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私の価値
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「ええ。あなたほどの美貌と肉体があれば、金を稼ぐのはたやすいということですよ。まずは手始めに俺に買われてみてはいかがでしょう?」
「じょ、冗談じゃないわ!」
必死にデーヴィッドの手を振り払って後退する。
「私には伯爵令嬢としての誇りがあります。そんなことをするほど、落ちぶれてはいませんわ!」
懸命に腹の底から大声で宣言してやった。パーティ会場の外に出ていれば、かろうじて声は届くはずだ。
テオドラの宣言は意外だったらしい。デーヴィッドが目をまんまるくし――そして大笑いをはじめた。心底おかしかったらしく、額と腹にそれぞれ手を当てて、あざけり笑う。
「ははは。誇り? 親子して愚かだな。身体を売れば融資してやるって言ってるのに、誇りなんていうくだらないもののために断るのか」
そう告げてテオドラの背後にいた大男を一瞥する。
「やっ⁉︎ んっ!」
打ち合わせてあったのだろう。大男はデーヴィッドの視線だけで、テオドラをいとも簡単に拘束した。口元を押さえられて声が出せない。噛みついてやったが、分厚い手袋の前では意味をなさなかった。
「んんっ!」
腕ごとしっかりと抱きかかえられてしまい、身動きも取れない。抵抗しているのに相手は涼しげだ。
やだ、どうしてっ! 助けて、アルお兄さま!
もがくテオドラにデーヴィッドはゆっくり近づき、強制的に視線を合わせられる。
「気の強いお嬢さんは好みだよ。だんだんと従順になっていく様は快感だからね。ただ、あんたは美人すぎる」
言って、首筋を、鎖骨を、胸の先に連なるラインを手袋をはめた指でなぞる。
「この身体も本当に美味しそうで実にいい。高い金を出してでも抱きたいと思う男は多いんじゃないかな」
個人的に囲うよりも娼館で働かせたほうがずっと金になる――そうデーヴィッドが考えているらしいことが、テオドラにもようやくわかってきた。
早く逃げ出したいが、デーヴィッドにされるがままだ。屈辱的な行為に、テオドラはきっとにらみつける。
デーヴィッドはバカにするように笑った。
「くくくっ。まずは誘拐ってことでマクダニエルズ伯爵から高い金をぶん取って、でもうっかり殺しちゃったとか言ってポイっとして、あんたは娼館で壊れるまで働く――それが一番お金ができる。この錬金術を思いついちゃった俺って天才だよね」
悔しい。
騙された愚かさを最初は呪いはしたが、それ以上に父親を侮辱され、自分を商品としかみてこないことに怒りも感じる。
「身体の開発はまだなんだろう? 俺が手ほどきしてやるからな。あのダライアスのお坊っちゃんは女の抱きかたもわかっていないようだったし」
テオドラにはなんのことを言っているのかはっきりとはわからなかったが、アルフレッドが軽んじられたことだけは察することができた。
絶対にくじけない。くじけてなるものか!
「しかし、泣きもしないとは意外だったな。もっと泣きわめいて面倒になると考えていたが……ふうん。では、場所を変えようか」
冷ややかな眼差しがテオドラに向けられる。大男が動き出したとき、さらに抵抗を試みたが無駄だった。
アルお兄さま、ごめんなさい。素直にあなたのいうことを聞いておくべきでした。ちゃんと相談しておけばよかった。
もう彼に会えないかもしれない。それだけでなく、捧げるつもりでいた純潔も奪われてしまうのだろう。
いうことを聞かなかった代償としては重いと感じたが、殺されるわけではないことに一縷の希望を抱く。
さようなら、アルお兄さま。私の初恋の人……。
アルフレッドのことを考える。彼と過ごした日々のことを振り返れば、これから待っているだろう悲しみにくれる日々を乗り切れる気がして。
だから、アルフレッドの叫び声が聞こえたとき、テオドラはそれが幻聴だと思った。
「じょ、冗談じゃないわ!」
必死にデーヴィッドの手を振り払って後退する。
「私には伯爵令嬢としての誇りがあります。そんなことをするほど、落ちぶれてはいませんわ!」
懸命に腹の底から大声で宣言してやった。パーティ会場の外に出ていれば、かろうじて声は届くはずだ。
テオドラの宣言は意外だったらしい。デーヴィッドが目をまんまるくし――そして大笑いをはじめた。心底おかしかったらしく、額と腹にそれぞれ手を当てて、あざけり笑う。
「ははは。誇り? 親子して愚かだな。身体を売れば融資してやるって言ってるのに、誇りなんていうくだらないもののために断るのか」
そう告げてテオドラの背後にいた大男を一瞥する。
「やっ⁉︎ んっ!」
打ち合わせてあったのだろう。大男はデーヴィッドの視線だけで、テオドラをいとも簡単に拘束した。口元を押さえられて声が出せない。噛みついてやったが、分厚い手袋の前では意味をなさなかった。
「んんっ!」
腕ごとしっかりと抱きかかえられてしまい、身動きも取れない。抵抗しているのに相手は涼しげだ。
やだ、どうしてっ! 助けて、アルお兄さま!
もがくテオドラにデーヴィッドはゆっくり近づき、強制的に視線を合わせられる。
「気の強いお嬢さんは好みだよ。だんだんと従順になっていく様は快感だからね。ただ、あんたは美人すぎる」
言って、首筋を、鎖骨を、胸の先に連なるラインを手袋をはめた指でなぞる。
「この身体も本当に美味しそうで実にいい。高い金を出してでも抱きたいと思う男は多いんじゃないかな」
個人的に囲うよりも娼館で働かせたほうがずっと金になる――そうデーヴィッドが考えているらしいことが、テオドラにもようやくわかってきた。
早く逃げ出したいが、デーヴィッドにされるがままだ。屈辱的な行為に、テオドラはきっとにらみつける。
デーヴィッドはバカにするように笑った。
「くくくっ。まずは誘拐ってことでマクダニエルズ伯爵から高い金をぶん取って、でもうっかり殺しちゃったとか言ってポイっとして、あんたは娼館で壊れるまで働く――それが一番お金ができる。この錬金術を思いついちゃった俺って天才だよね」
悔しい。
騙された愚かさを最初は呪いはしたが、それ以上に父親を侮辱され、自分を商品としかみてこないことに怒りも感じる。
「身体の開発はまだなんだろう? 俺が手ほどきしてやるからな。あのダライアスのお坊っちゃんは女の抱きかたもわかっていないようだったし」
テオドラにはなんのことを言っているのかはっきりとはわからなかったが、アルフレッドが軽んじられたことだけは察することができた。
絶対にくじけない。くじけてなるものか!
「しかし、泣きもしないとは意外だったな。もっと泣きわめいて面倒になると考えていたが……ふうん。では、場所を変えようか」
冷ややかな眼差しがテオドラに向けられる。大男が動き出したとき、さらに抵抗を試みたが無駄だった。
アルお兄さま、ごめんなさい。素直にあなたのいうことを聞いておくべきでした。ちゃんと相談しておけばよかった。
もう彼に会えないかもしれない。それだけでなく、捧げるつもりでいた純潔も奪われてしまうのだろう。
いうことを聞かなかった代償としては重いと感じたが、殺されるわけではないことに一縷の希望を抱く。
さようなら、アルお兄さま。私の初恋の人……。
アルフレッドのことを考える。彼と過ごした日々のことを振り返れば、これから待っているだろう悲しみにくれる日々を乗り切れる気がして。
だから、アルフレッドの叫び声が聞こえたとき、テオドラはそれが幻聴だと思った。
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