宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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その炎は血よりも紅く

*2* 9月6日金曜日、夕方

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 夕方、紅《こう》の部屋。陽が陰ってきたなと紅が思っていると、ドアがノックされた。

「紅、蒼衣《あおい》君が見舞いに来てくれたわよ」

 母の声に、ムクリと上体を起こす。

「紅、入ってもいいですか?」
「……どうぞ」

 元気よく返事などできない。絞り出すように出た声は、ドアの向こうにも届いたようだ。ドアがゆっくりと開き、蒼衣だけが中に入る。

「気分はどうですか?」

 彼をチラッと見て、紅は顔を俯かせる。

「――私も怖いですか?」

 蒼衣は近付いて来なかった。閉めたドアに背をつけるようにして立ち止まり、蒼衣が問う。その様子に、紅は彼が家族から話を聞いているのだろうと想像した。

「まぁ、私も一度、貴女《あなた》を押し倒していますから、避けられても仕方がないことだとは思いますが」

 紅は蒼衣をそっと見上げる。あれはあれで怖かったのだが、今とは関係がない――そう話したかったが、台詞が出ない。

「条《じょう》さんや蓮《れん》君からも話は伺っています。男性が怖く見えるのも仕方はないことですよ。落ち着くまでゆっくり休んで下さい」

 寂しげに笑む蒼衣。

「私は帰りますね。長月《ながつき》さんや海宝《かいほう》さんと話をしていたほうが、気も紛れるでしょう。でも、何か力になれることがあるなら、気兼ねなくお呼び下さい」

 言って彼は背を向ける。

「……待って、蒼衣兄様」

 紅のか細い声に、蒼衣は振り向く。

「白浪《しらなみ》先輩や抜折羅《ばさら》はどうしているの? 大丈夫なの?」

 蒼衣が彼らの話題を振らなかったのは意図的なのだろう。そう思ったからこそ気になった。連絡しても返事がないのだ。
 蒼衣は苦笑して口を開く。

「白浪は自宅謹慎中ですよ。文化祭が終わるまでは外に出られないみたいですね。怪我も大したことはないと聞いています。金剛《こんごう》は学校に来ていましたけど、少し元気がない様子でしたね。あのあと、何かありましたか?」

 昨日、家までは蒼衣が送ってくれた。泣きっぱなしでどうにもできず、慰めてくれる蒼衣にずっとしがみついていたからだ。
 だから、抜折羅と話はしていない。遊輝《ゆうき》とも会話はできなかった。

「電話、出てくれないの。白浪先輩も。あたし、謝りたいのに。お礼も言いたいのに」

 思い出したせいか、たかぶった感情が視界を涙で歪ませる。

「あたしのせいでしょ? どうしたら彼らに報いることができるんだろう。申し訳なくて――でも、男の人が怖くてしかたなくて、頭の中がぐちゃぐちゃしちゃって、身動き取れない……。何でこんなことになってしまったのよ……」
「紅、貴女が責任を感じることはありませんよ。不幸な事件だっただけ。犯人たちを憎むのは自然な反応だとは思いますが、他の誰かまでが悪いわけじゃない。たまたま、運が悪くてこの事態に辿り着いてしまったのです。自分を責めないでください」
「責めずにはいられないわよっ!」
「それで何か変わるのですか!?」

 ビクッとさせる。蒼衣は紅に顔を近付ける。覗き込む瞳にはサファイアの炎が揺れる。

「貴女が責めるべき相手は事件を起こした犯人たちであり、彼らを突き動かしてしまった私や白浪でしょう? 貴女は被害者だ。誰も貴女を非難しない。いたとしても、耳を貸す必要などない。彼らは外から面白半分で言っているだけの無関係で無責任な人間なんですから」
「蒼衣兄様……」
「そんな顔をしないで、紅。私には貴女の笑顔を取り戻すことができないのでしょうか?」

 そっと頬に触れる指先。紅の身体が強張《こわば》る。流れる涙を細く長い指で拭う。

「これで失礼します。私もまだ、気持ちの整理が追いついていないようだ」

 悲しげな顔をして蒼衣は離れる。

「二人には私からも連絡しておきますよ。紅が心配しているから、電話くらい出てやれと伝えましょう」
「うん……今日はわざわざありがとう」
「いえ。顔を見て話せて良かったです。無理をしないように」
「うん。大丈夫、蒼衣兄様」

 うまく笑顔は作れただろうか。蒼衣は去っていった。
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