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私と彼の日常生活
15.今日は月に一度の待機日
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* * * * *
今日は月に一回はある待機日だ。外に出ている調査チームの緊急要請に応援として駆けつけるために当番制で回ってくる。基本的にはなにも起こらないので、協会内で事務作業をする日みたいな位置付けになっている。
「……平和が一番だとは思っているけど、待機日って暇なのよね」
この日に片付けるつもりで残しておいた書類整理は午前中に片付いてしまった。待機日なので作業がないからと帰るわけにはいかない。つまり暇を持て余している。
「婚姻制度ができてからは危険度が下がっているからな。出動回数も減っている」
私に薬湯と焼き菓子を運んできてくれたルビが答えた。
「ルビさんがこっちの部署に異動になったのって、強敵の出現頻度が下がったことにも関連しているんですか?」
私はありがたくお菓子をいただくことにする。
「多少は関係があるかな。向こうの人手が充分で、業務的に今後忙しくなることが明白だった保護管理課が人材を求めていたから、俺が挙手した」
「パートナーさんと一緒には来なかったんですね」
「それは向こうに事情があって。コンビを解消してきたんだ」
「そうだったんですね」
ルビは前は特殊強襲部隊にいた。人家のそばにある瘴気の濃い地域を調査し、魔物を討伐するのだ。
精霊使いたちが守りを得意としているのに対し、協会所属の特殊強襲部隊は先手を打つ攻めを得意としている。魔物の力を削いで弱体化させ、一般市民を巻き込まないようにするのが主な仕事だ。
「ルビさん的に、こっちの仕事、退屈じゃないですか?」
「なんでそう思う?」
なんで、と聞かれるとは思わなかった。私は薬湯を啜って答える。
「ルビという鉱物人形って戦いを好むって聞いていたんで。実際、戦闘向きでしょ? 剣技も術も使えて、接近戦も後方支援もどっちもできるし」
戦場を駆けるルビはとても格好がいい。赤い光が駆け抜けたかと思うと仕事が終わっている。一撃必殺。相手を苦しませずに一発で仕留める様は惚れ惚れするくらいだ。
ルビは食べていた焼き菓子を飲み込んで、私に困ったような顔をした。
「身体を動かすのは好きだが、別に戦場である必要はないからな……」
「いや、同位体のルビは戦場だけでなくベッドの上でも活躍されているようですけど、あなたは違うじゃないですか」
「ベッドの上でも……概ね間違っていないから否定できないが。まあ、そうだな」
ルビが苦笑する。私の旦那さまは私が苦手に感じている以上に性的な話が好きじゃない気がする。
「だから、私と組んでいると運動不足になるんじゃないかって」
新しい焼き菓子を口に放り込む。甘くて美味しい。
こういう空いた時間におやつを取るのは、いざ緊急で呼ばれたらいつ戻れるかわからないからだ。それだけ緊迫した状況下に呼ばれることが想定されているわけで、のんびりだべるためにお菓子を食べているわけではない。
それはそれとして、この習慣は太りそうだなとは思うが。
「んー、俺は勝手に筋トレしているし、その辺は問題ないぞ」
言われてみれば、確かに鍛えている。外を走るときは私も付き合ってるし、柔軟も一緒にやっているなあと思い出す。
――あれ。ルビとは触れ合いがないって思ってたけど、運動のときは普通に触ってるな?
