宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

文字の大きさ
71 / 309
【第2部】石の中に水の精霊を

*1* 9月13日金曜日、朝

しおりを挟む
 九月十三日金曜日。今日は五ヶ月前に急逝した紅の祖母、火群ほむら千晶ちあきの月命日だ。
 こうは学校に向かう前に、彼女の写真が飾られた仏壇の前で手を合わせる。

『紅、話があります』

 祖母に似たその声に、一瞬戸惑う。だが、紅は声の主が先日の出来事によって右肩に埋まることになったスタールビーの原石――フレイムブラッドであると気付いた。

「何? フレイムブラッド」

 部屋には紅しかいない。他の家族はダイニングで朝食中のはずだ。自転車で三十分以上の時間をかけて登校する紅は、家族の誰よりも早く朝食を切り上げて家を出る必要があるのだ。

『〝クリスタルマスター〟出水いずみ千晶からの伝言をたまわっております』

 〝出水〟は祖母の旧姓だ。占い師をしていた彼女は、旧姓で仕事をすることが多かった。占い師としての彼女を知る人は、大抵〝出水〟の姓で呼ぶ。フレイムブラッド自身も千晶と深い関わりがあった石だからか、旧姓で呼んでいたようだ。

「今頃それを、あたしに伝えるの?」

 石の声が聞こえる〝タリスマントーカー〟になったのは三ヶ月ほど前のことである。それからはほとんど片時もフレイムブラッドとは離れていない。今や肩に食い込むように埋まっているため、本当に離れることもなくなったが。

 ――話す時間はたっぷりあったはずなのに、今更どうして?

 紅の疑問にフレイムブラッドは穏やかな声で答えた。

『〝石憑いしつき〟となって安定したことが認められたときに改めて伝えるよう、申しつかっていたのです。ワタシの力を十全じゅうぜんに引き出せるようになった今、やっと行えることですので』
「あたしにお使いを頼みたいってことかしら?」

 こうなった今だからこそできること――つまりはフレイムブラッドの力を借りないと解決できない用件だということに違いない。
 フレイムブラッドは答える。

『はい。――あなたに与えられた仕事は、宝杖ほうじょう学院内にある魔性石〝氷雪の精霊〟の浄化。出水千晶コレクションの一つなのですが、定期的に浄化を行う必要がある特殊な魔性石でして、彼女亡き今、その役割を果たす人がおりません。その役目を、出水千晶の孫として継承して欲しいのです』

 当然のことだと言うような調子でフレイムブラッドはあっさりと説明してくれたが、紅には自信がない。とりわけ、一人で行動するのは怖さがある。

「あたしにできるのかしら? それに、宝杖学院内にあるだなんて、とてもざっくりとした話ね。管理者はいないの?」
『〝氷雪の精霊〟は宝杖学院の守護を任された石。悪しき心を持つ者に見破られぬよう、厳重に隠蔽いんぺい処理が行われていると聞いております。――まずは紅、あなたが管理者として相応ふさわしいことを証明するために〝氷雪の精霊〟を見つけ出すところから始めて欲しいとのことでした。ワタシに与えられた情報は以上です』
「具体的な隠し場所や何の宝石であるのかってことはノーヒントってことね」

 言われた情報から考えるに、試練を兼ねているように感じられる。ただ〝氷雪の精霊〟を浄化すれば良いというわけではなさそうだ。
 引き受けるにしても、どう攻めたらよいものか――紅が考え込んだところで、フレイムブラッドが補足する。

『信用できる人物であれば、人を頼るのは良いとのことでした』
「ふぅん……一人でやることが条件じゃないのは有り難いわね」

 てっきり一人でやるものだと思い込んでいたので、フレイムブラッドの補足は紅の気持ちを前向きにさせる。頼れそうな人物が身近にいるのは心強い。

『タイムリミットは十月十三日です。時間に猶予はありませんので、お気を付けを』
「それを超えたらどうなるの?」
『宝杖学院に災いがもたらされることでしょう』

 具体性には欠けるのだが、紅は頬をひきつらせた。魔性石の呪いの恐ろしさについては、この数ヶ月である程度の知識として身につけている。その呪いの解除を目指して奔走ほんそうしている人物を知っているだけに、ほうっておくわけにはいかないことなのだろうと理解した。

「わかったわ。あたしなりに頑張ってみる」

 紅は千晶の写真を見ながら、誓いを立てた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。 飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...