不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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音楽・不可思議カフェ百鬼夜行の業務“外”日誌・2

呪いのカセットテープ・後編

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「――それで、今日はなにを?」

 コーヒーを三つテーブルに並べると、店長は話を振った。

「見てほしいのはこれだ」

 店長が座席に腰を下ろすのを待って、眼帯の彼は持ってきていた鞄から小さな四角いケースを取り出した。
 カセットテープが入っている。新品ではなさそうだ。

「あいにくカセットデッキもラジカセもここにはないのだが」
「大丈夫。持ってきているよ」

 携帯用の再生装置も鞄から出てきた。用意がいい。

「それで、これが何か?」
「ライブを無断で録音した物のようなのだが、まあ聴いてほしい」
「それ、安全なのか?」

 カセットテープを再生装置に挟み込んでイヤホンを渡してきた彼に、俺は口を挟む。

「さて、どうだろう?」
「どうだろう、ってな……」

 カセットテープから嫌な気配を感じる。俺は怪異の端くれ、こういう異変を察知するのは得意な方である。
 俺が疑っているというのに、店長はニコニコしながらイヤホンを耳にはめて再生ボタンを押してしまった。

「って、おい!」
「……ふむ。良い歌声だね。演奏は素人の中では上手いようだ……ああ、なるほど」

 感想を挟みつつしばらく聞いていたが、店長はハッとした顔をして再生を停止させた。

「……ん?」

 店長が俺の顔を見る。なんでこっちを見たのだろう。しかも、途中で止めたような気がするし。
 俺が訝しがっていると、店長はさっと俺の耳にイヤホンを差し込み、巻き戻してから再生ボタンを押した。

「ちょ、待てって」

 慌ててイヤホンを外そうとした俺の手は店長に押さえられてしまって動かせない。
 曲が始まる。

「……ん?」

 俺は抵抗をやめて耳を傾ける。
 知っている曲だ。
 コピーバンドではないらしい。オリジナルソングは少し恥ずかしい歌詞だが、悪くない。
 いや、悪くないのだが。
 俺の顔は今、青いのだろうか。それとも赤いのだろうか。
 曲が終わると停止ボタンが押されて、音が消えた。店長がイヤホンを外してくれる。

「どこから出てきたんだよ、これ」

 俺の言葉に、二人がニヨニヨしている。

「その様子だと、どうせダビングしてあるんだろっ? オリジナルはどこにあったんだよ?」

 俺が強い口調で告げれば、眼帯の彼はカセットテープと再生装置を鞄にしまった。

「これがオリジナルだよ。せっかく素敵な歌だったから、デジタル化しておいた」
「どこから湧いてきたんだ? 隠し録りだよな?」
「隠し録りではないって僕は聞いたけどね」
「どういうことだ?」

 状況が掴めない。
 俺が尋ねると、眼帯の彼は首を傾げた。

「ああ、やっぱり知らなかったんだね。さっきの、デモテープ。ライブ音源のを、音楽レーベルに送るつもりだったのを断念したものだそうだ」
「え、あれ、本気だったのか」

 記憶が蘇る。俺が手を貸したバンドでの出来事。
 眼帯の彼は頷いた。

「結局送ることができなかったから、残ってしまった」
「じゃあ、あのときのリーダーあたりが持っていたやつか」
「ご明察。メジャーデビューを諦めたのは、彼の家族に不幸があったからだよ」
「まあ、ああ、そうだな。あのあとの話は聞いていなかったが、だいたい想像していたとおりだったんだな」

 俺が話をまとめて納得すると、ほどほどの温かさになったコーヒーをすする。苦くて美味しい。

「ふむ。ではこれは獅子野くんが手を貸していたバンドのものということだね」
「わざわざ言うな」

 噴き出すことはなかったが、ちょっと気まずい。

「――なんであんたが?」
「巡り巡って? ああ、いや。僕と君が話をしているところを見た人が、渡してほしいって店に持ってきたんだよ」
「なんで俺に」
「渡すように頼まれていたから、だそうだ」
「念がこもっていて、あまり受け取りたくねえんだけど……」

 正直なところ、あまりいい気配を持っているとは言えない。俺が拒否すると、眼帯の彼は声を立てて笑った。

「そういうだろうと思って、僕は片付けをしたのだけどね」
「ん……」
「おそらく、今聴いた音源のほかに、君に伝えたい何かが録音されているのだと思う」
「聴いてないのか?」
「僕からしたら、一曲聴くだけで充分だったからね」
「…………」

 俺は鞄に目を向ける。受け取るべきか、否か。
 逡巡して、俺は目を伏せた。

「俺は受け取らない。そっちで処分してほしい」
「そう。承知した」
「おや、いいのかい?」

 俺の決断に、店長が顔を覗き込んできた。

「直接聞こうと思えば本人に聞けるはずだし。縁が繋がったから、機会も得られるだろ」

 おそらく、カセットテープに入っているのは恨み言ではないのだろう。カセットテープに残された強い想いは、望む未来を得られなかったことによるものではありそうだが、本題はそこじゃない。

「ふふ、そうだね」

 俺の発言に、店長は納得してくれたようで彼もコーヒーを啜った。

「じゃあ、僕はこれでお暇するよ」

 眼帯の彼はにこやかに微笑んで、コーヒーを口にする。優雅に飲むと、立ち上がった。

「――メジャーデビュー、後押ししてあげればよかったんじゃないかな?」
「記念としてなにかは残せたかもしれねえけどよ、所詮はその程度だ」
「……ああ、そうか。君は――」

 何かを言いかけて、彼は首を小さく横に振った。

「そうだね。賢明な判断だ」

 少し寂しげに笑うと、眼帯の彼はそれっきりなにも言わずに店を出た。

「獅子野くん」
「ああ?」
「君は優しいと思うけれど、一方で残酷なこともしている自覚は持っているのだよね?」
「優しくはねえよ。俺は俺の力に、他人を巻き込みたくねえだけだ。責任は取れねえだろうがよ」

 俺が後押しをすれば、おそらくメジャーデビューは叶った。
 だが、俺はそうしなかった。俺はあのとき、仮に入っていただけのメンバーで、本来入るべき人間ではなかったから。

「僕も、賢明な判断だったと思うよ」
「慰めはいらねえよ」

 俺は空になったカップを片付けるのだった。


《終わり》
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