宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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その炎は血よりも紅く

*6* 9月7日土曜日、昼

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 九月七日土曜日。今日、明日は宝杖《ほうじょう》学院の学園祭――通称、青玉祭が開催される。天気は快晴。空はサファイアブルー一色で、さぞかし来場者は集まることだろう。
 紅《こう》は学校に行かなかった。事件から日は浅く、せっかくの学園祭に混乱を招くようなことはしたくない。この日のために準備や調整をしてきた蒼衣《あおい》に悪いと思ったのもある。色々と残念だが仕方がない。

「――付き合わせてしまったみたいだな」

 成田空港からの帰りの車中、隣に座る抜折羅《ばさら》が言う。モスクワに向かうという沙織《さおり》を見送ってきたところだ。

「あたしが行きたかったんだから、気にしないで。むしろ、車を出してくれてありがとう」
「……それはそうと、だな。手を繋いでいる必要性について、俺は議論したいのだが」

 紅が握っている彼の左手が、居心地悪そうに動く。

「フレイムブラッドの力を渡すのに必要な行為でしょうが。星章《せいしょう》先輩からホープが弱っていることは聞いているんだからね。移動時間を利用してできることなんだから構わないでしょ?」
「それは、確かにそうなんだが……」

 言いよどむ抜折羅に、紅はある可能性に気付いて睨《にら》む。

「それとも、何? あたしとキスしたいわけっ!?」
「何故喧嘩腰でそういうことを言うんだ? そんなに俺のことが嫌いか!?」
「嫌いだったら、触れたいとも思わないわよっ!」
「そりゃどうも。出会ったときより関係が好転しているようで何よりだな」

 ――くう~っ!

 どうしてか、悔しい。抜折羅にとって自分の価値はエネルギータンクでしかないのだろうかと紅は悩む。守られてばかりの状況をどうにかしたくて、ならばと魔性石の力を渡すことを思いついたというのに。
 しばらく黙っていたが、不意に抜折羅が口を開いた。

「このあと白浪《しらなみ》先輩の様子を見に行こうと思うんだが、紅も来るか?」
「本当にあんた達は仲が良いのね」
「そこはヤキモチを焼くところなのか?」
「知らないわよ。イラッとしただけ」
「ずいぶんとご機嫌斜めだな。無理して供給してくれる必要もないんだぞ?」
「……」

 紅は台詞で返すことはせず、ただぎゅっと抜折羅の手を握った。

「……気が済むまで好きにしろよ。握手程度じゃ、全快まで半日以上かかるだろうしな」

 面倒くさそうに言う。交渉を諦めたようだ。

「――で、さっきの質問だ。白浪先輩のところに行かないなら、火群《ほむら》の家まで送る。寄っていくかどうか答えろ」
「一緒に行くわ。見舞いの約束もしてるし。抜折羅がいてくれれば、先輩も行き過ぎたスキンシップは自重するでしょ」
「……紅は白浪先輩とどういう関係なんだ?」

 抜折羅の目が点になっている。どちらかというと表情の変化が乏《とぼ》しい彼であるが、今は退《ひ》かれているのがありありとわかった。

「へ、変な聞き方しないでくれるっ!? むしろ、あたしも知りたいわよっ!!」
「じゃあ、どうなりたいんだ?」

 真面目な顔だ。この質問は雑談ではなく、ちゃんと意図がある。

「どういう意味?」
「俺には、お前が先輩とじゃれあっているように映っている。正直、反応に困るのだが、どうして欲しい?」
「どうして欲しいかって……」

 彼の問いを繰り返してみるが、よくわからない。

「変な質問であることは承知の上で訊くが、その……紅が白浪先輩のことが好きならば、俺は邪魔はしたくない。嫌いじゃないことはわかるんだが、どうなんだ?」

 あまりにも真剣な顔で抜折羅が真っ直ぐ見つめてくるので、紅は適当な言い訳が浮かばない。逃げずに正直に答えようと思った。顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのだが、仕方がない。

「好みという意味なら、顔は好き。あたしの理想は間違いなく白浪先輩でしょう」
「お、おう」

 そう答えると思っていなかったのだろうか。抜折羅は唸《うな》る。

「ただし、内面は別よ?」
「……」

 ――その沈黙は、あたし、どう解釈したらいい?

「……総合的にみて、どうなんだ?」
「抜折羅の判断に任せるわよ」
「む……紅のそういう面は理解し難い……他は概《おおむ》ね意思の疎通ができているように思っていたんだが……」

 本気で頭を抱えているように見える。大真面目に考えて、でも答えが見えないから質問をしてきたのだろうか。彼の勇気の使いどころが紅には理解できない。

 ――ったく、どこに気を遣っているのかしらね?

「わかり合えなくても当然でしょ? あたしたちは別の人間なんだから。――これは良い意味で取ってよ。今まで別の人生を歩んできたからこそ発見できたことなんだもの。楽しいことだわ」
「紅のその前向きさは見習いたいところだ」

 抜折羅は笑う。他の人がするみたいな笑顔ではないのだけど、すごく楽しそうに紅の目には映った。
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