欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

文字の大きさ
35 / 97
アフターストーリー【不定期更新】

ずぶ濡れの後は浴衣を着ずに

しおりを挟む
 ここのところ仕事は順調だ。週一であるクライアントとの打ち合わせも慣れたものだし、来週からは私が後輩を引き連れて進捗を報告することになったので、出世したとも言えよう。
 問題があるとすれば、残業せずに職場を出ると決まって大雨に降られるということくらいだろうか。大気はずっと不安定で、稲光も見慣れたもんだ。カバンにタオルと雨避けカバーを入れるのも日課となった。

「おかえり」

 ずぶ濡れになって玄関を開ければ、すぐに彼がバスタオルを持ってやってきた。

「ただいま」

 受け取ったタオルで濡れた髪をざっくりと拭いて、滴る水がないように確認する。傘が役に立たない豪雨はつらい。

「雨宿りして帰ればいいのに。三十分もすればやむと思うよ」
「同じ思考で待ってる人が多いから、どこにも入れないんですよ」
「ああ、なるほど」

 押し出されるほどぎゅうぎゅうではないにせよ、私はあまり人だかりのある場所にはとどまりたくない。ずぶ濡れで帰宅しても彼がこうして待っていてくれるのだから、私は彼に甘えることを選択する。

「早足で歩けば五分もかからないので、さっさと帰るのが吉です。雨に濡れるか汗まみれになるかの二択なんですよ?」
「どちらにせよ、帰宅後入浴が必要だね」
「そういうこと」

 私服が許可されている上にクールビズも推奨とあって、スーツを着なくて済むからなせる技である。だが、こうも頻度が高いとずぶ濡れ生活は改めたほうがいいかもしれない。髪が痛んできた気がする。

「着替えは用意しておくから、お風呂にどうぞ」
「そうするー」

 彼も慣れたものだ。お言葉に甘えて、私は浴室に向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 シャワーを浴びて出ると、着替えは置いてあった。だが、いつもの部屋着でもなければパジャマでもない。

「あの」

 バスタオルを巻いた状態で、私は扉から顔を出す。

「うん?」
「浴衣、どこから出したんですか?」
「押入れだよ」

 彼の言う押入れとは、クローゼットのことだろう。

「記憶にないんですが」
「そうなのかい? でも、君のものだと思うけど」

 そう返されて、私は記憶を辿る。
 ん、もしや。
 私は思い当たる事件を思い出して、浴衣を確認した。なるほど、これは仕事のイベントで必要になるからと購入させられたものの日の目を見ることがなかった派手な浴衣だ。

「確かに私のものですね……」
「着てみてよ」

 すごくご機嫌なテンションで勧められる。
 これは、アレだな……
 先日、浴衣を着た私を乱したいなどと発言していたのを思い出す。その日はその日でねっとりとしたイチャイチャを楽しんだはずなのだが、彼は諦めていなかったようだ。

「ジャージかパジャマは……」
「着てくれたら、出してあげる」
「…………」

 彼は結構頑固なところがある。ニコニコして押し切ろうとしてくるので、ここは折れたほうが得策だろう。抵抗しても、着せられるのがオチだ。
 って、ムラっとしたな、私……
 悟られないように私はドアを閉めて戻る。
 だのに、すぐにドアが開けられた。

「はいっ?」
「呼ばれた気がして」
「呼んでないし、浴衣、着るから出てって」

 脱衣所は狭い。そもそもこの家は独り暮らしの狭い部屋なのだ。大人が二人並ぶと着替えにくい。
 私が慌てて追い出そうとすると、逆に壁に追い詰められた。身体に触れられてはいないが、両手を壁に置き、片足を私の股の間に差し込んで行動不能にしてくる。タオルで前を隠してはいるものの、私はほぼすっぽんぽんだ。

「ちょ、神様さんっ」
「浴衣を着せてあげるのもいいかなって思ったけど、君がその気ならまずは応えてあげないと」

 見下ろす目は情欲に濡れている。視線を逸らすべきなのに、見つめられると逃げられない。
 誘ってるのは私のほうだな。
 彼の舌が自身の唇を舐める。その仕草が私をぞくりとさせる。

「ふふ。赤くなってきた」
「それはシャワーの後だから」
「入浴後だからって、ここは硬くならないでしょ?」

 バスタオルが剥ぎ取られて視認されてしまった。指摘のとおりすぎて恥ずかしい。

「僕もお風呂入ろうかな」

 彼の唇が私の耳に触れる。

「……許可しておくれよ」

 耳元で囁くのは反則じゃなかろうか。
 私は目を閉じて彼の背中に手を回した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふふ、気持ちよかったねえ」

 私は素直に頷いた。言葉が出ない。

「お風呂、入ろうか?」

 おもむろに彼はシャツを脱ぎ出した。私は素っ裸だったが、彼は下だけ脱いで事に及んだらしかった。

「さ、先、どうぞ?」
「遠慮しなくていいんだよ」

 そう言うなり、私の身体を横抱きにした。

「弓弦ちゃんは動けないんだから、僕に任せておいてよ」

 それ、任せちゃいけないやつでは。
 だが拒否権はないらしい。器用に浴室のドアを開けるなり、私はあっさり連れ込まれてしまった。
 浴室でも散々甘く鳴かされることになったのは言うまでもないし、浴衣を着そこねたことで次回が待っていると思うとちょっぴり憂鬱で、身体が疼いてしまうのだった。


《終わり》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...