不死身の俺と出来損ないのカミサマと。

一花カナウ

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祠を壊したら、美形の怪異に因縁つけられた話。

宿泊名簿に載っていない名前

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 ◆◇◆◇◆


 食事を終えて、俺はまず電話を試みる。
 自分が持っていた登山用のリュックサックのそばに、携帯電話が置かれているのに気がついた。
 確か、上着のポケットに入れていたはずだが……。濡れた服を干すときに転がり落ちたのを拾われたのだろうか。
 俺は這うような調子で荷物のそばに近づき、携帯電話を手に取る。充電は残り半分を切っているが、通話するには足りるだろう。ディスプレイに表示されている電波状況を見ると、しっかり届いているらしかった。
 彼が言っていたとおりだな。祠周辺は全然電波が入らなくて、依頼主にテレビ電話ができなかったんだよな……。
 祠を壊したことを証明するために、こちら側を表示して通話するようにしている。が、そもそも通話できないことのほうが多い。結果的に、ほとんどの場合が証拠写真を撮影して、指定された場所に送信することで仕事を終える。
 とりあえず、宿に連絡だな。依頼主にはそのあとでいいだろう、うっかり電波がなくなっても困るし。
 彼も宿への連絡を勧めてくれたのだから、それはおそらく問題なくできるのだろう。そんな気がして、履歴から宿屋の電話番号を選んで通話ボタンをタップする。

「はい、民宿〇〇です」
「昨日からそちらに宿泊している倉持《くらもち》と申します。出先でトラブルがありまして、今夜は戻れそうにないのです」
「……倉持さん?」

 宿泊名簿をめくっているような音が入る。

「えっと、二〇三号室に案内されていて、荷物もそのままになっていると思うんですが」

 ガタっと受話器が落ちる音がする。

「あの、もしもし?」
「ああ、すみません」

 通話の相手が変わった。

「もしかして、俺が宿泊していたのってもっと前だったりします?」

 画面の日付は祠を壊した日と同じに見えたが、見間違いだっただろうか。

「ああ、いえ。そうじゃないんです」
「はい?」
「倉持《くらもち》貴秀《たかひで》さんは、お泊まりにならなかったんです」
「え?」

 どういうことだろう。俺は携帯電話を持ち直す。

「いやいや、俺、昨夜遅くに素泊まりで宿泊して、翌朝の早い時間に出発しているんです。スタッフさん方には数人しかお会いしませんでしたけど、ちゃんと手続きしましたって」

 スタッフだと思った人間が実はそうじゃなかったということだろうか。
 だが、どうもそういう話ではなさそうだ。

「あのぉ、これって何かの調査だったりします?」

 奇妙なことを聞かれた。

「それとも、昨夜の事故についてのインタビューとかでしたら、直接いらしていただけたほうが詳しくお話しできますんでぇ」
「事故?」

 近所で事故でもあったのだろうか。俺は記憶にないのだが。
 聞き返すと、なにやら雑音が混じる。

「とにかく、倉持さんはいらっしゃっておりませんでぇ、何かの間違いか、別の宿と間違われたのだと思います。では、失礼いたします」
「え、あ、ちょっ」

 通話が切られてしまった。
 俺は携帯電話の画面を見る。
 日付に異変はない。祠を壊した時間から四時間が経過している。そろそろ日が暮れる頃合いだ。下山は雨がしっかりと止んで、明るくなってからがいいだろう。
 気絶していたのが一時間くらい、か。しかし、なにが起こっている?
 情報が少ない。俺は携帯電話で検索をしてみる。住所を入れて、直近二十四時間内で起こった事件や事故を表示させる。

「……まだニュースにはなっていないのかな?」

 主要なSNSの情報もあたってみるが、検索の仕方が悪いのかヒットしない。
 となると、掲示板か?
 使った公共機関の名称も入れて検索を試みるが、想像するような情報は出てこなかった。

「俺が泊まっていないって、どういうことなんだろうな……」

 てっきり自分が事故に巻き込まれたことになっていて、宿泊の手続きがキャンセルされているんじゃないかと考えたが、自分が手に入れた情報からだと今ひとつ決定打に欠ける。
 いつのまにかいなくなって戻らないまま数年経過くらいなら、伝承にありがちなんだよな、浦島太郎みたいな感じで。
 俺は胡座をかいて唸る。無事に下山できたら、確認に行こう。

「――食事は終わったかい?」

 障子戸がゆっくりと開いて、和装の彼が姿を見せた。

「ああ、とても美味しかった。食事を下げる前に連絡をしておこうと思ってさ」

 俺は携帯電話を彼に見せた。

「宿泊手続きは問題なかったかい?」
「それが、俺は泊まってないって言い張るんだ」
「戻ってない、ではなくて?」

 彼も違和感を覚えたらしかった。ふむと唸って、首を傾げる。

「あんたの仕業《しわざ》ではないのだろう?」
「過去に干渉するようなことはできなくはないが、ちと大掛かりすぎる」
「俺が到着する前にキャンセルになっていたようなんだが、だとしたら、俺はどうやって泊まったんだ? 部屋が空いていたから改めて宿泊手続きを取ったんだろうか」
「さあ。不思議なこともあるものだな」

 そうはいうが、こういう奇妙なことに慣れているのか彼の反応は薄い。

「……管轄外、か」
「ああ、わかったよ。不貞腐れてくれるな。その調査も手伝おう。だが、その前に風呂だ」
「風呂?」
「風呂を沸かしてきた。体を温めて、思考をはっきりさせたほうがいい。体調はどうだ?」
「おかげさまで動けるようにはなった」
「なら、介助は不要だな」

 アテが外れたみたいなニュアンスを込めないでほしい。

「自分で清められるよ。……そもそも、風呂は広いのか?」

 成人男性二人が入れる風呂が一般家庭にあるのは珍しいだろうが、この屋敷はとても広いので風呂も広いのかもしれない。

「ああ。露天風呂もあるんだ。眺めはいいのだが、今日は雨が降っているからな。明日の朝にでも入るといいんじゃないかな」
「気が向いたら、覗いてみるよ」
「では、早速案内しようか」

 彼に促されて、俺はこの部屋を出たのだった。

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