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第三章 世界が終わる前にやりたいこと
世界が終わる前にやりたいこと5
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「王手!」
「うう……っ、その手があったのね」
「ふっふっふ。目先の金に釣られて、本当の危機に気づけなかったようだな。あれはおとりで、本当の狙いはこの5四銀打ちだったのだよ」
「ああ、もう! これ、もう無理なんじゃない? ああ逃げればこうくるでしょ。こっちに逃げても……うわあ、ねえ、待ったしていい?」
「駄目駄目。これは待ったなしの真剣勝負だ! そろそろ潔く負けを認めてはどうだね。茜くん」
「うわーん、悔しい! 朔のいじわる!」
「顔を洗って出直してきな」
将棋盤を挟んで、勝者と敗者がそれぞれ喜びと悔しさを滲ませていた。
早めの夕食が終わると、僕たちは将棋で遊び始めた。手持ちぶさたとなっていた僕のために、茜がどこかから将棋盤を持ってきたのである。
最初は僕と茜が対局していたが、途中から朔も起き出して、即席の将棋大会が始まっていた。ちなみに初戦を制したのは僕である。
その後、朔と茜が打ち始めたのだが、なかなかいい勝負ではあったものの、最終的には朔に軍配があがった。
「さて、次は京に一泡ふかせてやるぜ」
ぎろりとこちらを不敵な目付きで睨んでくる朔に、僕はさらりとあしらうように言う。
「これまでの戦績は僕の全勝だということを忘れているわけじゃないよな」
「……ぐ。今までのことは今までのことだ! 今度という今度はお前に黒星をつける! 覚悟しろ!」
一人で闘志を燃やしている朔には可哀想だが、僕の勝利は揺るぎないという自信がある。もちろん手加減などするつもりはない。
「勝てるものなら勝ってみるといい」
「その小憎らしい鼻っ柱、へし折ってやる!」
こうして僕と朔の対局が始まった。
茜のおばあさんの家で一泊するということを自宅に連絡すると、電話口に出た母はあっさり承諾してくれた。
それはいいのだが、電話を切る寸前に「頑張りなさいよ」という意味深な発言があったのが気になるところだ。
なにを!? と通話を切ったところで愕然と思ったが、あまり気にしていても仕方ない。母の妄想癖はいつものことだ。
朔のほうも大丈夫だった様子で、もう自分の家のように茜の祖母宅でくつろいでいる。茜は当然なんの問題もなく許可がおりたようだ。
「こんなこともあろうかと多少着替えを用意してきて良かった」
「え!? 京、着替えなんて持ってきてたのか? なんでそんな用意周到なんだよ」
「あ、私もおばあちゃんちに行くときの癖で着替えリュックに詰めてきておいて正解だったよ」
「茜も!? 俺は家に戻って準備するほどでもないと思って、財布だけしか持ってきてねえよ」
「ゴメーン。いきなり提案してこっちに来るの付き合ってもらっちゃったしね。京は家近いからその点では良かったんだけど」
「まあ、別に一日くらい服なんて同じの着てたってどうってことないけどな」
「あれだったら僕のを貸してやるぞ。下着は余分に持ってきてあるから」
僕がそう言うと、朔は途端に渋い顔になって叫ぶように言った。
「ぜってー嫌!!」
そんなどうでもいい会話のあと、茜が先に風呂へと行き、その間に僕と朔は将棋を打ち始めた。
パチリパチリと将棋盤に駒を並べていく。会話が止まると、一気に静けさが辺りを包んだ。
山奥の、一番近い隣家すら少し歩かなければならないほど離れた家屋には、深い静寂が満ちていた。車の通る音も周囲の人の声もまるで聞こえない。時折聞こえてくるのは、鳥かなにかの鳴き声くらいで、ここがいつもの生活圏から離れた場所だということをあらためて実感した。
「静かだな」
朔も同じことを思ったのか、そんなことをつぶやいた。
「ああ。でも、心地いい静けさだ」
僕が言うと、朔は笑みを浮かべた。
「このまま時間が止まってくれればいいのにな」
朔の言葉にどきりとする。
「このまま楽しい時間が続いてくれればいいのに」
朔の言葉に、僕はうなずくことしかできなかった。代わりに将棋の駒を指していく。
それから、朔もしばらく言葉を発しなかった。ただ黙々と将棋の駒を動かし続ける。
パチリ、パチリ。
しんとしたなかで、盤と駒が鳴らす音だけが響き渡る。まるで将棋盤の上で僕らは会話をしているようだった。
世界の終わる二日前の夜。
これからどうするべきか。この時間が本当に終わってしまうのか。
世界が終わる前に僕がやるべきことはなんだろう。
朔。
お前ならどうする?
僕の持たない答えを、お前なら持っているんじゃないのか?
