御姉様と喚ばないでっ‼︎

一花カナウ

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ユニコーンと町民

町の決断

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 青年はミレイに向かって優しく微笑むと、町長に向かって切り出した。

「町の住人の中には初めこそトキヤさんたちの仕事に不信感を抱いていましたが、今ではその活動に賛同する者も少なくありません。
 ――ろくに宿を設けていなかったので、外部の人間がやってきたときには住人の家に招くしかありませんでした。この町の仕来りではよそ者は排除するようになっていますが、我々もそんな冷たいことができるわけではありません。ちらほらと、ほんのわずかではありましたが自分の家の使っていない部屋をそんな人たちに提供するようになりました。その中で外の町の様子を聞く者たちも出てくる。興味が湧かないことがありましょうか。外の町を見に行きたいと思うのは自然なことでしょう? なのにこの町の仕来りでは外の町に行くことをよしとしない。
 もともとこの仕来りはこの町が他のどの町からも離れているが故に発生したものなのでしょう。この町を出て別の町に行くには、徒歩ではかなりの旅になります。その上、この町を取り囲む草原は野犬が多く、いつ襲ってくるかわからないという危険をはらんでいる。その危険を思っての仕来りだったのではないでしょうか。
 しかしこの時代、馬車がある。馬車であれば野犬の心配はいくらか軽減されるばかりか、丸一日走らせれば充分に隣町に行くことができる。仕来りはもう時代遅れなんですよ。それに気付いたこの町のユニコーンは、おばば様に伝えたのです。もっと外のことに目を向けるように、と」
「ではなぜユニコーンは町長である儂やユニコーンの乙女にそのことを伝えなかったのだ? おかしいではないか!」

 その台詞に対し、ミレイとトキヤは悲しげな目で町長を見つめた。

「ユニコーンは伝えたんですよ。しかしうまくいかなかった。伝えられたユニコーンの乙女が混乱の末に自殺してしまったのですから」

 町長の台詞に答えたのは俺。ミレイとトキヤが言いにくそうにしていたので俺が先に言ってやったのだ。ユニコーンの台詞が真実なら、この悲劇は伝えねばならない。

「な……」
「町長。もう舞台は整いました。あなたは速やかに引退し、次の代にその席を譲るときなのです。
 我々の代はもう覚悟ができている。あとは自分たちの親の代を説得するだけなのです。幸か不幸か、今までの仕来りの象徴とも言うべき神殿はなくなりました。この機を逃せば町の人々の意識改革はできません」

 クレスはきっぱりと告げる。どうもこの様子からすると、クレス青年は仕来り撤廃派の中心人物なのだろう。そしてミレイを支えてきた人間でもあるようだ。さっきからミレイが彼に向ける視線に熱いものを感じるからね。ひょっとしたらミレイに神殿を破壊するように助言したのも彼なのかも知れない。

「何を言う」

 それに対し、町長は不敵に笑う。

「さっきから聞いていれば自分に都合のよいことばかり並べおって。肝心のユニコーンが本当のところどう思っているのかはわからんではないか。お主らが言うことが間違いであったらどうだ? ユニコーンの怒りに触れることになったらどうなるか、この町に残っている文献を知らんとは言わせないぞ?」
「ユニコーンはこんなことで怒ったりしませんよ」

