見習い王宮魔導師アリス=ルヴィニの受難

一花カナウ

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呪術師の基本です

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 頬に汗を流しながら、ウラノスは口の端を上げて笑んだ。

「――よく調べましたね」

「呪術師の基本ですわ」

 当然だと言わんばかりの口調でロディアは返す。

 呪術は過去の因縁を利用して発動させる。効率的に成功させるためには、呪う相手の情報が欠かせない。つまり、ロディアは魔導師であるまえに、そういう身辺調査を得意としているのである。

「確かに私の家は、さかのぼれば現クリスタロス陛下の先祖と同じくしております」

 苦しげに息を吐き出し、ウラノスは続ける。

「エマペトラ家から王位継承権がなくなったのは祖父の代。戦争による財政難を契機に王族の縮小を求められたため、遠縁とおえんの血筋から切り捨てられたと聞いております」

 ――もし、その出来事がなかったら、彼は王子様だったってこと?

 淡々とウラノスの口から語られる彼の背景。アリスは驚いたが、集中力を切らせるわけにはいかない。彼が自分の生い立ちに関わる話をしているのが時間稼ぎであるのは察していた。だから、なおさらこの魔法は成功させなくてはいけない。

「私が王宮魔導師採用試験を受けた理由が、少しでも王族に近付きたい気持ちがあったからであることは認めましょう」

「ほら、わたくしが予想した通りではありませんか」

 得意気な顔をしているロディアに、ウラノスは続ける。

「……ですが、私はそんな個人的な気持ちだけでこの職に就いたわけではありません。私はただ、この国の人間を護りたいだけ。王位などなくても国民を護れると証明したいだけ。そのためには国の後ろ盾が必要です。だから私は上を目指す――そういうことなんですよ」

 苦痛で顔が歪む。アリスはウラノスのためにつむいだ魔力をそこでやっと解放した。

「――大地と海の使者よ、この者をいやす力を分け与えたまえ」

 アリスの苦手な治癒魔法。彼女がそれを発動させるためには予備動作や魔法陣が必要不可欠で、今のネズミの姿ではいずれも満足には使えない。だが、真剣な気持ちが伝わったのだろう。小さいながらも魔法式で作られた光の円陣が展開し、ウラノスの傷口を微弱な光が照らした。裂けた皮膚がゆっくりと合わさっていく。

 ――他の人がやるよりも効果は薄いかもしれないけど、やらないよりはマシなはず。

 期待していたよりも魔法の継続時間が短かったのを見てアリスは落ち込む。

 そんな彼女の頭をウラノスはそっと指先で撫でた。声には出ていなかったが、その仕草しぐさだけで感謝の気持ちが伝わってくる。

「――ロディア君は自分の力を国に使って欲しいから王宮魔導師になりたいと言いましたね」

 ウラノスはアリスの顔を見ずに立ち上がり、ロディアに向き合う。

「えぇ、そうよ。わたくしの力を効率よく使うことができるのは国家以外にありえないと思いますもの」

「しかしそれは君自身が自分の力を誇示こじしたいからにすぎません」

 指摘されて、ロディアの顔に不機嫌な色が濃く表れる。

「アリス君の答えはこうでした。――誤った力の使い方をしないために王宮魔導師になりたい、と」

 ――覚えてくれていたんだ……。

 王宮魔導師採用試験の面接のとき、ウラノスの問いにアリスは飾ることも偽ることもせず、ありのままの気持ちをぶつけた。他の受験者たちがこころざしの高さをつらつらと述べて主張する中、一人だけ個人的な理由を告げたのには恥ずかしさはあったが、それでも伝えておきたいことを言えたのは誇りに思っている。だから、悪目立ちで印象に残っていたのだとしても素直に嬉しい。

「よく、そんな心構えで王宮魔導師採用試験の最終選考に残ったものですわね」

 ふん、と鼻で笑うロディア。彼女がそう言いたくなる気持ちはアリスにも少しだけわかる。

 フィロに勧められ、魔法の勉強を続けるために試験を受けたのは事実だ。とはいえ、一般的には王宮魔導師は王国に所属する機関であり、私学のためではなく、国に尽くすために存在している。心構えがなっていないという指摘であれば、真っ当な意見だろう。

 ――先生はどう返すのだろう。

 ウラノスの性格や言動の傾向から考えると、ロディアに同調してもおかしくはないはずだ。アリスは不安な気持ちを抱えて耳を澄ます。
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