10 / 43
第三章 世界が終わる前にやりたいこと
世界が終わる前にやりたいこと3
しおりを挟む
僕たちの街から茜のおばあさんの暮らすところまでは、電車を乗り継いで二時間ほどで到着した。途中、電車の車窓から見える景色は、始めのころは建物ばかりだったものが、だんだん田んぼや山の景色へと移り変わっていくのが不思議だった。
同じ日本の同じ地方に暮らしていても、少し離れてしまうだけでこんなにも風景が違うものかとなぜか感慨深く思う。
目的の駅に到着すると、次に僕たちはバスに乗り込み、茜の祖母の家へと向かった。
「わー。この空気、久しぶり!」
青い空に、茜の伸びやかな声が響き渡った。
刈り取られたばかりの田んぼや、群生する竹林。それを懐に抱えるように鎮座しているのは、点々と赤や黄色に色づいた山々だった。
バスを降りた先にあったのは、そんなのどかな風景だった。
美しい、と素直に感じた。秋の景色がこんなにも美しいものだということをあらためて思った。
「本当に田舎だな」
朔が平気で失礼な発言をする。
「でも、いいところでしょ?」
だが、茜がそう言うと、「そうだな」とすぐにうなずく朔には、ちっとも悪気がないことがわかる。
「だけど、着いてしまえば近いものだよね。こんなに簡単に来られるなら、もっと早く来ればよかった」
「突然行っても大丈夫なのか? しかも孫の茜ばかりでなく、そのクラスメイトの男二人付きで」
「大丈夫。おばあちゃん優しいから」
僕の問いに、優しいからという、理由になっているのかいないのかよくわからない答えを寄こす茜。
「まあ、大丈夫なんじゃね? いざとなったら、別に俺たちは帰ればいいわけだし」
「そうか。それもそうだな」
ここまで付き合ってついてきた意味とか、そんなことは朔の頭には存在していないらしい。やはりどこまでも大物だ。羨ましくすら思う。
茜の祖母の家は、昔ながらの和風建築で、広い土地に平屋建ての一軒家だった。すぐ前には広い畑が広がっていて、なにかの野菜がたくさん生えている。
その畑のなかに麦わら帽子を被って草取りをしている人の姿を見つけると、茜は大きな声で呼びかけた。
「おばーちゃーん!」
それに気づいた茜のおばあさんは、立ち上がってきょろきょろと周囲を見回し、僕たちのいるほうに顔を向けた。遠目にも顔を綻ばせている様子がわかり、僕はなぜかほっとした気持ちになった。
茜がお構いなしに畑のなかに入っていくのを、僕と朔も後ろからついていった。茜とその祖母は出会った瞬間に手を取り合って喜んでいた。
「あれ~、なんやね茜ちゃん。突然会いに来てくれやーたの? ばあちゃんびっくりしたわ」
「おばあちゃん久しぶり。元気にしてた? 病気とかしてない?」
「そらこの通りぴんぴんしとるよ。まだまだようけ畑仕事をせないかんでね」
「もう、でも結構な歳なんだから、無理だけはしないでよ」
「まあ、茜ちゃんに心配してもらえるなんて嬉しいねえ。優しいいい子になって。それにしばらく見んうちにまた大きゅうなった。べっぴんさんにもなって、本当に私の自慢の孫だわ」
おばあさんは顔をくしゃくしゃにして笑っていた。しきりに孫の体を撫でてとても嬉しそうである。言葉の訛りは昔の人ならではのきつさで、少し面食らうほどだ。
「そんで、そっちの男の子んたーは誰やね? 茜のボーイフレンドとかいうやつかね?」
ボーイフレンド、という言葉に思わず僕は顔を熱くした。朔は「わはは」と笑い飛ばし、茜は慌てて訂正を入れていた。
「ちょっ。違うよ! おばあちゃん! この二人はただのクラスメートで、単なる友達なの! 変な誤解しちゃ駄目!」
「おや、ボーイフレンドつーのは、男の子の友達という意味じゃなかったかね? なにかおばあちゃん使い方間違えたんやろうか」
「え? あ、そういう意味? だったら間違いじゃない……のか」
茜は困った様子で頭の横を掻きながら、少し気まずそうに僕たちのほうを振り返った。その顔には苦笑が浮かんでいる。
「とりあえず紹介しておくね。こっちの背の高いほうが京で、こっちのくせっ毛が朔。なりゆきで一緒に来たけど、気にしないでね」
なんともざっくりとした紹介だったが、茜の祖母はそれで納得したらしく、鷹揚にうなずいていた。
「ほうかね。まあ、こんななんにもないところだけんど、ゆっくりしていきゃーすといいわ。私もすぐ家のほうに向かうで、茜と一緒に先にあがっとってちょうだい」
