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【第2部】石の中に水の精霊を
*1* 9月13日金曜日、朝
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九月十三日金曜日。今日は五ヶ月前に急逝した紅の祖母、火群千晶の月命日だ。
紅は学校に向かう前に、彼女の写真が飾られた仏壇の前で手を合わせる。
『紅、話があります』
祖母に似たその声に、一瞬戸惑う。だが、紅は声の主が先日の出来事によって右肩に埋まることになったスタールビーの原石――フレイムブラッドであると気付いた。
「何? フレイムブラッド」
部屋には紅しかいない。他の家族はダイニングで朝食中のはずだ。自転車で三十分以上の時間をかけて登校する紅は、家族の誰よりも早く朝食を切り上げて家を出る必要があるのだ。
『〝クリスタルマスター〟出水千晶からの伝言を賜っております』
〝出水〟は祖母の旧姓だ。占い師をしていた彼女は、旧姓で仕事をすることが多かった。占い師としての彼女を知る人は、大抵〝出水〟の姓で呼ぶ。フレイムブラッド自身も千晶と深い関わりがあった石だからか、旧姓で呼んでいたようだ。
「今頃それを、あたしに伝えるの?」
石の声が聞こえる〝タリスマントーカー〟になったのは三ヶ月ほど前のことである。それからはほとんど片時もフレイムブラッドとは離れていない。今や肩に食い込むように埋まっているため、本当に離れることもなくなったが。
――話す時間はたっぷりあったはずなのに、今更どうして?
紅の疑問にフレイムブラッドは穏やかな声で答えた。
『〝石憑き〟となって安定したことが認められたときに改めて伝えるよう、申し遣っていたのです。ワタシの力を十全に引き出せるようになった今、やっと行えることですので』
「あたしにお使いを頼みたいってことかしら?」
こうなった今だからこそできること――つまりはフレイムブラッドの力を借りないと解決できない用件だということに違いない。
フレイムブラッドは答える。
『はい。――あなたに与えられた仕事は、宝杖学院内にある魔性石〝氷雪の精霊〟の浄化。出水千晶コレクションの一つなのですが、定期的に浄化を行う必要がある特殊な魔性石でして、彼女亡き今、その役割を果たす人がおりません。その役目を、出水千晶の孫として継承して欲しいのです』
当然のことだと言うような調子でフレイムブラッドはあっさりと説明してくれたが、紅には自信がない。とりわけ、一人で行動するのは怖さがある。
「あたしにできるのかしら? それに、宝杖学院内にあるだなんて、とてもざっくりとした話ね。管理者はいないの?」
『〝氷雪の精霊〟は宝杖学院の守護を任された石。悪しき心を持つ者に見破られぬよう、厳重に隠蔽処理が行われていると聞いております。――まずは紅、あなたが管理者として相応しいことを証明するために〝氷雪の精霊〟を見つけ出すところから始めて欲しいとのことでした。ワタシに与えられた情報は以上です』
「具体的な隠し場所や何の宝石であるのかってことはノーヒントってことね」
言われた情報から考えるに、試練を兼ねているように感じられる。ただ〝氷雪の精霊〟を浄化すれば良いというわけではなさそうだ。
引き受けるにしても、どう攻めたらよいものか――紅が考え込んだところで、フレイムブラッドが補足する。
『信用できる人物であれば、人を頼るのは良いとのことでした』
「ふぅん……一人でやることが条件じゃないのは有り難いわね」
てっきり一人でやるものだと思い込んでいたので、フレイムブラッドの補足は紅の気持ちを前向きにさせる。頼れそうな人物が身近にいるのは心強い。
『タイムリミットは十月十三日です。時間に猶予はありませんので、お気を付けを』
「それを超えたらどうなるの?」
『宝杖学院に災いがもたらされることでしょう』
具体性には欠けるのだが、紅は頬をひきつらせた。魔性石の呪いの恐ろしさについては、この数ヶ月である程度の知識として身につけている。その呪いの解除を目指して奔走している人物を知っているだけに、ほうっておくわけにはいかないことなのだろうと理解した。
「わかったわ。あたしなりに頑張ってみる」
紅は千晶の写真を見ながら、誓いを立てた。
紅は学校に向かう前に、彼女の写真が飾られた仏壇の前で手を合わせる。
『紅、話があります』
祖母に似たその声に、一瞬戸惑う。だが、紅は声の主が先日の出来事によって右肩に埋まることになったスタールビーの原石――フレイムブラッドであると気付いた。
「何? フレイムブラッド」
部屋には紅しかいない。他の家族はダイニングで朝食中のはずだ。自転車で三十分以上の時間をかけて登校する紅は、家族の誰よりも早く朝食を切り上げて家を出る必要があるのだ。
『〝クリスタルマスター〟出水千晶からの伝言を賜っております』
〝出水〟は祖母の旧姓だ。占い師をしていた彼女は、旧姓で仕事をすることが多かった。占い師としての彼女を知る人は、大抵〝出水〟の姓で呼ぶ。フレイムブラッド自身も千晶と深い関わりがあった石だからか、旧姓で呼んでいたようだ。
「今頃それを、あたしに伝えるの?」
石の声が聞こえる〝タリスマントーカー〟になったのは三ヶ月ほど前のことである。それからはほとんど片時もフレイムブラッドとは離れていない。今や肩に食い込むように埋まっているため、本当に離れることもなくなったが。
――話す時間はたっぷりあったはずなのに、今更どうして?
紅の疑問にフレイムブラッドは穏やかな声で答えた。
『〝石憑き〟となって安定したことが認められたときに改めて伝えるよう、申し遣っていたのです。ワタシの力を十全に引き出せるようになった今、やっと行えることですので』
「あたしにお使いを頼みたいってことかしら?」
こうなった今だからこそできること――つまりはフレイムブラッドの力を借りないと解決できない用件だということに違いない。
フレイムブラッドは答える。
『はい。――あなたに与えられた仕事は、宝杖学院内にある魔性石〝氷雪の精霊〟の浄化。出水千晶コレクションの一つなのですが、定期的に浄化を行う必要がある特殊な魔性石でして、彼女亡き今、その役割を果たす人がおりません。その役目を、出水千晶の孫として継承して欲しいのです』
当然のことだと言うような調子でフレイムブラッドはあっさりと説明してくれたが、紅には自信がない。とりわけ、一人で行動するのは怖さがある。
「あたしにできるのかしら? それに、宝杖学院内にあるだなんて、とてもざっくりとした話ね。管理者はいないの?」
『〝氷雪の精霊〟は宝杖学院の守護を任された石。悪しき心を持つ者に見破られぬよう、厳重に隠蔽処理が行われていると聞いております。――まずは紅、あなたが管理者として相応しいことを証明するために〝氷雪の精霊〟を見つけ出すところから始めて欲しいとのことでした。ワタシに与えられた情報は以上です』
「具体的な隠し場所や何の宝石であるのかってことはノーヒントってことね」
言われた情報から考えるに、試練を兼ねているように感じられる。ただ〝氷雪の精霊〟を浄化すれば良いというわけではなさそうだ。
引き受けるにしても、どう攻めたらよいものか――紅が考え込んだところで、フレイムブラッドが補足する。
『信用できる人物であれば、人を頼るのは良いとのことでした』
「ふぅん……一人でやることが条件じゃないのは有り難いわね」
てっきり一人でやるものだと思い込んでいたので、フレイムブラッドの補足は紅の気持ちを前向きにさせる。頼れそうな人物が身近にいるのは心強い。
『タイムリミットは十月十三日です。時間に猶予はありませんので、お気を付けを』
「それを超えたらどうなるの?」
『宝杖学院に災いがもたらされることでしょう』
具体性には欠けるのだが、紅は頬をひきつらせた。魔性石の呪いの恐ろしさについては、この数ヶ月である程度の知識として身につけている。その呪いの解除を目指して奔走している人物を知っているだけに、ほうっておくわけにはいかないことなのだろうと理解した。
「わかったわ。あたしなりに頑張ってみる」
紅は千晶の写真を見ながら、誓いを立てた。
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