唐突に、ルビが私の顔を覗き込んだ。見慣れてはいる顔だけれど、至近で見るには綺麗すぎてびっくりする。
「なあ。最近、その手の話ばかり振ってくるが、誰かに何か吹き込まれたか?」
「そういうことではないんですけど」
離れてくれと手を動かしたら、接触せずに下がってくれた。まだドキドキしている。
「君はどうなんだ?」
「どう、とは?」
顔が赤くなっていそうで、私はごまかすために薬湯を飲む。ルビもつられるように薬湯を飲んで、口を開く。
「特殊強襲部隊への異動は考えなかったのか? 強いんだから、志願すれば異動できただろう? 実際、応援要請を出したときに何度か参加しているんだし。あそこは暇なんてないぞ」
「……何度か? 私、参加したのって一回だけですよ。それも、すごくショボいやつ」
「……へ?」
目を合わせて、ぱちぱちと瞬かせてしまった。話が噛み合っていない。どういうことだろう。
話をすり合わせようとしたところで、部屋にサイレンの音が響き渡る。
「仕事だな」
私たちはおやつタイムをやめて、すぐさま出動の準備に取り掛かる。
「どこに送られるのかしらね」
待機中は戦闘服なので着替えの必要はない。荷物はまとめてあってそれを掴むだけ。私たちは部屋の隣にある転送装置を操作する。
今日は月に一回はある待機日だ。外に出ている調査チームの緊急要請に応援として駆けつけるために当番制で回ってくる。基本的にはなにも起こらないので、協会内で事務作業をする日みたいな位置付けになっている。
「……平和が一番だとは思っているけど、待機日って暇なのよね」
この日に片付けるつもりで残しておいた書類整理は午前中に片付いてしまった。待機日なので作業がないからと帰るわけにはいかない。つまり暇を持て余している。
「婚姻制度ができてからは危険度が下がっているからな。出動回数も減っている」
私に薬湯と焼き菓子を運んできてくれたルビが答えた。
「ルビさんがこっちの部署に異動になったのって、強敵の出現頻度が下がったことにも関連しているんですか?」
私はありがたくお菓子をいただくことにする。
「多少は関係があるかな。向こうの人手が充分で、業務的に今後忙しくなることが明白だった保護管理課が人材を求めていたから、俺が挙手した」
「パートナーさんと一緒には来なかったんですね」
「それは向こうに事情があって。コンビを解消してきたんだ」
「そうだったんですね」
ルビは前は特殊強襲部隊にいた。人家のそばにある瘴気の濃い地域を調査し、魔物を討伐するのだ。
精霊使いたちが守りを得意としているのに対し、協会所属の特殊強襲部隊は先手を打つ攻めを得意としている。魔物の力を削いで弱体化させ、一般市民を巻き込まないようにするのが主な仕事だ。
「ルビさん的に、こっちの仕事、退屈じゃないですか?」
「なんでそう思う?」
なんで、と聞かれるとは思わなかった。私は薬湯を啜って答える。
「ルビという鉱物人形って戦いを好むって聞いていたんで。実際、戦闘向きでしょ? 剣技も術も使えて、接近戦も後方支援もどっちもできるし」
戦場を駆けるルビはとても格好がいい。赤い光が駆け抜けたかと思うと仕事が終わっている。一撃必殺。相手を苦しませずに一発で仕留める様は惚れ惚れするくらいだ。
ルビは食べていた焼き菓子を飲み込んで、私に困ったような顔をした。
「身体を動かすのは好きだが、別に戦場である必要はないからな……」
「いや、同位体のルビは戦場だけでなくベッドの上でも活躍されているようですけど、あなたは違うじゃないですか」
「ベッドの上でも……概ね間違っていないから否定できないが。まあ、そうだな」
ルビが苦笑する。私の旦那さまは私が苦手に感じている以上に性的な話が好きじゃない気がする。
「だから、私と組んでいると運動不足になるんじゃないかって」
新しい焼き菓子を口に放り込む。甘くて美味しい。
こういう空いた時間におやつを取るのは、いざ緊急で呼ばれたらいつ戻れるかわからないからだ。それだけ緊迫した状況下に呼ばれることが想定されているわけで、のんびりだべるためにお菓子を食べているわけではない。
それはそれとして、この習慣は太りそうだなとは思うが。
「んー、俺は勝手に筋トレしているし、その辺は問題ないぞ」
言われてみれば、確かに鍛えている。外を走るときは私も付き合ってるし、柔軟も一緒にやっているなあと思い出す。
――あれ。ルビとは触れ合いがないって思ってたけど、運動のときは普通に触ってるな?
唐突に、ルビが私の顔を覗き込んだ。見慣れてはいる顔だけれど、至近で見るには綺麗すぎてびっくりする。
「なあ。最近、その手の話ばかり振ってくるが、誰かに何か吹き込まれたか?」
「そういうことではないんですけど」
離れてくれと手を動かしたら、接触せずに下がってくれた。まだドキドキしている。
「君はどうなんだ?」
「どう、とは?」
顔が赤くなっていそうで、私はごまかすために薬湯を飲む。ルビもつられるように薬湯を飲んで、口を開く。
「特殊強襲部隊への異動は考えなかったのか? 強いんだから、志願すれば異動できただろう? 実際、応援要請を出したときに何度か参加しているんだし。あそこは暇なんてないぞ」
「……何度か? 私、参加したのって一回だけですよ。それも、すごくショボいやつ」
「……へ?」
目を合わせて、ぱちぱちと瞬かせてしまった。話が噛み合っていない。どういうことだろう。
話をすり合わせようとしたところで、部屋にサイレンの音が響き渡る。
「仕事だな」
私たちはおやつタイムをやめて、すぐさま出動の準備に取り掛かる。
「どこに送られるのかしらね」
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