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七つの色は心を乱す

*10* 6月20日木曜日、放課後

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 加速と減速の緩やかな繰り返しが身体を揺する。こうはその感覚から自分が車に乗せられているらしいと理解する。

 ――じゃあ、ここは……。

 目を開けると抜折羅ばさらの横顔が見えて、紅は心底驚いた。肩を枕代わりに貸してくれていたらしいが、礼の言葉も浮かばないほどに慌てて反対側に逃げる。

「起きたか」

 ほっとしたような顔を向けてくる。気にかけてくれていたようだ。

「助けて……くれたの?」

 どうして抜折羅と二人でステーションワゴンの後部座席に乗っているのか、紅は思い出せない。ただ、白浪しらなみ遊輝ゆうきに襲われたときにフレイムブラッドの力で応戦し、その反動で気を失ったのだという流れはかろうじて記憶していた。

「お前もフレイムブラッドも〝無傷〟だ」

 預かってくれていたらしい。抜折羅は赤い石をポケットから取り出すと、紅に握らせた。
 途端にあの時の恐怖が蘇る。あのままだったら、自分はどうなっていたことか。視界が歪んで、紅は目をこする。

「ありがとう……怖かった」

 身体が震える。涙が止まらない。

「初めて礼を言われたぞ」

 使えと言いたげに差し出された白いハンカチはきちんとアイロンが掛かっていた。

「感謝の言葉を言う前にあんたが変なことをするからよ」

 ハンカチをありがたく借りて、紅は涙を拭う。

「――なんで助けてくれたの? あたしを囮にしたいだけなら、助ける必要はないじゃない。ホープの欠片は見つからなかったの?」
「馬鹿か、お前は」
「へ?」

 呆れたという気持ちが如実に現れた台詞に、紅はきょとんとしてしまう。同時にうっすらと怒りの気持ちが湧いた。
 そんな紅に抜折羅は続ける。

「俺は約束をしたはずだ。そばにいてくれるなら、守ると」
「でも、あたしは承知していないわ」
「勝手にしろと言ったのは嘘だったのか?」

 そう指摘されて、紅は彼が任務の延長として助けにきてくれたのだと理解した。

 ――でも、あたしに構っていたらいつまでもアメリカに帰れないんじゃ……。

「……ふぅん。律儀な人なんだ。これまでの狼藉は今回のことに免じて忘れてあげるわ」
「それはありがたいな」

 やれやれと言った気持ちが滲んでいる。彼にとっては充分な弱みだったようだ。

「とにかく、収穫なしで無駄足になっちゃったみたいね。ただ働きご苦労様」
「気長に取り組むつもりだから紅は気にするな。早く俺を追い返したいなら、協力を拒まないことだな」
「……ちょっとは考えてあげるわよ」

 顔は車の進行方向に合わせて告げる。ちらりと目を動かして抜折羅の表情を盗み見ると、彼はちょっぴり口元を綻ばせていた。

「是非とも前向きに検討してくれ」

 車は大通りをそれて住宅街に入る。見慣れた景色に、紅は彼が自宅まで運んでくれているのだと理解する。

 ――しかし、この車はタクシーじゃないのよね。抜折羅って何者なんだろう?

 彼のことをもっと知りたいという気持ちが湧いたことに、紅は戸惑ったのだった。
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