたい。
だけど、本当に今それをする必要があるのか?
もっと僕たちにはなにかしなければいけないことがあるのではないか?
けれど、そのしなければならないなにかがわからない。
世界を救う方法を考える、なんて到底無理なことだし、タイムリープの原理などを考えたところでどうすることもできない。
とにかく、僕たちになにもできることはなかった。
なにか特異能力があるわけでも、権力を持っているわけでもない。もしあったとしても、今のこの現状をどうにかすることなんてできるとも思えない。
僕たちはただ受け入れることしかできない。
世界がもうすぐ終わるのだとしたら、いったい僕はなにをすべきなのだろう?
『満天』というその古めかしい定食屋は、学生がよく通う店とあって、値段が安い割にボリュームのあるメニューが揃っていた。
店選びに迷った挙げ句、結局落ち着いたのは、朔行き付けのここだった。
「おばちゃん。俺カツ丼ね」
「私は天丼」
僕以外の二人はすぐに注文の品を選んでいた。僕はといえば、それほど食欲もなかったこともあって、悩んだ末、きつねうどんを選択した。
店内は、僕たち以外に二組のお客さんが入っていた。店の角に設置されたテレビからは、お昼のニュースが流れている。
注文の品は、頼んでからそう時間も経たないうちに運ばれてきた。ほかほかと湯気が立つなか、出来立ての食事をみんなで口に入れる。
うどんを一口すすると、自分が思っていたよりもお腹が減っていたのか、食欲が急激にわいてきた。うどんの温かさが体中に染みていく。緊張していた心が、ゆっくりほどけるように緩んでいった。
「さて、これからどうするべや」
ぽつりとつぶやいた朔の言葉にどきりとする。見れば朔のカツ丼はすでに綺麗に空になっていた。
「このままだと、またあのときがそのまま訪れるんだよね。きっと」
茜も箸を止めて言う。
しんと一瞬、僕たちのテーブルに沈黙がおりた。急に今置かれた自分たちの状況に向き合い、思考は停止する。
「……なにかねーのかな? 世界の終わりを避ける方法とか」
「だよね。もしそれがわかれば、私たちにもなにかできることがあるのかも」
しかし僕は二人の意見に対し、答える言葉を持たなかった。視線を投げかけてくる彼らに、首を横に振ってみせる。
「……原因がわからない以上僕たちにできることはないと思う。原因がわかったところで、アレをどうやって止めることができるのか、想像もつかないよ」
そう。あの世界の崩壊は、人間がなにかできるというレベルの問題ではない。
なにか、素粒子とか宇宙レベルの想像を超えたことが、僕たちの世界に起こったのだ。
核戦争とか、隕石が地球に落ちてきたとか、そういうわかりやすい世界の終末とはまた違う、神の世界の話というか、人類には想像し得ないことが起きたのだ。
しかし、僕たちはその世界から遡ってここにいる。
そこになにか意味があるのか。僕たちがここにいる理由はなんなのか。
そういう意味でいえば、なにかを僕たちは為さねばならないのかもしれない。
「うーん、京にもわからないってことは、私たちが考えたところで答えなんか見つかるはずないよね」
「だな。それならそのことでいつまでも悩んでいても仕方ない」
「じゃあ、あれかな」
「あれだな」
茜と朔がなにかを思い付いたのか、二人で納得したようにうなずきあっていた。しかし僕には二人の言わんとしていることがまだ想像できずにいた。
「なんだ? あれって」
訊ねると、二人は口を揃えたようにこう言った。
「「世界が終わるまでにやりたいことをやる」」
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