御姉様と喚ばないでっ‼︎

一花カナウ

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ユニコーンと町民

町内会議

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 部屋の中は長机が四角にならんでおり、その一辺に二人ずつ、俺のいる入口から近い場所から右回りにミレイ、トキヤ、偉そうな爺さん、おばば様、見知らぬ青年が座っていた。彼らの視線は全て俺に向けられている。

「お話中すみません」

 取り敢えず頭を下げる。空気がとても重い。

「どうぞこちらへ」

 おばば様の隣に座っていた青年がさっと立ち上がり、俺に偉そうな爺さんの正面にあたる場所を勧める。

「はい」

 俺は頷くと勧められた席におとなしく座る。突っ立っているわけにもいかないからね。

「……気が付いたようだな。さっきは悪かった。身体は大丈夫なのか?」

 斜め隣に座っているミレイが不安げに俺の顔を見つめる。俺が座るなり声を掛けてきたところを見ると、結構心配してくれたようだ。このくらい気を揉んでもらわないと割に合わないと思っていたから、ちょっとだけ嬉しいね。

「ユニコーンの治療が適切であったってことだろうよ」

 小声で俺は返答する。その返事に安心したのか、ミレイはいつもの仏頂面になった。この表情が不機嫌から来るものではなく、デフォルトがこうらしいと理解した俺にはその反応が正常であるとわかるのでほっとする。今のところ、ここでとやかく責められているわけではないのだろう。

「ならいい」

 短く答えると、ミレイは視線をおばば様に向けた。

 おばば様はミレイに視線を固定して黙っていたが、俺たちのやりとりが一段落ついたのを見てやがて口を開いた。

「御姉様がわざわざこちらに足を運んで下さるとは思っていなかったよ」

 ゆっくりと、どこか含みのある言い方に俺は緊張する。

「私には知る権利があると思いまして」

 余裕のあるように振る舞ったつもりだが、どうにも自分がここにいる正当性を主張できているようには思えない。ここの空気が馴染みのないもので、俺にはどうしたらいいのかよく分からない。勢いでやって来てしまったのも手伝って、ここでうまく立ち回ることができるのか甚だ疑問である。だけどここに乗り込んだからには、『御姉様』として世話になったトキヤたちきょうだいが救われるように、また町の住人が納得する形で決着をつけることができるようにしたい。それがきっとユニコーンの願いであるはずだ。俺をここに呼んだ一番の理由であるはずなのだ。ならば。

「知る権利、か……」

 正面の爺さんが呟く。頭がすっかり禿げていて、そうでありながら髭はたっぷりとある爺さんは細い目をさらに細めた。顔に刻まれた皺がさらに増える。

「まさか本当に伝説通りの人間が現れるとはね」

 爺さんはしゃがれた声でさらに続けると、机の上に用意された木製のカップを口に運んだ。

「かっかっかっ。ユニコーン信者にしては愉快な発言じゃな、町長殿」

 からかうようにおばば様が爺さんに向かって言う。なるほど、偉そうな爺さんは町長なのか。となると、下にいた偉そうなおっさんは何者だったんだろうか。

「伝説はこの町の言い伝えとは違う。伝説はあくまでもこの世界に伝わるものだ」
「なら、この町の内だけが世界じゃないということは理解していることじゃろう?」
「…………」

 おばば様が笑いながら町長に言うと、彼は黙ってしまう。飲み物を飲んでいる振りをしていると思ったのはその喉が動いていなかったからだ。おそらく中身はすでに空になっているのだろう。

 おばば様と町長ではどちらの意見が優位に立っているのだろうか、なんてことをふと思う。

「――おおよその話はトキヤと今年のユニコーンの乙女であるミレイから聞いたよ、御姉様」
「ならば、ユニコーンがどんな目的で町の少女をさらっていたのかご存じなのですね」

 おばば様の視線が再びこちらに向けられると俺は返事をする。ミレイとトキヤから話を聞いたと言うことは、ユニコーンが町の人間を外に連れ出すためにユニコーンの乙女を利用していたことが明らかになったのだろう。初めておばば様に会ったとき、彼女はユニコーンの悪さを止めてくれと俺に依頼してきた。捉え方によっては微妙なところだが、おそらくその事実はおばば様も知らなかったことなのだろう。

