映画館で恋して

一花カナウ

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笹舟の行く先

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 また、別の日――。




 夏草が生い茂る細い川に笹舟を浮かべる。笹舟が行き着く先は何処なのだろうか。

 感傷的な気分で眺めていたら、橋脚に引っかかって笹舟が沈没した。

 うわぁ、ムードぶち壊し……。

 川に橋を掛ける誰かさんがいなければ、見えなくなるまで眺めていられたのに――。




「――って夢を見たのよ」

 あたしが説明すると、彼は苦笑した。

「船が遠ざかる夢は大切な人との別れを意味するらしいし、手前で沈んだのはマシじゃない?」

 どこで手に入れてきた知識なのかは知らないが、彼はそう言ってあたしを引き寄せた。

 あたしたちはダブルベッドに身を寄せて転がっている。デートでディナーをして、ホテルに転がり込んだところだ。

 彼は引き寄せたあとで、あたしに腕枕をしてくれた。太くてたくましい腕は頼もしくて好きだ。抱かれればとても安心できる、魔法の腕。

「そういうもん?」

 不満げに返してやる。不満を覚えたのは返事の内容だけではないが。

「菜央なおちゃんの大切な人って俺だろうから、そういう暗示は困る」

 腕枕だけで、彼は手を出してこない。それが寂しいと感じてしまうのは浅ましいことだろうか。

「…………」

 黙って上目遣いで彼を見つめる。すると気が付いてくれたらしかった。

「片腕では足りないみたいだね」

 告げて、彼はあたしにのし掛かるように移動する。そして口付けをした。触れるだけの優しいキス。こういうのも好きだけど、先日してもらったような濃厚なのもお願いしたい。

 でも、おねだりするのは癪なのでしない。

「……雄也(ゆうや)は、あたしの大切な人でいる自信があるみたいね」

「ひどい言い方だね」

 彼の大きな手のひらが頭を撫でる。

「愛は言葉と態度の両方で示せるようじゃなきゃ嫌なのよ」

 照れ隠しで言ってやる。雄也は間違いなくあたしの大切な人だ。でも、素直に言えないひねた性格をしているんだから仕方がない。

 彼はクスッと笑う。

「じゃあ、言葉と態度の両方で満足させて、大切な人だと宣言してもらおうかな」

 あたしの挑発にのったらしい。野性味を増した瞳で覗かれたかと思うと、息もできない口付けをされた。

 って、前より激しいんですけどっ!?

 聞いてないと抗議する余裕もなく、熱い夜がやってくる――。
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