29 / 29
私の隠し事、彼の秘め事
29.私の隠し事、彼の秘め事【完結】
しおりを挟む
「――なあ。君は俺を選んだこと、後悔していないのか?」
「どうしてです?」
ペタペタと身体を触り始めた私に、ルビはおとなしく問いかけてきた。ちなみに触診のつもりなので、この行為に性的な意味合いは薄い。
――うんうん。肌のハリはいい感じだし、問題なさそうね。筋肉の状態も悪くないし。
「こういうことになったのは、あのとき俺がうっかり君に接触してしまったからにすぎない。俺は代替可能な鉱物人形だ。君を守って壊れるのは悪くない。人間は死んだら終わりだが、俺は精霊使いが魔力を込めてくれればこの姿に戻れる。記憶もある程度引き継いだ状態で。それを知っていたから、俺は君を咄嗟に庇った」
「あの夢は、現実にあったことなんですね」
「たぶんな」
私はふぅと息を吐きだす。
どの程度夢の話をしたか忘れてしまったが、戦場でピンチになった夢をよく見るのだとは言っている。仲間がたくさんいなくなった――あれは夢ではなく現実。
「私は合理的な判断をしてあなたに魔力をわけただけです。そのおかげでこうして戻ってこられたんでしょう? いいじゃないですか、それで」
「だが、そのせいでオパールと君を引き離すことになったんじゃないか」
気にしてくれていたのだな、と思った。
確かに私はルビにオパールの話をよくしてきたし、顔を合わせたときの接触も多い。それは元パートナーだからだし、異性としてオパールを見ていなかったからだ。身長はあれど童顔で愛らしい姿は女装が似合う造形でもある。私は彼を同性の同僚に近い気持ちで接してきたのだ。
――オパールさんは私と同じ気持ちじゃなかったみたいだけど。
彼の気持ちを聞いて驚きはしたが、やはり私は自分の伴侶はルビだと思えてしまったのだから、オパールとはこういうことはできないのだろうと悟った。
私は返事を考える。
「――魔力が混じると魔物になるなら、こうするのがいいでしょうからね」
「でもそれなら、君はオパールと日常的に魔力の交換をしてきたのだから、俺とは――」
「そんな緊急事態は一回だけですから。私、強いんですよ? それに、私には精霊使いの技術があるので回復には粘膜接触は不要なんです。時間が経てば私の魔力回復量のほうが上回るので、鉱物人形からの魔力は薄れますし、平気なはず。問題ないです」
ルビの腕の確認を終えて、腰に触れる。ルビがビクッと震えた。くすぐったかったのだろうか。
「そうだろうか」
「それが理由で私を襲おうとしなかった、というわけでもないんですよね」
「なにが言いたい?」
私は彼の腹筋の辺りを撫でる。細身の体なのに腹筋が綺麗に割れている。異常はない。触られて緊張したのか、硬くなったのが愛おしかった。
「私に襲われて、勃たなくなったんじゃないかなって」
「…………」
この状況で、彼は勃っていない。
私が誘惑をしていないのだから、その気がなくてもおかしくはないのだけれど、もう少し反応があってもいいような気はする。ルビが抱くと言ってベッドに連れてきたわけだし。
黙っているので、私は確認を続ける。
「勃たない《ルビ》って、自分のアイデンティティに関わるから知られたくなかったんだろうなって」
「《ルビ》は性具じゃない」
「いや、まあ、対魔物のために生み出された戦力のはずですけど」
性交渉の相手に選ばれることは多いようだが、ルビのいうことはもっともだ。戦力であり、もっと神聖なものであるはずだ。鉱物人形の魂は精霊であると定義されているくらいなんだから。
「……俺は元から、性的なことが苦手だ。そういうことを期待されることも、嫌だ。穢らわしいくらいに思っている」
「変わってますね」
「そういう個体がいてもいいだろ。身体を動かせば発散できるし、制御できる。欲求さえ満たせれば相手は誰でもいいとか、気持ち悪い」
「ほほう……」
そう答えて、ルビはむすっとした。
