オレ様社長はお断りっ!

一花カナウ

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第41話 恋の自覚

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「――プレゼンで失敗したのは初めてだ」

 ぼそりとつぶやかれた台詞。そして拘束が解かれた。悠が去る。

「あ、あの……?」
「どうしたら俺の魅力って伝わるのかな。俺には君の魅力がとても伝わってくるのに、俺のは君に届いていないってことなんだよね。君の目にはイケメンであることと社長であることしか映っていないって宣言されてしまったし。どうしたら、それを壊せるかな?」

 落ち着いた口調で問われる。真剣に悩んでいるらしい口ぶり。

「って言われても、何て言ったらいいのか……」

 起き上がる気力が湧かなくて、史華は天井を見上げたままぼそりと答えた。

 単純にデートの回数を増やすにしても、なんか不誠実な気がするし……。

 デートというものはある種のプレゼンテーションの要素を含むのだなと改めて思う。互いの知らない部分をさらけ出し、自分のいいところを相手に見せつけるという部分もあるのだろう。思い出を共有したり、一緒に楽しんだりするだけじゃないのかもしれない。
 そんな発見があったところで、悠の問いへの回答も具体案も浮かばない。

 うなりながら悩んでいると、視界に悠の顔が現れた。

「せっかくだし、男と女になってみるかい?」

 悠の唐突な提案に、みるみる顔が熱くなる。

「な、なんでそうなるんですかっ⁉︎ ってか、それって抱きたいだけですよね⁉︎」
「そりゃあ抱きたいよ。さっきも宣言したじゃない。訴えられるとしても、史華ちゃんの肌に触れたいって心から思っているさ」
「欲求不満の解消が目的でしたら、他をあたってください」

 一瞬抱かれてもいいと思ってしまったことは内緒だ。勢いでそういう関係になるのはお断りである。つい数分前の流れを回避できてよかったと心底安堵した。

 ツンケンとした態度できっぱり言うと、悠は苦笑を浮かべた。

「なんでそういうことを言うかなあ。俺は君が美味しそうに思えるからそう言っているのに」

 悠の指が史華の頬をなぞり、首筋をたどって下に流れる。触れられて身体がピクッと反応した。

「シミひとつない滑らかな肌、どこもふっくらとして触りがいがありそうなプロポーション……そんなのを見せつけられたら、ぎゅって抱きしめたくなるでしょ? 服なんかで遮られることなく、直接肌と肌で触れ合えたらどうなんだろうって妄想するでしょう。キスしているときに漏れるあえかな声を聞いて、どんなふうに喘がせることができるのかななんて考えるし。――史華ちゃんは知らないでしょ、そういうの」

 説明されると身体がますます熱くなってくる。移動中はあんなに寒かったのに。

「処女であることをバカにしているんですか、それ」

 自分の身体の反応を認めたくなくて、むすっとしながら史華は返す。

 悠は史華の頭の横に座り直し、髪をすくようにして優しく撫でる。

「君の初めての男になりたいから告白しているんじゃないか。好きな女の子をこわがらせたくないから。一生の思い出になれたらいいなって、それも極上の思い出にしたいって、俺は考えているんだよ」

 そんな台詞を生身の男から聞かされることになるとは思いもしなかった。絶句しそうになって、しかし頭を切り替える。

「そ……それは大変ですね」
「愛がないとできないよ。襲う気になれば、いつだって腕力で蹂躙できるし。それをしないことを、もっと評価してくれてもいいんじゃないかな」

 肩をすくめておどけてみせる。いつもの悠が戻ってきている雰囲気だ。

 そんな様子に安心して、史華は指摘することにした。

「さっきは危なかったと思いますが」

 激しいキスを受けて、抵抗できない自分を認めかけた。本を読んで想像していたロマンチックな雰囲気ではなかったけれど、力の差ではない部分で拒めないと感じているのを知ってしまった。

 ふっと表情が真面目なものになる。悠は小さく頭を振って、ため息をついた。

「そうだね……。本気でめちゃくちゃにしてやろうかって思ったからね」
「なんでやめたんですか? あたし、諦めてたのに」

 言わなくてもいいのに、理由が知りたくて声になる。胸がドキドキしている。

 悠は天井を見上げた。

「史華ちゃんだけのせいじゃないなってことにも気づけたからかな」

 言って、史華ににっこりと笑いかける。少しだけ情けなさが滲んで見えた。

「付き合い方がわかってないんだと感じたんだ。今までは放っておいても向こうからやってきてくれたけれど、史華ちゃんは逃げるでしょ? 追いかけ方がまだわかってないんだなって、史華ちゃんに言われて気づいたんだ」
「だとしても、第一印象がオレ様なイケメンで、次の情報が社長さんだったのは事実なので、あたし自身の持っている固定観念を消し去るのは無理です。それに、逃げるのは得意な方だと思っているんですけど」

 追われたら逃げるのは癖だ。求められたいと思っているのに、そういう空気が出ると避けてしまう。

 ああ、それを見抜かれていたから、利用されたのかな……。

 因幡の顔が脳裏を過《よ》ぎる。第一線での活躍を目指して努力してきたつもりだったけれど、その結果を得る方法を間違えてしまった。知らなかったから、利用されていたから、言い訳はいくらでもできるが、それだけでは、きっとない。

 目を伏せる史華に悠は続ける。

「印象は簡単には変えられない。俺だって、君へのアプローチとしては社長であることを前面に押し出していた部分もあるし。まずはそこを変える必要があるのかもね」
「あー、なるほど……」

 このホテルにしろ、社長だからとかお金があるからみたいな部分が透けて見える。彼の立場をどうしても想起させる。

 これまでもそうだ。羽振りの良いさまや仕事での話がどうしても背景にチラついた。史華が彼を拒みたいがために知りたがっていた部分ではあるが、それ以上に見なくてはならないこともある。恋人になるのなら。
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