召喚聖女は早くお家に帰りたい!

一花カナウ

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召喚聖女は早くお家に帰りたい!

召喚聖女は早くあなたと出会いたい 1

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 私はあれほど帰りたくて仕方がなかった自分の部屋で膝をつき、みっともなく大声で泣いた。夢だったらよかったのに。全部私の妄想だったらよかったのに。


 思い出せたときには手遅れだった。
 前世で、神官長から逃げ出した私は、魔王の立場として君臨することになった彼を訪ねた。魔王様は私の話を聞いて、匿ってくれた。優しい彼は私に親切にしてくれた。
 しかし、穏やかな日常は追って来た神官長によって壊される。
 心中をはかろうとする神官長と争ううちに聖女は命を落とした。その後、神官長がどうなったのかはわからない。ただ、逆恨みした神官長が定期的に魔王様の力を削ぐための儀式を執り行うように話をつけて、魔王様を永遠に生かそうとしたことはなんとなく想像がついたが。

「今度は追いかけて……くれるのかな……」

 涙が枯れ果てるまで泣いて、私は魔王様の言葉を思い出す。どうやって追いかけてくるつもりなのだろう。一緒に逃げられないって言っていたくせに。

「待ってろ、ね。待ってるうちに、会えるといいわね」

 日常に戻らないと、と私は自分を奮い立たせる。頬をパンパンと叩くと、デジタル時計に目を向けた。今は夜明け前。表示された日付は、私がアンダーテイルズに召喚される前日だ。

 ――本当に前日……でも、どうして?

 理由がよくわからない。考え始めたところで、相棒の声が聞こえた。

「あー、ヴィヴィアン。ずいぶんぶりな気がするけど、アンタにとってはそんなことないのよね」

 私はケージから出して、こんもりふかふかの翼に頬を寄せる。懐かしい匂い。おとなしくされるがままになってくれる私の相棒はフクロウだ。一目惚れして、バイトを頑張って飼うことにした大事な相棒。

「はぁぁぁぁ癒されるぅぅぅぅ。アンタがいてくれなきゃ、私、頑張れないわ」

 少し立ち直れたところで、私はヴィヴィアンのための食事を用意する。銀色の毛のネズミを餌として持ってくると、ヴィヴィアンは首を傾げた。

「あれ? お腹がいっぱいなのかな? ま、好きにしていいわよ」

 餌入れにネズミを突っ込んで、私は朝の支度を始める。
 今日から夏休みということで、バイトを掛け持ちすることにしたのだ。自分の学費に加えて相棒の世話もしなくてはいけないので、お金がかかるのである。充実した日々を送るためのお金は投資と同じなので、やりがいはあるから気持ち的には平気だけど。

 ――せっかく日常に返してくれたんだから、私は私の人生を謳歌しなくちゃ。

「あれ? でもなんで、相棒によろしく、なんだろう?」

 ――生まれ変わってヴィヴィアンになった……とか? だったらせめて、お喋りできそうなオウムのほうがありがたかったんだけど……まあ、いっか。




 明け方はコンビニでバイト。そのあとはペットショップでバイトだ。ヴィヴィアンに出会ったのもバイト先で、誰にも買わせたくないからと必死になってシフトを入れたのは懐かしい思い出だ。

「天宮(あまみや)さん、前に言っておいた獣医学部の新人、今日の午後からだから」
「承知しましたー」

 店長に言われて、確かにそんなこと言ってたなあと記憶を呼び起こす。数ヶ月前のことみたいな感じがするが、おそらく先々週に伝えられた話だ。

 ――獣医学部の三年生だったよね。そんで、男性だって話で。シフト多めに入っているから、私が基本的な説明をするように頼まれていたんだ。話しやすい人だといいな。

 午前中のお仕事を終えて、昼食休憩。コンビニのおにぎりを思いっきり頬張っていたところで、見知らぬ男性がバックヤードに入ってきた。

「あの、すみません。今日から働く守永(もりなが)です。店長に天宮って女の子が休憩室にいるから挨拶してくるように言われたんですが……」
「ふぐっ、ちょ、待って」

 ペットボトルの蓋を開けてお茶を流し込み、私は慌てて立ち上がった。
 向かい合って立つとずいぶんな大男だ。肩幅があってがっしりしている。アメフトやってるって言われたら、そうだよねーと答えてしまえそうな体形。色黒で、髪が硬くて逆立っていて、眉毛が太くて目つきが鋭いから恐そうに見える。でも、喋り方が柔和なので話しやすそうだ。

「初めまして。天宮萌絵です。仕事の基本的なことについては私から説明しますので、よろしくお願いします」

 情けない姿を見られてしまった気がするが、とりあえず笑顔で誤魔化しておこう。
 ハキハキと伝えると、どうも様子がおかしい。

「あの……どうかしました?」

 よく考えたらこのやり取りは二度目だ。前日に帰ってきたので、私は彼には会っている。記憶の彼と変わらない反応なのだが、なにかが引っかかる。

「あ、いや、なんでもない。――オレは守永(もりなが)航(わたる)。こちらこそよろしくお願いします」

 爽やかな笑顔だ。うまくやっていけそうで、どこかホッとしていた。



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