これからのこと、今までのことをすべて後悔しないための答えを、お前なら――。
「うう……っ、その手があったのね」
「ふっふっふ。目先の金に釣られて、本当の危機に気づけなかったようだな。あれはおとりで、本当の狙いはこの5四銀打ちだったのだよ」
「ああ、もう! これ、もう無理なんじゃない? ああ逃げればこうくるでしょ。こっちに逃げても……うわあ、ねえ、待ったしていい?」
「駄目駄目。これは待ったなしの真剣勝負だ! そろそろ潔く負けを認めてはどうだね。茜くん」
「うわーん、悔しい! 朔のいじわる!」
「顔を洗って出直してきな」
将棋盤を挟んで、勝者と敗者がそれぞれ喜びと悔しさを滲ませていた。
早めの夕食が終わると、僕たちは将棋で遊び始めた。手持ちぶさたとなっていた僕のために、茜がどこかから将棋盤を持ってきたのである。
最初は僕と茜が対局していたが、途中から朔も起き出して、即席の将棋大会が始まっていた。ちなみに初戦を制したのは僕である。
その後、朔と茜が打ち始めたのだが、なかなかいい勝負ではあったものの、最終的には朔に軍配があがった。
「さて、次は京に一泡ふかせてやるぜ」
ぎろりとこちらを不敵な目付きで睨んでくる朔に、僕はさらりとあしらうように言う。
「これまでの戦績は僕の全勝だということを忘れているわけじゃないよな」
「……ぐ。今までのことは今までのことだ! 今度という今度はお前に黒星をつける! 覚悟しろ!」
一人で闘志を燃やしている朔には可哀想だが、僕の勝利は揺るぎないという自信がある。もちろん手加減などするつもりはない。
「勝てるものなら勝ってみるといい」
「その小憎らしい鼻っ柱、へし折ってやる!」
こうして僕と朔の対局が始まった。
茜のおばあさんの家で一泊するということを自宅に連絡すると、電話口に出た母はあっさり承諾してくれた。
それはいいのだが、電話を切る寸前に「頑張りなさいよ」という意味深な発言があったのが気になるところだ。
なにを!? と通話を切ったところで愕然と思ったが、あまり気にしていても仕方ない。母の妄想癖はいつものことだ。
朔のほうも大丈夫だった様子で、もう自分の家のように茜の祖母宅でくつろいでいる。茜は当然なんの問題もなく許可がおりたようだ。
「こんなこともあろうかと多少着替えを用意してきて良かった」
「え!? 京、着替えなんて持ってきてたのか? なんでそんな用意周到なんだよ」
「あ、私もおばあちゃんちに行くときの癖で着替えリュックに詰めてきておいて正解だったよ」
「茜も!? 俺は家に戻って準備するほどでもないと思って、財布だけしか持ってきてねえよ」
「ゴメーン。いきなり提案してこっちに来るの付き合ってもらっちゃったしね。京は家近いからその点では良かったんだけど」
「まあ、別に一日くらい服なんて同じの着てたってどうってことないけどな」
「あれだったら僕のを貸してやるぞ。下着は余分に持ってきてあるから」
僕がそう言うと、朔は途端に渋い顔になって叫ぶように言った。
「ぜってー嫌!!」
そんなどうでもいい会話のあと、茜が先に風呂へと行き、その間に僕と朔は将棋を打ち始めた。
パチリパチリと将棋盤に駒を並べていく。会話が止まると、一気に静けさが辺りを包んだ。
山奥の、一番近い隣家すら少し歩かなければならないほど離れた家屋には、深い静寂が満ちていた。車の通る音も周囲の人の声もまるで聞こえない。時折聞こえてくるのは、鳥かなにかの鳴き声くらいで、ここがいつもの生活圏から離れた場所だということをあらためて実感した。
「静かだな」
朔も同じことを思ったのか、そんなことをつぶやいた。
「ああ。でも、心地いい静けさだ」
僕が言うと、朔は笑みを浮かべた。
「このまま時間が止まってくれればいいのにな」
朔の言葉にどきりとする。
「このまま楽しい時間が続いてくれればいいのに」
朔の言葉に、僕はうなずくことしかできなかった。代わりに将棋の駒を指していく。
それから、朔もしばらく言葉を発しなかった。ただ黙々と将棋の駒を動かし続ける。
パチリ、パチリ。
しんとしたなかで、盤と駒が鳴らす音だけが響き渡る。まるで将棋盤の上で僕らは会話をしているようだった。
世界の終わる二日前の夜。
これからどうするべきか。この時間が本当に終わってしまうのか。
世界が終わる前に僕がやるべきことはなんだろう。
朔。
お前ならどうする?
僕の持たない答えを、お前なら持っているんじゃないのか?
これからのこと、今までのことをすべて後悔しないための答えを、お前なら――。
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