仕事がらルビについて煽られることが多かったが、私が苛立つ以上にルビも不機嫌だったことを思い出す。あれはパフォーマンスではなく、本当に嫌がっていたんだな。
「君は俺と同じかと思ったが、違うみたいだな」
「そうですね。私の場合、潔癖という訳ではなくて、そういう気分になりにくいだけ、でしょうか。期待に応えられないから避けるようにしているというか。――ああ、まあ、他人から探られるのは面白くないですよね。個人的なことじゃないですか」
「そうだな」
「だから、私はあなたと一緒にいてすごく気が楽でしたよ。たぶん、オパールさんが伴侶になっていたら、こうはならなかったから。私に触れていい大義名分を手に入れたら、遠慮がなくなると思うんですよねぇ」
「だな。制御する自信がなかったんだろうな、とは想像がつく」
私たちは頷き合って、笑った。
「――さて、どうしましょうか。触れ合って寝るだけにしておきます? あまり張り切っちゃうと、私の記憶が跳んじゃうんで、ここでやめてもいいですよ」
その気がないなら、その気がないなりのことをすればいいと思った。私はルビとは身体だけの関係にはなりたくない。
「いや」
ほいっと転がされて、上下が入れ替わった。
「俺が俺の体の使い方を思い出せそうだから、付き合ってくれないか? 嫌ならここで終わりでいい」
ルビのキラキラとした瞳を見ていると、断りたくないなと思えた。
私は微笑む。
「いいですよ。でも、私が上です」
えいっと勢いでルビを転がし、上に乗ると口づけをした。
「こら、また記憶を跳ばすぞ」
「責任取ってくれるって言ったじゃないですか。私、あなたの身体のこと、もっと知りたい」
「はぁ……わかったわかった。好きにしろ」
「ふふ。私、ルビさん好きですよ」
「落ち着いたときに、もう一度告白してほしい」
「じゃあ、記憶を跳ばさないようにしないといけませんね」
そう応えて、私から深い口づけをした。
《終わり》
「どうしてです?」
ペタペタと身体を触り始めた私に、ルビはおとなしく問いかけてきた。ちなみに触診のつもりなので、この行為に性的な意味合いは薄い。
――うんうん。肌のハリはいい感じだし、問題なさそうね。筋肉の状態も悪くないし。
「こういうことになったのは、あのとき俺がうっかり君に接触してしまったからにすぎない。俺は代替可能な鉱物人形だ。君を守って壊れるのは悪くない。人間は死んだら終わりだが、俺は精霊使いが魔力を込めてくれればこの姿に戻れる。記憶もある程度引き継いだ状態で。それを知っていたから、俺は君を咄嗟に庇った」
「あの夢は、現実にあったことなんですね」
「たぶんな」
私はふぅと息を吐きだす。
どの程度夢の話をしたか忘れてしまったが、戦場でピンチになった夢をよく見るのだとは言っている。仲間がたくさんいなくなった――あれは夢ではなく現実。
「私は合理的な判断をしてあなたに魔力をわけただけです。そのおかげでこうして戻ってこられたんでしょう? いいじゃないですか、それで」
「だが、そのせいでオパールと君を引き離すことになったんじゃないか」
気にしてくれていたのだな、と思った。
確かに私はルビにオパールの話をよくしてきたし、顔を合わせたときの接触も多い。それは元パートナーだからだし、異性としてオパールを見ていなかったからだ。身長はあれど童顔で愛らしい姿は女装が似合う造形でもある。私は彼を同性の同僚に近い気持ちで接してきたのだ。
――オパールさんは私と同じ気持ちじゃなかったみたいだけど。
彼の気持ちを聞いて驚きはしたが、やはり私は自分の伴侶はルビだと思えてしまったのだから、オパールとはこういうことはできないのだろうと悟った。
私は返事を考える。
「――魔力が混じると魔物になるなら、こうするのがいいでしょうからね」
「でもそれなら、君はオパールと日常的に魔力の交換をしてきたのだから、俺とは――」