 俺は落ち着いた口調でさらに続ける。

「むしろ、このままの状態であり続けることに怒りを覚えると思います」
「御姉様……」

 少しだけ嬉しそうな表情でミレイが視線を送ってきた。俺は小さくウインクしてこの場を任せるように合図する。

「ふん。どうかな。お主が本物の御姉様だというなら、ここにユニコーンを連れてきたらどうかね。ユニコーンの意向がどんなものなのか、直接聞くまで儂は信じないぞ」

 なかなかの頑固爺らしい。ユニコーンを連れてこいときたもんだ。一般人が何を偉そうに、と俺は町長を憎らしく思う。

 しかし、だ。都合よく俺の呼びかけにユニコーンが答えるとは思えない。あれはあれで気分屋なところがある。取り敢えず、呼んでみるか。

「わかりました。呼び出せばいいのですね」

 俺は立ち上がると小さく深呼吸した。――頼むぜ、ユニコーン。ここが正念場なんだからな。

「ユニコーンよ、私の声が聞こえているなら姿を現して」

 祈るように俺はその名を呼んだ。

 長机で四角く囲まれたその中央に、白い光が生じた。強烈なフラッシュのごときその明るさが次第に収束し、人型の影を作る。

「お疲れさまです、御姉様。あなたを選んでよかった」

 俺に背を向けて現れるなり、肩越しにユニコーンは言った。

「さて、私に用事があるというのはどちら様です?」

 きっと話は盗み聞きしていて知っているのだろうが、ユニコーンは穏やかな声で関係者に目をやった。

「俺の正面に座っている町長さん」

 俺がユニコーンの問いに答えてやる。

 正面の町長は目をまん丸にして驚いたままでいる。その様子からすると、俺が本物の御姉様だとは思っていなかったらしい。まったく失礼なヤツだ。

「あぁ、あなたですか」

 ユニコーンは言ってつかつかと町長の前へと移動する。

「いかにも頭が旧体制っぽい人物ですね。で、何か?」

 いきなり挑発する文句を言うあたり、俺が考えていたとおりこの場の状況を理解しているようだ。たぶんその顔には笑顔の仮面の下に怒りが込められているのがわかる表情が浮かんでいるに違いない。町長もさすがにその空気は読めるだろう。

「――あなた様はこの町をどのようにしたいのです?」

 しゃがれた町長の声はわずかに震えていた。ユニコーンに威圧されてびびっているのかも知れない。

「ユニコーンの乙女や御姉様が言っているとおりです。――この町には変化が必要なのです。ただ、今のこの穏やかさはそれまで守られてきた仕来りによるものが大きいことは認めます。この町の地理的条件からもそれら仕来りが生まれるのは必然のことでした。しかし、時代は流れました。この外の町はどんどんと近代化が進み、人の動きも活発になっています。この町を維持するためにも町の開放は必至なのです。今ここで行わなければ取り残されてしまいます。どうかご一考を」

 ユニコーンはいたって強気な姿勢で捲し立てるように言い放つ。

 それに対し、町長は細い目を目一杯開けてユニコーンを見つめた。

「――町が開放されてもこの町で培われてきた文化が守られると、あなた様は保証して下さるのですか?」
「保証はできません」

 ユニコーンの返答は簡潔だった。

「ならば町の開放には疑問だな」

 だからいわんこっちゃ無いと言った様子で町長は自分の髭を撫でた。

「……あなた、町の外の様子を知っているのですね?」

 口調に変化があった。ユニコーンの戸惑うようなその問いに、町長はゆっくりと頷く。

「それでいながら拒み続けてきた……」
「あぁ。そうだ」

 町長の返事に対し、ユニコーンは小さく頭を振って一歩後ろに退く。

「儂は、この町が工業化していくのを見たくはない。――科学というものがどれだけ生活を楽にさせたのかは出て行ってしまった孫から聞いておる」
「!」

 この町を出て行った少女の中に町長の孫が含まれていたのか。

「だがな、この町にはこの町のやり方がある。今の状態で充分に機能しているはずだ。なのにそれを変えようなどと……」
「無理に変えることはありません。ただ寛容になるべきだと言っているのです。人や物の移動の制限を撤廃するだけでよいのです。他の町の真似をしろとは言わない、いや、むしろこのままの状態であって欲しい。このままの状態で他の者に開放して欲しいのです。他の町からやって来た人々を温かく迎え入れ、また、外の町に興味を持った人々を自由に行かせてやる、ただそれだけのことをどうして拒否なさるのですか?」
「この町の良い部分が汚染される可能性があるのなら、その種を前もって排除するだけのこと。あなた様にはわからないのですか?」
「っ……」

 ユニコーンは黙り込んだ。町長の意見に押されている。

 さて、俺はといえば。

 難しい話をしているなぁと思うだけで、この議論に参加しようとは思っていない。究極的に外部の人間である俺にとって、この議論に口を挟むことは許されないように思えるのだ。

 しかしである。俺はこの町には丸一日ほどしかいないが、この町の雰囲気は好きである。電気のない生活なんて俺はしたことがないから、今はもの珍しくって仕方ないという分だけ面白く思えるのかも知れない。それでもこの白っぽい石で作られた通りや建築物は俺の住む町の雑多な感じよりはずっと整って見えた。通りを歩く人々はとても楽しそうで、店の従業員も生き生きしている。食べ物だって美味しかったし、この生活を不自由だとは思わなかった。

 この町にはこの町のリズムというものがあって、それが滞り無く回っていることはよく分かっているつもりだ。仕来りについてもなるほどと思わせるものがあって、俺としては納得していた。ま、それらによってトキヤたちきょうだいが苦しんできたと言うことも理解しているつもりだけどね。

 それに、この町が孤立しているのは馬車に乗せられてここに連れてきてもらったからわかるのだ。なぜなら道も整備されたものではなく、ただ草が刈られただけの悪路で馬車がひどく揺れていたことを覚えているからだ。街中に整備された石畳とは比べものにならない道である。つまり、この町に外からやって来る人間が少ないことを示しているのではなかろうか。まぁ、道なんて別にその一本だけではないだろうから、他に整備された道が存在するのかも知れなかったが。
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