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私と彼の日常生活

14.そっちに行ってもいいですか?

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 鉱物人形は同じ容姿の別個体が複数存在する。そういう存在を同位体と呼んでいる。
 私は仕事の都合上、同位体のルビと接することがある。彼らは概ね普通の青年に近い情動を獲得し、そのように振る舞うわけで、性的な話題に触れることもまあまあある。
 ルビは女精霊使いたちが噂するように、性的な行為は慣れている傾向にあり、それは彼らが性的欲求の解消を頻繁に必要とする性質によるものらしい。
 つまり、潔癖な傾向があるルビは珍しい。

「ルビさん」
「なんだ。珍しく起きていられるんだな。あまり話しかけるとそういう意味だと解釈して襲うぞ」
「……襲われたいわけではないんですけど、我慢させているのだとしたら、申し訳ないと思って」
「我慢はしていない。いいからもう寝ろ」

 それは本音なのだろうか。
 今さらそんな心配をするなということでもあるのだろうけれど、夫婦らしいことをしたい気持ちが少なからず彼の中にあることを知った。
 触れ合いたい気持ちがあるから彼は手を握ろうとするのだ。
 その行為を私は外部向けのパフォーマンスとして儀式的にやっているのだと考えていた。夫婦ごっこをするつもりも恋人ごっこもするつもりも私にはさらさらなかったから意図的に無視してきたけれど、少しは付き合うべきだっただろうか。

「……なんか眠れないんです」

 頭の中がぐるぐるしている。
 付き合ってもらっているとは思ってきた。お互いにメリットがある契約結婚なのだから。でも、本当にお互い様な関係なのだろうか。

「ルビさん、そっちに行ってもいいですか?」
「……なにされても文句言わないなら許可する」
「文句、絶対に言わないです」

 宣言をして、いつもは入らない彼の領域に潜り込む。
 彼はそっと私を抱きしめた。いや、抱きしめるというよりも、包み込むと表現したほうがよりしっくりくる。ふんわりと、私を壊さないようにルビは優しく被さる。
 思いがけず心地がいい。

「……魔力が不安定になってるな。それで寝付けないのか」
「そういう?」
「これは業務の延長みたいなものだ。相棒の調子が悪いのは困る」

 ルビのにおいを強く感じる。懐かしいにおいだと思えるのはどうしてだろう。

「……文句なんて言いませんよ、ルビさん」

 胸に耳を当てているのに心臓の鼓動はない。代わりに歯車の回る音が聞こえる。鉱物人形の心音は、歯車の回る音だから。
 私はその優しい音を聴いているうちにスッと眠りに落ちた。
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