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音楽・不可思議カフェ百鬼夜行の業務“外”日誌・2
ライブハウスの幽霊・前編
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「――ライブハウスの幽霊?」
店長に呼ばれてボックス席に同席すると、客からの相談にのることになってしまった。
俺が聞き返すと、眼帯の美青年は重々しく頷いた。
「僕の店からライブハウスに飲料や軽食を提供しているんだけど、そこで噂になっていてね」
「君は確認したのかな?」
店長が眼帯の青年に尋ねる。
「昼間にね。見たところ異常なし。なんらかの気配が残っているわけでもなくて」
「ふむ。実に興味深い」
この会話からするに、眼帯の青年も同業者なのだろう。つまり、怪異に耐性のある飲食店経営者ということである。
「聞いてみると、見たとか会ったとか証言しているひとは皆夜に遭遇しているようで」
「なるほどなるほど。夜は仕事があるから確認ができない、それゆえに僕のところに来たということだね」
「話が早くて助かるよ」
この店、カフェ百鬼夜行はこの季節は概ね十七時に閉まる。定休日がないので昼間の調査は難しいが、夜間であれば自由だ。
「……なあ、それ、特定の人物が引き連れているパターンじゃねえのか?」
話を聞いていた俺が意見を述べる。二人が俺に注目した。
「それは考えていなかったが、シフト表や出演者を見る限りでは、規則性は見出せなかったよ」
「そっか……。楽器は?」
俺がさらに聞くと、眼帯の青年は片手を顎に当てて考え込む。
「機材には異常は感じられなかった。持ち込まれている機材は個人のもので、どこかの業者から定期的に借りているわけではないらしい」
「よく調べているね」
「思いつく限りのことは調べているよ。あなたのような専門家ではないけれど、依頼するからにはきちんと見ておかないと」
店長、専門家枠なのか……。
俺がちらりと店長を見やると、彼のまるい眼鏡がきらりと光った。
「ふむ。確かに現場に行ったほうがよさそうだ。引き受けよう」
「助かるよ。ライブハウスに提供している売上が減るのは困るからね」
彼はホッとした様子で笑った。
「実際のところはどうなんだ?」
「じわじわと客が減っているから、悠長なことは言っていられないかな」
なるほど、仕事として困ったことになりそうだからライブハウスの調査に乗り出したというわけか。俺は頷いた。
「とりあえず、これは今夜のチケットだ。ワンドリンク制。アルコールを含んでいるものも扱っているから注意して」
彼は胸ポケットから封筒に入ったチケットを取り出した。複数枚入っている。
「電子じゃないんだな」
「小さなライブハウスなんだよ」
「ふぅん……」
最近は電子チケットでスマートフォンが必須なのだとなんとなく思っていたので、俺はチケットを受け取ってまじまじと見つめた。
「獅子野《ししの》くんはライブハウスに行ったことがあるようだね」
「ずいぶんと昔だが、舞台に立つ側だったよ。知人がバンドやっていて、少しの間だけ臨時でギター弾いたりキーボード弾いたりしていた」
「ほう」
店長が目をまるくする。
「ちょっと齧っただけだよ」
「ピンチヒッターを任せられる程度の腕なら、たいしたものじゃないか」
眼帯の青年も驚いた様子で褒めてくれた。俺は照れくさくて頬を掻く。
「僕の店でピアノを弾いてほしいな」
「クラシックは苦手だ」
「ジャズは? 僕はサックスができるよ」
確かにサックスが似合いそうなルックスだとは思った。
「ジャズ……経験がないからな」
面白そうだと思ってしまった。仕事に慣れ過ぎて刺激が少なくなってきた頃合いだっただけに、店で提供するものとしてではないなら触らせてもらいたいなんて想像してしまう。
俺が惹かれていることを見抜いたのか、店長が俺の肩を抱いてそっと引き寄せる。
「獅子野くんを引き抜くつもりなら、この仕事は断らせていただくよ」
怒っている。いつもより声が低い。
眼帯の青年は両手を肩の位置までぱっと上げた。
「そういうつもりはないよ。怖い顔をしないでほしいな」
「怖い顔?」
店長がそう告げて、口元がニヤリと笑った。
「君の目にそう映っているなら、今後の言動には気をつけたまえ」