「そんな緊急事態は一回だけですから。私、強いんですよ? それに、私には精霊使いの技術があるので回復には粘膜接触は不要なんです。時間が経てば私の魔力回復量のほうが上回るので、鉱物人形からの魔力は薄れますし、平気なはず。問題ないです」
ルビの腕の確認を終えて、腰に触れる。ルビがビクッと震えた。くすぐったかったのだろうか。
「そうだろうか」
「それが理由で私を襲おうとしなかった、というわけでもないんですよね」
「なにが言いたい?」
私は彼の腹筋の辺りを撫でる。細身の体なのに腹筋が綺麗に割れている。異常はない。触られて緊張したのか、硬くなったのが愛おしかった。
「私に襲われて、勃たなくなったんじゃないかなって」
「…………」
この状況で、彼は勃っていない。
私が誘惑をしていないのだから、その気がなくてもおかしくはないのだけれど、もう少し反応があってもいいような気はする。ルビが抱くと言ってベッドに連れてきたわけだし。
黙っているので、私は確認を続ける。
「勃たない《ルビ》って、自分のアイデンティティに関わるから知られたくなかったんだろうなって」
「《ルビ》は性具じゃない」
「いや、まあ、対魔物のために生み出された戦力のはずですけど」
性交渉の相手に選ばれることは多いようだが、ルビのいうことはもっともだ。戦力であり、もっと神聖なものであるはずだ。鉱物人形の魂は精霊であると定義されているくらいなんだから。
「……俺は元から、性的なことが苦手だ。そういうことを期待されることも、嫌だ。穢らわしいくらいに思っている」
「変わってますね」
「そういう個体がいてもいいだろ。身体を動かせば発散できるし、制御できる。欲求さえ満たせれば相手は誰でもいいとか、気持ち悪い」
「ほほう……」
そう答えて、ルビはむすっとした。
仕事がらルビについて煽られることが多かったが、私が苛立つ以上にルビも不機嫌だったことを思い出す。あれはパフォーマンスではなく、本当に嫌がっていたんだな。
「君は俺と同じかと思ったが、違うみたいだな」
「そうですね。私の場合、潔癖という訳ではなくて、そういう気分になりにくいだけ、でしょうか。期待に応えられないから避けるようにしているというか。――ああ、まあ、他人から探られるのは面白くないですよね。個人的なことじゃないですか」
「そうだな」
「だから、私はあなたと一緒にいてすごく気が楽でしたよ。たぶん、オパールさんが伴侶になっていたら、こうはならなかったから。私に触れていい大義名分を手に入れたら、遠慮がなくなると思うんですよねぇ」
「だな。制御する自信がなかったんだろうな、とは想像がつく」
私たちは頷き合って、笑った。
「――さて、どうしましょうか。触れ合って寝るだけにしておきます? あまり張り切っちゃうと、私の記憶が跳んじゃうんで、ここでやめてもいいですよ」
その気がないなら、その気がないなりのことをすればいいと思った。私はルビとは身体だけの関係にはなりたくない。
「いや」
ほいっと転がされて、上下が入れ替わった。
「俺が俺の体の使い方を思い出せそうだから、付き合ってくれないか? 嫌ならここで終わりでいい」
ルビのキラキラとした瞳を見ていると、断りたくないなと思えた。
私は微笑む。
「いいですよ。でも、私が上です」
えいっと勢いでルビを転がし、上に乗ると口づけをした。
「こら、また記憶を跳ばすぞ」
「責任取ってくれるって言ったじゃないですか。私、あなたの身体のこと、もっと知りたい」
「はぁ……わかったわかった。好きにしろ」
「ふふ。私、ルビさん好きですよ」
「落ち着いたときに、もう一度告白してほしい」
「じゃあ、記憶を跳ばさないようにしないといけませんね」
そう応えて、私から深い口づけをした。
《終わり》
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
きゃあ🌸ごちそうさまです( ノ^ω^)ノ♥️
ありがとうございます♪