おばあさんはそう言うと、途中で止めていた畑の作業に戻っていった。僕たちは茜がうながすのに従って畑を逆戻りし、家のほうへと向かった。
同じ日本の同じ地方に暮らしていても、少し離れてしまうだけでこんなにも風景が違うものかとなぜか感慨深く思う。
目的の駅に到着すると、次に僕たちはバスに乗り込み、茜の祖母の家へと向かった。
「わー。この空気、久しぶり!」
青い空に、茜の伸びやかな声が響き渡った。
刈り取られたばかりの田んぼや、群生する竹林。それを懐に抱えるように鎮座しているのは、点々と赤や黄色に色づいた山々だった。
バスを降りた先にあったのは、そんなのどかな風景だった。
美しい、と素直に感じた。秋の景色がこんなにも美しいものだということをあらためて思った。
「本当に田舎だな」
朔が平気で失礼な発言をする。
「でも、いいところでしょ?」
だが、茜がそう言うと、「そうだな」とすぐにうなずく朔には、ちっとも悪気がないことがわかる。
「だけど、着いてしまえば近いものだよね。こんなに簡単に来られるなら、もっと早く来ればよかった」
「突然行っても大丈夫なのか? しかも孫の茜ばかりでなく、そのクラスメイトの男二人付きで」
「大丈夫。おばあちゃん優しいから」
僕の問いに、優しいからという、理由になっているのかいないのかよくわからない答えを寄こす茜。
「まあ、大丈夫なんじゃね? いざとなったら、別に俺たちは帰ればいいわけだし」
「そうか。それもそうだな」
ここまで付き合ってついてきた意味とか、そんなことは朔の頭には存在していないらしい。やはりどこまでも大物だ。羨ましくすら思う。
茜の祖母の家は、昔ながらの和風建築で、広い土地に平屋建ての一軒家だった。すぐ前には広い畑が広がっていて、なにかの野菜がたくさん生えている。
その畑のなかに麦わら帽子を被って草取りをしている人の姿を見つけると、茜は大きな声で呼びかけた。
「おばーちゃーん!」
それに気づいた茜のおばあさんは、立ち上がってきょろきょろと周囲を見回し、僕たちのいるほうに顔を向けた。遠目にも顔を綻ばせている様子がわかり、僕はなぜかほっとした気持ちになった。
茜がお構いなしに畑のなかに入っていくのを、僕と朔も後ろからついていった。茜とその祖母は出会った瞬間に手を取り合って喜んでいた。
「あれ~、なんやね茜ちゃん。突然会いに来てくれやーたの? ばあちゃんびっくりしたわ」
「おばあちゃん久しぶり。元気にしてた? 病気とかしてない?」
「そらこの通りぴんぴんしとるよ。まだまだようけ畑仕事をせないかんでね」
「もう、でも結構な歳なんだから、無理だけはしないでよ」
「まあ、茜ちゃんに心配してもらえるなんて嬉しいねえ。優しいいい子になって。それにしばらく見んうちにまた大きゅうなった。べっぴんさんにもなって、本当に私の自慢の孫だわ」
おばあさんは顔をくしゃくしゃにして笑っていた。しきりに孫の体を撫でてとても嬉しそうである。言葉の訛りは昔の人ならではのきつさで、少し面食らうほどだ。
「そんで、そっちの男の子んたーは誰やね? 茜のボーイフレンドとかいうやつかね?」
ボーイフレンド、という言葉に思わず僕は顔を熱くした。朔は「わはは」と笑い飛ばし、茜は慌てて訂正を入れていた。
「ちょっ。違うよ! おばあちゃん! この二人はただのクラスメートで、単なる友達なの! 変な誤解しちゃ駄目!」
「おや、ボーイフレンドつーのは、男の子の友達という意味じゃなかったかね? なにかおばあちゃん使い方間違えたんやろうか」
「え? あ、そういう意味? だったら間違いじゃない……のか」
茜は困った様子で頭の横を掻きながら、少し気まずそうに僕たちのほうを振り返った。その顔には苦笑が浮かんでいる。
「とりあえず紹介しておくね。こっちの背の高いほうが京で、こっちのくせっ毛が朔。なりゆきで一緒に来たけど、気にしないでね」
なんともざっくりとした紹介だったが、茜の祖母はそれで納得したらしく、鷹揚にうなずいていた。
「ほうかね。まあ、こんななんにもないところだけんど、ゆっくりしていきゃーすといいわ。私もすぐ家のほうに向かうで、茜と一緒に先にあがっとってちょうだい」
おばあさんはそう言うと、途中で止めていた畑の作業に戻っていった。僕たちは茜がうながすのに従って畑を逆戻りし、家のほうへと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる