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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】
落雷と停電
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室内が真っ白になったかと思えば、爆音が轟いた。そののちには薄暗い部屋が残される。
「――おや、停電だね」
雷が落ちたらしかった。店内には運良く誰もおらず、ちょうど遅い昼食にしようとしていたところだった。
「復帰するか?」
「さあ、どうだろう」
店長はのそのそとブレーカーの確認に向かう。幸い、昼間なので真っ暗にはならないため、移動には困らない。いや、そもそも店長であれば闇の中でも問題なく動けそうだが。
「ああ、ブレーカーをいじっても戻らないから、時間がかかりそうだ」
確認を終えたらしい。店長がまるい眼鏡に触れながら戻ってきた。
「じゃあ、午後は閉店だな」
「そうなるだろうね。停電中は水も使えない」
俺は店の外に目を向ける。商店街の他の店も停電らしい。大雨の中で映る光は懐中電灯や携帯電話のライトらしきものばかりで、いつもの賑わいとは違って見える。
「そうなると、玄関先に土嚢を積むのもできねえか……」
「確かにこの雨だと浸水対策は必要だね。もう少し早く対応すべきだったか」
「勿体無いが、期限の近い保存用の水をあけて、土嚢を作っておくか?」
この店の土嚢は、水を入れて固めるタイプのものを準備している。これならば保存しておくのに場所を取らないし、中に入れているものも柔らかいので水を堰き止めるのにちょうどよくフィットする。避難訓練で一度作って確認していたのだが、早速役立ちそうだ。
「今は僕と獅子野くんしかいないから、空間ごと切り離してしまっても問題ないような気がするよ」
「いや、冗談はやめろ」
神隠し的なものは勘弁してほしい。
俺が真顔で止めると、店長は肩をすくめた。
「それは最終手段にしよう」
「するな」
「ところで、昼食は用意してあるのだが、食べてくれるかい?」
「そうだな、このあとどうなるかわからねえし」
これから準備するのであれば困ることになっただろうが、通常はランチタイムの仕事が終わる頃には俺の分の昼食は用意が終わっている。
俺が催促すると、店長はカウンターにバケットサンドを置いた。
「先に作っておいて正解だったよ」
「有り難えよ」
俺はカウンター席に着いて両手を合わせる。今日のバケットサンドはローストチキンとサラダのようだ。
「……食べ終わる頃には停電は復旧しているだろうね」
俺が大きなひと口を齧ったところで店長が言う。彼の視線は外を向いていた。
「雨は?」
「しばらく止まないが、浸水被害は免れるはずだ。ここは商店街の中でも少し高い位置にあるからね」
「雨漏りの心配はねえのか? ここ、二階もあるんだろ?」
正確にはカフェ百鬼夜行の持ち物ではないとのことだが、建物自体を店長が管理しているはずだ。
俺が尋ねると、店長は目をまるくした。
「気にしたことがなかった」
「使用していないと家ってのは傷むから、ときどきは確認しねえと」
俺の指摘に、店長はうんうんと頷く。
「おそらく問題はないはずだが、近いうちに中をあらためておくとしよう」
そんなやり取りをしている間に、部屋の電気が戻ってきた。
「予想よりも早かったね。この国の電気会社は優秀だ」
俺の手元には半分以上残ったバケットサンドがある。食べ終える前に電気は戻ってきた。
「まだ雷の音は響いているし、雨もすごいから油断はできねえな」
「獅子野くんは雨宿りをしていくといい」
「そうだな。この雨で困っている誰かが転がり込んでくるかもしれねえし」
「そうならないことを僕は祈っているがね」
今日はあまり誰かの物語には興味が向かないらしかった。珍しい。
「ま、食事の邪魔はされたくねえな」
俺はそう返事をして、美味しいバケットサンドを齧るのだった。
《終わり》
「――おや、停電だね」
雷が落ちたらしかった。店内には運良く誰もおらず、ちょうど遅い昼食にしようとしていたところだった。
「復帰するか?」
「さあ、どうだろう」
店長はのそのそとブレーカーの確認に向かう。幸い、昼間なので真っ暗にはならないため、移動には困らない。いや、そもそも店長であれば闇の中でも問題なく動けそうだが。
「ああ、ブレーカーをいじっても戻らないから、時間がかかりそうだ」
確認を終えたらしい。店長がまるい眼鏡に触れながら戻ってきた。
「じゃあ、午後は閉店だな」
「そうなるだろうね。停電中は水も使えない」
俺は店の外に目を向ける。商店街の他の店も停電らしい。大雨の中で映る光は懐中電灯や携帯電話のライトらしきものばかりで、いつもの賑わいとは違って見える。
「そうなると、玄関先に土嚢を積むのもできねえか……」
「確かにこの雨だと浸水対策は必要だね。もう少し早く対応すべきだったか」
「勿体無いが、期限の近い保存用の水をあけて、土嚢を作っておくか?」
この店の土嚢は、水を入れて固めるタイプのものを準備している。これならば保存しておくのに場所を取らないし、中に入れているものも柔らかいので水を堰き止めるのにちょうどよくフィットする。避難訓練で一度作って確認していたのだが、早速役立ちそうだ。
「今は僕と獅子野くんしかいないから、空間ごと切り離してしまっても問題ないような気がするよ」
「いや、冗談はやめろ」
神隠し的なものは勘弁してほしい。
俺が真顔で止めると、店長は肩をすくめた。
「それは最終手段にしよう」
「するな」
「ところで、昼食は用意してあるのだが、食べてくれるかい?」
「そうだな、このあとどうなるかわからねえし」
これから準備するのであれば困ることになっただろうが、通常はランチタイムの仕事が終わる頃には俺の分の昼食は用意が終わっている。
俺が催促すると、店長はカウンターにバケットサンドを置いた。
「先に作っておいて正解だったよ」
「有り難えよ」
俺はカウンター席に着いて両手を合わせる。今日のバケットサンドはローストチキンとサラダのようだ。
「……食べ終わる頃には停電は復旧しているだろうね」
俺が大きなひと口を齧ったところで店長が言う。彼の視線は外を向いていた。
「雨は?」
「しばらく止まないが、浸水被害は免れるはずだ。ここは商店街の中でも少し高い位置にあるからね」
「雨漏りの心配はねえのか? ここ、二階もあるんだろ?」
正確にはカフェ百鬼夜行の持ち物ではないとのことだが、建物自体を店長が管理しているはずだ。
俺が尋ねると、店長は目をまるくした。
「気にしたことがなかった」
「使用していないと家ってのは傷むから、ときどきは確認しねえと」
俺の指摘に、店長はうんうんと頷く。
「おそらく問題はないはずだが、近いうちに中をあらためておくとしよう」
そんなやり取りをしている間に、部屋の電気が戻ってきた。
「予想よりも早かったね。この国の電気会社は優秀だ」
俺の手元には半分以上残ったバケットサンドがある。食べ終える前に電気は戻ってきた。
「まだ雷の音は響いているし、雨もすごいから油断はできねえな」
「獅子野くんは雨宿りをしていくといい」
「そうだな。この雨で困っている誰かが転がり込んでくるかもしれねえし」
「そうならないことを僕は祈っているがね」
今日はあまり誰かの物語には興味が向かないらしかった。珍しい。
「ま、食事の邪魔はされたくねえな」
俺はそう返事をして、美味しいバケットサンドを齧るのだった。
《終わり》
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