「肝に銘じておくよ」
彼は穏やかに笑って、ブラックコーヒーを飲み干して店を出て行った。
店長に呼ばれてボックス席に同席すると、客からの相談にのることになってしまった。
俺が聞き返すと、眼帯の美青年は重々しく頷いた。
「僕の店からライブハウスに飲料や軽食を提供しているんだけど、そこで噂になっていてね」
「君は確認したのかな?」
店長が眼帯の青年に尋ねる。
「昼間にね。見たところ異常なし。なんらかの気配が残っているわけでもなくて」
「ふむ。実に興味深い」
この会話からするに、眼帯の青年も同業者なのだろう。つまり、怪異に耐性のある飲食店経営者ということである。
「聞いてみると、見たとか会ったとか証言しているひとは皆夜に遭遇しているようで」
「なるほどなるほど。夜は仕事があるから確認ができない、それゆえに僕のところに来たということだね」
「話が早くて助かるよ」
この店、カフェ百鬼夜行はこの季節は概ね十七時に閉まる。定休日がないので昼間の調査は難しいが、夜間であれば自由だ。
「……なあ、それ、特定の人物が引き連れているパターンじゃねえのか?」
話を聞いていた俺が意見を述べる。二人が俺に注目した。
「それは考えていなかったが、シフト表や出演者を見る限りでは、規則性は見出せなかったよ」
「そっか……。楽器は?」
俺がさらに聞くと、眼帯の青年は片手を顎に当てて考え込む。
「機材には異常は感じられなかった。持ち込まれている機材は個人のもので、どこかの業者から定期的に借りているわけではないらしい」
「よく調べているね」
「思いつく限りのことは調べているよ。あなたのような専門家ではないけれど、依頼するからにはきちんと見ておかないと」
店長、専門家枠なのか……。
俺がちらりと店長を見やると、彼のまるい眼鏡がきらりと光った。
「ふむ。確かに現場に行ったほうがよさそうだ。引き受けよう」
「助かるよ。ライブハウスに提供している売上が減るのは困るからね」
彼はホッとした様子で笑った。
「実際のところはどうなんだ?」
「じわじわと客が減っているから、悠長なことは言っていられないかな」
なるほど、仕事として困ったことになりそうだからライブハウスの調査に乗り出したというわけか。俺は頷いた。
「とりあえず、これは今夜のチケットだ。ワンドリンク制。アルコールを含んでいるものも扱っているから注意して」
彼は胸ポケットから封筒に入ったチケットを取り出した。複数枚入っている。
「電子じゃないんだな」
「小さなライブハウスなんだよ」
「ふぅん……」
最近は電子チケットでスマートフォンが必須なのだとなんとなく思っていたので、俺はチケットを受け取ってまじまじと見つめた。
「獅子野《ししの》くんはライブハウスに行ったことがあるようだね」
「ずいぶんと昔だが、舞台に立つ側だったよ。知人がバンドやっていて、少しの間だけ臨時でギター弾いたりキーボード弾いたりしていた」
「ほう」
店長が目をまるくする。
「ちょっと齧っただけだよ」
「ピンチヒッターを任せられる程度の腕なら、たいしたものじゃないか」
眼帯の青年も驚いた様子で褒めてくれた。俺は照れくさくて頬を掻く。
「僕の店でピアノを弾いてほしいな」
「クラシックは苦手だ」
「ジャズは? 僕はサックスができるよ」
確かにサックスが似合いそうなルックスだとは思った。
「ジャズ……経験がないからな」
面白そうだと思ってしまった。仕事に慣れ過ぎて刺激が少なくなってきた頃合いだっただけに、店で提供するものとしてではないなら触らせてもらいたいなんて想像してしまう。
俺が惹かれていることを見抜いたのか、店長が俺の肩を抱いてそっと引き寄せる。
「獅子野くんを引き抜くつもりなら、この仕事は断らせていただくよ」
怒っている。いつもより声が低い。
眼帯の青年は両手を肩の位置までぱっと上げた。
「そういうつもりはないよ。怖い顔をしないでほしいな」
「怖い顔?」
店長がそう告げて、口元がニヤリと笑った。
「君の目にそう映っているなら、今後の言動には気をつけたまえ」
「肝に銘じておくよ」
彼は穏やかに笑って、ブラックコーヒーを飲み干して店を出て行った。
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