「しかしそれが事実かどうか確かめる手段はない」

 カップをおいて町長が割り込む。

「神殿の破壊における死傷者がいないことが充分な証明になっていると思いますが」

 異議を唱えたのはトキヤ。とても落ち着いた声には説得力がある。

「…………」

 町長は再び沈黙する。

「そろそろこの町も解放されるべきなんじゃよ。――何もこの町の仕来りを撤廃しろとは言わん。寛容になれと言うだけのこと。それを知らせに御姉様がやってきたんじゃ」
「認めん。この町を守るための仕来りだ。寛容になれだと? そんなこと、儂が許したところでこの町の住人全てがおおらかに対処できるとは思えんな」

 どうやら彼に流れた月日は彼の頭を完全に錆び付かせてしまったらしい。それに比べればおばば様はとても柔軟な思考を持っているようだ。

「町を開放するだけでも違うと思うがな。トキヤもそう思うじゃろう?」

 おばば様に話を振られたトキヤははっきりと頷く。

「俺たちが外の町に行き来することにより、町にやって来る人間は増えたと思います。この町の情報を外部に持ち出すことで、観光目的で訪れる人が増えたことは町長様もご存じのはず。それによってこの町が活性化したことも認めていらっしゃるのでしょう?」

 トキヤは視線を町長に向ける。町長は視線を逸らす。

「今はまだ観光産業が未熟ですが、おばば様の占いを目的としてわざわざ遠くから足を運んで来る者がいるおかげで発達しつつある。定住とまではいかなくとも、この町に外部の人間を見かける機会は確実に増えたはずです。この調子でゆけば、この町で生活したいと思う者も確実に出てきましょう。――そのときになって、俺たちのような想いを抱く者が出てはツライのです」
「儂はお前たちの仕事を善しと思ってはおらん」

 町長はきっぱりと言い切った。

「まだそんなことを」

 おばば様が町長に言うと、彼はおばば様を睨み付けた。

「そう仕向けたのはお主ではないか、ナツメ殿!」

 ――!

 俺はその名に驚いて、周りにいる連中とはまったく違う理由でおばば様を見つめた。よりにもよって俺の姉貴と同じ名前かよ!

「自分の私腹を肥やす道具としてその者たちを利用しただけではないか!」

 怒りにまかせて机を叩き、町長は勢いよく立ち上がる。

「この町の発展を憂いてのことじゃ」

 おばば様は視線だけ町長を見る。にやついているように見えるのは何故だろう。

「儂は知っておるんだぞ。お主が占いの対価として外の町の品物を集めとることをな」

 町長のその台詞に俺は思い当たるところがあった。

 おばば様に初めて会ったあの部屋、雑貨屋のようにいろいろな物が散らかって置いてあると思っていたが、あの飾りのような物や謎の置物はおばば様のコレクションだったのだ。てっきり俺は占いに必要な物なんだろうとばかり思っていたが、それならあの統一されていない雰囲気を理解できる。

「それがどうしたと? この町の人間にとっては価値のない物じゃろう? そんな物を集めたところで、何の迷惑もかからないだろうに。それにわしは貴金属を手にしとらんよ」
「ぐぬぅ!」

 おばば様の反論は町長を黙らせるのに充分だったようだ。渋い顔をして町長は座り直す。

「まぁ、町長殿の言うことの一部は認めてもよい。トキヤたちを利用したという部分はな」

 確かレキが言っていたはずだ。この仕事を紹介したのはおばば様だと。

「でもそれは……」

 おばば様の台詞に割って入ったのは様子を窺っていたミレイ。それを止めたのはトキヤ。しかし続けたのはおばば様の隣に座っている青年。この男が何者なのかはよく分からないのだが。

「えぇ、その理由も我々は存じております」
「クレス……」

 ミレイはその青年のものらしい名前を呟いておとなしくなる。
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