観賞少年

一花カナウ

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Lost Child

《1》

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 その日は雨だった。
 風は強く、下手すりや瓦も飛んでいってしまいそうな暴風雨。こんな日に俺はヤボ用で出かけていた。週に一度のこの曜日にはかかさずにしていることだ。どんなことがあってもやめることはできない理由、この責任だけは取らなくてはいけないという避けられないわけがあったからこそ、こうしてなんとか帰路についているのだ。
 俺はこの鬱陶しい雨に嫌気がさしながら家までの道を急いでいた。
 今思えば、この日のことは偶然なんかでは説明がつかず、やはり必然であったのだろうと感じる。つまり……運命ってやつだ。俺はそのとき中学生くらいの子供を拾った。
 この大雨だというのに傘もささず(いや、傘が飛ばされたと言う可能性は高いのだが)、レインコートもきていないびしょ濡れの姿で、道端に倒れていたのだ。ぴくりとも動かなかったから死んでいるのではないかと焦ったが、冷静になって口元に手を当ててみると暖かな息が感じられ、だいぶ体が冷えていたが脈もきちんと取ることができた。
 そこで俺はこの子供を抱えて家に連れて帰ることにしたのである。


 * * * * * *


「おかえり。まあ、びしょ濡れじゃない」

 突き当たりのリビングから出てきた少女、ハルが俺を見るなり驚いた声を出す。

「なんだ、いたのか」

 俺が素っ気ない言い方をして返すと、彼女はいったんバスルームのほうにひっ込んだままで、「いたのか、だなんて冷たい言い方しないでよ」とむっとして答えた。
 彼女は大きめのバスタオルを抱えて俺のほうに戻ってくると首を傾げた。

「この子は? 隠し子?」
「んなわけあるかい! 道端で倒れていたところを拾ってきたんだよ」

 タオルを受け取って滴り落ちる滴を拭うと俺は真っ直ぐこの子供をリビングに運んだ。
 この年の男が一人で生活するには贅沢な2LDKの家。自分の名義でローンはない。マンションの七階であり眺めはそこそこよい。こんな家に住んでいられるのは昔の自分の身分のお陰であろう。

 『観賞少年』はその容姿の美しさから身を売って生計を立てているものが少なくない。理由を一つあげるとすれば、法に全く触れないからだろう。人間ではないのだから当たり前と言っては当たり前だが。その上、普及が余りにも早かったために法令を作る時間がなかったと言うか。皮肉なことである。

 ちなみに俺は過去に別のルートで多大な報酬を得ていたので、この様なものには困らない生活をおくっている。

 そんなこんなでここに住まわせてもらっているのだが、以前ちょっとした事件に巻き込まれたときに知り合ったハルと言う学生がよくこの家に入り浸っており、泊まっていくこともしばしば。
 相手が年頃の女の子なので、彼女にベッドは譲り渡し、渋々自分は別に用意した布団をひいて寝る生活がしょっちゅうある。

 今夜はどうするつもりなのだろうか……。

 それはいいとして、俺は年季のはいったソファにタオルをひいて上に寝かせる。
 顔をタオルでふいてやり、長い前髪をわきに寄せる。女の子とも男の子とも取れる可愛らしい顔が覗く。白く透き通るような美しい肌にカラスの濡れ羽色と言える艶やかな黒髪。綺麗な子供だった。

「なあ、どっちだと思う?」

 服を替えてやるべきだろうとシャツに手を掛ける手前で彼女に尋ねる。
 キッチンにいた彼女は俺のところまでやって来てこの子の頬に手を当てる。まじまじと良く顔を見るとうーんっとうなって答えた。

「男の子よ。断言するわ」
「ならいいんだけど」
「ほんと、美人ね。人の子じゃないかもね」
「ああ……」

 シャツを脱がしたとき俺はこの子の左肩に自分と同じ形の痣(アザ)があることに気が付いた。これは後天的な怪我とかで残ったものではない、生まれつき持った『観賞少年』であることを示す特有の製造番号……。
 まさかと思ったが、彼女に伝えずにそっと自分の胸中にしまうことにした。

 彼女はこの日、なんだかんだと理由をつけて泊まっていくことになった。

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