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アフターストーリー【不定期更新】
新年らしいことをしよう
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「弓弦ちゃんは初詣には行かないのかい?」
仕事の都合で待機を命じられているので寝正月を決め込んでいたのだが、前もって注文していたおせちを食べ終えたときに彼に聞かれた。
私はおせちの残りを冷蔵庫に突っ込みながら返す。
「うちはそういうのは遠慮しているんですよ」
「あー、そういう……」
「ちょっとしきたりがあるので。お詣りしたらいけないというわけではないんですがね」
だから、そんなに初詣の思い出はない。高校三年生のときには付き合いで行ったが、そんなもんである。初詣が禁止というわけではないから、遠慮なのだろう。
「ということは、新年らしいことってしないのかい?」
「家の中で完結することくらいですかねえ」
スマホを掴んで、呼び出しがないことを確認する。今のところ平和だ。
「じゃあ、書初めとか?」
「小学生の頃はしましたけど、今はさすがに書初めはしないかな……」
宿題で面倒だったことだけ覚えている。和装でやれと言い出す父に、毎度着物を墨で汚して呆れられていたのを思い出す。
「かるたとか百人一首は?」
「しましたねえ。面白いとも思っちゃいなかったですが」
「弓弦ちゃんは食べるほうが好きだもんねえ」
「そうですね」
そのとおりすぎて頷くしかなかった。私は食べるのが専門である。
「今日のおやつはお餅を焼きますか? それともお汁粉にします?」
「どちらもお餅じゃないのかい?」
「焼くほうは磯部焼きときなこです。お汁粉はお餅を煮ます」
「なるほど。作れるの?」
質問はわかる。私の食事はほとんど温めるだけの状態であり、自炊しない。だが、餅くらいは焼ける。
「トースターに突っ込むだけなので」
「炭は食べたくないよ」
「失礼な……」
心配はごもっともだと思ってしまうあたり、重症だろう。苦手なものは苦手である。文明の力があるのだから利用すればいいじゃない。
「だったら、お汁粉がいいかな。僕が作れるから」
「神様さんが?」
ちょっと意外だ。
どうも彼は料理ができるようだが、この家に大した調理器具がないこともあって、兄貴が運んできた食料を適切に温められる腕前であることくらいしか知れない。今のところ米は炊いてあったが、包丁が登場したことはないのだった。
「材料があることは知ってるからね。僕に任せておいてよ」
「こっそりと兄貴に仕込まれたんです?」
「梓くんが教えてくれたのは美味しい甘酒の作り方かな。君の実家の味にできるよ」
驚きの発言である。私は目を瞬かせながら神様さんを見た。
「いつの間に……」
「君が滅多に実家に帰らないから、味を忘れないようにって」
教えるべきは私ではないのか、兄貴よ……いや、まあ、料理が壊滅的なのはそうだけど。
「実家に帰れなかったのは仕事の都合とご時世のせいじゃないですか」
「でも、梓くんは顔を出せているからさ」
「む……」
実家に帰りたくないわけじゃない。帰りにくいのは半分以上、その場所のせいだ。
「……明日は、甘酒をお願いできますか?」
「いいよ。上手にできたら褒めてよ」
そう言って私たちは笑い合った。
《終わり》
仕事の都合で待機を命じられているので寝正月を決め込んでいたのだが、前もって注文していたおせちを食べ終えたときに彼に聞かれた。
私はおせちの残りを冷蔵庫に突っ込みながら返す。
「うちはそういうのは遠慮しているんですよ」
「あー、そういう……」
「ちょっとしきたりがあるので。お詣りしたらいけないというわけではないんですがね」
だから、そんなに初詣の思い出はない。高校三年生のときには付き合いで行ったが、そんなもんである。初詣が禁止というわけではないから、遠慮なのだろう。
「ということは、新年らしいことってしないのかい?」
「家の中で完結することくらいですかねえ」
スマホを掴んで、呼び出しがないことを確認する。今のところ平和だ。
「じゃあ、書初めとか?」
「小学生の頃はしましたけど、今はさすがに書初めはしないかな……」
宿題で面倒だったことだけ覚えている。和装でやれと言い出す父に、毎度着物を墨で汚して呆れられていたのを思い出す。
「かるたとか百人一首は?」
「しましたねえ。面白いとも思っちゃいなかったですが」
「弓弦ちゃんは食べるほうが好きだもんねえ」
「そうですね」
そのとおりすぎて頷くしかなかった。私は食べるのが専門である。
「今日のおやつはお餅を焼きますか? それともお汁粉にします?」
「どちらもお餅じゃないのかい?」
「焼くほうは磯部焼きときなこです。お汁粉はお餅を煮ます」
「なるほど。作れるの?」
質問はわかる。私の食事はほとんど温めるだけの状態であり、自炊しない。だが、餅くらいは焼ける。
「トースターに突っ込むだけなので」
「炭は食べたくないよ」
「失礼な……」
心配はごもっともだと思ってしまうあたり、重症だろう。苦手なものは苦手である。文明の力があるのだから利用すればいいじゃない。
「だったら、お汁粉がいいかな。僕が作れるから」
「神様さんが?」
ちょっと意外だ。
どうも彼は料理ができるようだが、この家に大した調理器具がないこともあって、兄貴が運んできた食料を適切に温められる腕前であることくらいしか知れない。今のところ米は炊いてあったが、包丁が登場したことはないのだった。
「材料があることは知ってるからね。僕に任せておいてよ」
「こっそりと兄貴に仕込まれたんです?」
「梓くんが教えてくれたのは美味しい甘酒の作り方かな。君の実家の味にできるよ」
驚きの発言である。私は目を瞬かせながら神様さんを見た。
「いつの間に……」
「君が滅多に実家に帰らないから、味を忘れないようにって」
教えるべきは私ではないのか、兄貴よ……いや、まあ、料理が壊滅的なのはそうだけど。
「実家に帰れなかったのは仕事の都合とご時世のせいじゃないですか」
「でも、梓くんは顔を出せているからさ」
「む……」
実家に帰りたくないわけじゃない。帰りにくいのは半分以上、その場所のせいだ。
「……明日は、甘酒をお願いできますか?」
「いいよ。上手にできたら褒めてよ」
そう言って私たちは笑い合った。
《終わり》
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