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私と彼の日常生活

20.あのときの記憶がないらしい

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「――オパール。彼女はあのときの記憶がないらしい」
「……おいおい、そりゃあないだろ」

 黙って見守っていたルビが言うと、オパールが脱力した。その隙に私は逃げてルビのもとに行く。ルビは戻ってきた私をぎゅっと抱きしめると、彼自身の後ろに下がるように手放した。

「あのときって、なんの話です?」
「君が俺を襲った日の話、だ」
「んんん?」

 ――襲った? 私が、ルビを?

「なんか違和感があったんだ。君は、特殊強襲部隊で俺と組んでいた日々の記憶を喪失している」
「まさか」
「そうとしか考えられない」

 そう説明されたが、思い出せないものは思い出せない。

「――で、俺たちの事情はさておき、仕事に戻っていいか、オパール。これ以上の被害を出したら始末書ものだ」
「すでにオレは始末書ものだし、廃棄処分になるはずだが」

 ゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払いながらオパールが告げる。

「案ずるな。俺がフォローする。彼女と戦場を駆けたいんだろ?」

 ルビが励ますと、オパールはふっと口元を緩める。そして空を仰いで大声で笑った。

「なんだ。餞のつもりか?」

 笑顔のオパールはギラギラしている。闘争心が戻ってきたようだ。

「俺たちが待機番の日を狙って行動したのはそういうことだろう?」
「ふん……意外と君は察しがいいんだな」

 携えている剣の柄に手を添えて、いつでも出られると行動で示す。オパールの癖だ。
 長めの前髪を耳に掛けながら、ルビが笑う。その仕草は仕事を始めるときのルビの癖。

「俺たちの仕事ぶりを眺めるだけでいいなら、無理に誘わないが」
「え。私、勝算ないって割と真剣に思っているんですけど」

 勝手に話が進んでいるので、私は挙手する。
 ルビは私を見て意外そうな顔をした。

「俺は君がいるなら勝てると確信している。特殊強襲部隊にいた実力を見せてやるよ」
「――オレの前で惚気られるのは不愉快だから、協力はする」
「惚気てない……」

 なにはともあれ、そろそろ魔物の意識をくらますのも限界である。反撃に出なければ。

「それで、どうするんだ?」

 オパールが促す。そこにいるのは、好戦的な男。元パートナーの戦場の顔を見て、私は安心した。
 ルビがニヤッと笑う。この高揚している表情、確かに見たことがあるのに、どこでだったのか思い出せない。保護管理課での仕事ではないことは間違いないのに。
 私たちはルビの作戦に耳を傾ける。ただの時間稼ぎではなく、確実に仕留めていくことを目的とした内容に、私とオパールは驚きつつ頷いた。

「……やれそうか?」
「やりましょう」
「だな」

 私たちは掃討作戦を実行に移す。
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