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翠玉の女王は微笑まない
*7* 9月4日水曜日、放課後
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その翌日の火曜日は机の落書きと体操着の盗難、水曜日はロッカーが壊されて廊下に中身が散乱していた。自転車と比べれば大した被害ではないが、嫌な気分がずっと続いている。犯人が絞り込めていないのも、紅《こう》の心を憂鬱にさせた。
「犯人は一人かも知れないが、実行犯は複数人のような気がするな」
ロッカーが壊された日の帰り道、抜折羅《ばさら》が紅に言う。
「どうでもいいわよ、事態が収束すれば」
ムスッとしたまま、紅は呟く。美術部に保管していたクロッキー帳が破られていて凹んでいるのだ。これまでひっそりと描きためていた宝石のデザイン画が失われてしまったことは、地味に効いていた。
「――守れていないことは詫びる。俺に何かできることがあるなら、言ってくれ」
責任を感じてくれているようだ。抜折羅の申し出に、紅は首を横に振る。
「抜折羅はいつも通りにしてくれていればそれでいい。あたしの身が無事なのは、抜折羅がついていてくれるからだと思うし」
抜折羅に謝って欲しいわけではない。彼には何の落ち度もないはずなのだから。
紅は彼を安心させるために微笑みを作る。
「そんな顔で笑うな。俺はお前には元気でいて欲しい。ルビーの宿す紅い炎は誰かに勇気を与えるものなんだから」
そばにいてくれるだけでも嬉しいし、心強い。それ以上のことをしようと努めてくれることが、暗く沈みそうな紅の心に光を送る。
「抜折羅、ありがとう」
感謝の気持ちは届いているだろうか。紅は精一杯微笑んだ。
「犯人は一人かも知れないが、実行犯は複数人のような気がするな」
ロッカーが壊された日の帰り道、抜折羅《ばさら》が紅に言う。
「どうでもいいわよ、事態が収束すれば」
ムスッとしたまま、紅は呟く。美術部に保管していたクロッキー帳が破られていて凹んでいるのだ。これまでひっそりと描きためていた宝石のデザイン画が失われてしまったことは、地味に効いていた。
「――守れていないことは詫びる。俺に何かできることがあるなら、言ってくれ」
責任を感じてくれているようだ。抜折羅の申し出に、紅は首を横に振る。
「抜折羅はいつも通りにしてくれていればそれでいい。あたしの身が無事なのは、抜折羅がついていてくれるからだと思うし」
抜折羅に謝って欲しいわけではない。彼には何の落ち度もないはずなのだから。
紅は彼を安心させるために微笑みを作る。
「そんな顔で笑うな。俺はお前には元気でいて欲しい。ルビーの宿す紅い炎は誰かに勇気を与えるものなんだから」
そばにいてくれるだけでも嬉しいし、心強い。それ以上のことをしようと努めてくれることが、暗く沈みそうな紅の心に光を送る。
「抜折羅、ありがとう」
感謝の気持ちは届いているだろうか。紅は精一杯微笑んだ。
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