スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ

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第3章:欠席

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*****


 朝の教室は重い空気が漂っていた。
 みんなの視線が私に集まり、それぞれに散ったかと思うとひそひそ話が始まる。

 ――うー……。嫌な空気だなぁ……。

 コノミはまだ来ていないらしい。つまり、彼女からの弁解は済んでいない。
 私は用心しながら自分の席に向かう。窓際にある自分の席がやたら遠くに感じた。

 ――今日は来るようなことを言っていたけど、本当に大丈夫なのかな?

 自分の机にスポーツバッグを置く。
 自然とコノミの席に視線を向けてしまう。鞄がないことからまだ彼女が登校していないことがわかった。

 ――まぁ、いつもコノミは遅刻ギリギリにやってくるんだけどね。

 そんなことを思っていると、チャイムが鳴り始めると同時にコノミが入ってきた。

「はぁ、良かったぁ! セーフだね」

 パタパタと小走りに教室中央の彼女の席に移動する。

「怪我の具合、どう?」

 私が声を掛ける前に、コノミの隣の席に座っている少女が話し掛けた。

「大丈夫。みんな大げさなんだよっ。ちょっと打撲しただけだって。骨に問題はなかったよ?」

 コノミは明るくはきはきと答える。本当になんでもなかったような様子に、私はほっと胸を撫でおろす。

「本当に? みんな心配したんだよ?」

 言って、彼女は私に冷たい視線を一瞬向けて笑顔を作る。
 このクラスの輪を乱したのは確かに私だ。だけど、どうしてそこまで目の敵にされなきゃいけないのだろう。
 私はスポーツバッグの中からコノミに用意した紙袋を取り出す。

「ありがと。――あと、みんな誤解しているみたいだけど、あれはわたしが急に立ち上がった拍子に転んだだけなんだよ? 結衣は助けてくれようとしたの。そういう目で、わたしの友だちを見ないでくれる?」
「…………」

 にこやかな表情で、それでありながら凍える低い声でコノミは注意した。
 隣の席の少女は固まっている。怯えているように見えた。
 その様子に、私の背筋に冷たいものが流れる。

 ――私のことをかばってくれたのに、こんなこと思っちゃダメだよ。

 必死に気持ちを切り替えて、私はコノミの席に向かう。

「コノミ、昨日はすぐに手を貸してあげられなくてゴメンね。何が起きたのかすぐにわからなくって」

 さりげなく声を掛けたつもりだったが、それが彼女の呪縛を解いたらしく、物凄い形相でこちらを振り向いた。
 それを見た私の身体はビクリと震える。

「ううん。こちらこそゴメン! 気が動転しちゃって、ちゃんと説明できなかったから誤解させちゃったね!」

 私たちの様子を見ていたはずなのに、コノミはにこにこしながら自然に返す。

「い……いいのよ、気にしないで」

 私が答えるのと同時に、彼女は自分の席に戻る。
 コノミの冷めた視線が彼女を追っているのに気づく。

「あと、これは昨日のお詫び」

 そんな表情をするコノミを見ていられなくて、すかさず紙袋を差し出す。

「え?」

 思ってもいなかったのだろう。ころっとコノミの表情が変わり、目を丸くする。

「話をちゃんと聞いていないのをコノミが怒ったでしょ。確かに悪かったなって思って。そのお詫びだよ」
「良いの?」

 もらって良いのかどうしようかと迷っているらしく、出された手はなかなか紙袋に届かない。

「遠慮しないで受け取って。コノミのために作ったの」
「わたしのために?」

 言って、コノミはようやく手に取った。

「開けていい?」
「もちろん。気に入ってくれるといいんだけど」

 リボンとテープで止められた口を丁寧に外し、中からぬいぐるみを取り出す。

「可愛いっ! 結衣ってとっても器用なんだね!」

 私がコノミにあげたのは、青い鳥が小さな小枝をくわえている姿をデザインしたキーホルダー。手で握ると見えなくなるほどの大きさのものである。

「これくらいしか特技がないからね」
「嬉しいよ! 大事にするね!」

 コノミはにっこりと微笑むと、スポーツバッグに取り付け始める。彼女の緑色のスポーツバッグには一つも飾りがつけられていないのを私は知っていた。

「うん。なかなか合ってる。本当にありがとう」
「どういたしまして。これからも仲良しでいようね」

 私もにっこりと笑んだところで、担任の先生が入ってきた。すでにチャイムが鳴り終わっていたことを思い出し、そそくさと自分の席に戻る。
 席についた私に、コノミはそっとキーホルダーを揺らして手を振ると前を向いた。

 ――気に入ってくれたみたいだ。

 私はいろいろと安心して、今日も一日を乗り切れそうだなと思えた。
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