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【第2部】石の中に水の精霊を
*3* 9月13日金曜日、昼休み
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「――で、紅ちゃんは金剛くんとは付き合わないん?」
「ぐふっ……いきなり話をぶっ飛ばさないでくれるかしら?」
真珠の唐突な問いに、紅はむせながらも問いで返す。
「気持ちを確かめていないのですの?」
光がのほほんとした口調で問うてくる。この手の話題には疎いはずだが、幼なじみでもある紅の恋愛ごととなれば興味が湧くようだ。真珠に便乗することが多くなったことに、紅は頭痛を感じずにはいられない。
「彼とはそういう仲じゃないから」
紅はきっぱりと答えて、ナプキンで口元を拭った。
金剛抜折羅は六月という中途半端な時季にやってきた転校生。そしてタリスマントーカーを支援、あるいは管理をしている組織タリスマンオーダー社の社員である。彼自身も青いダイヤモンド〝ホープ〟のタリスマントーカーだ。紅は公私ともに彼と付き合いはあるが、恋愛感情の有無は今ひとつはっきりしていない。
――近いうちにアメリカに帰っちゃうわけだし、あたしに構う理由ももうないものね……。
抜折羅は世界に散らばっている魔性石〝ホープ〟の欠片を求めてアメリカから日本にやってきた。紅はその欠片を集めるのに協力していたのだ。だがつい先日、彼は目的を達成したため、タリスマンオーダー社のあるアメリカに戻ることになっている。そのあとも付き合いが続くかどうかは正直わからなかった。
自然と漏れるため息。
そんな様子の紅を見て、光と真珠はお互いに顔を見合わせた。光は困ったという顔をし、真珠は苦笑を浮かべている。
先に紅に視線を戻したのは光だった。
「気持ちは伝えた方がよいですわよ? もやもやするくらいなら、ぶつかってゆくのが紅ちゃんだと思うのですが」
「そうそう。らしゅうない。完全に恋する乙女の顔をしているのに、うちらをごまかせると思うん?」
「いいのよ、これで。あたしたちにはあたしたちの事情があるの、そっとしておいてくれないかしら?」
今の抜折羅は恋愛事など二の次だろう。彼にはやらねばならないことがあり、そのためには恋人を作る余裕などない。それを理解できてしまう程度には親しくなっていることに紅は気付き、その上で胸が痛むのを感じ取る。
「せやけど、このままじゃ星章先輩に嫁がなあかんことになるんとちゃうん? 後悔せんの?」
さすがは校内一の情報通とも言われるだけはある。真珠の指摘に、紅は憂鬱の種を思い出す。
「その話はしないで。家族協議中だから」
星章蒼衣は宝杖学院高等部の生徒会長である。そして家族ぐるみで付き合いのある星章家の長男だ。色々あって親同士の取り決めにより婚約者にされている。公に発表されるのは彼の誕生日である今月二十九日だが、すでに噂は広まりつつあるようだ。
そこでスマートフォンに着信があった。メールらしい。紅は手に取って確認する。
〝今日は美術室に来る?〟
紅はすぐには返事を書かず、テーブルにスマートフォンを置く。
「噂をすれば影が立つ?」
ニヤニヤしながら問うてくる真珠に、紅は小さく肩を竦める。
「残念ね。抜折羅でも星章先輩でもないわ」
「あらあら。話題にしなかった白浪先輩からですのね」
「光……そういうところに第六感を発揮しないでくれる?」
これでは肯定しているようなものだが、時々発揮される光の鋭さは侮れない。
「そういえば、自宅謹慎は昨日で終わりやったな。今日はまだ見掛けてへんけど、芸術棟に籠もってるんか?」
「そのまま向こうにいてくれればあたしには有り難いわね」
白浪遊輝は宝杖学院高等部の生徒会副会長を務めている。美術科の生徒であり、本人はプロの絵描きだ。紅を絵のモデルにするためにずっと口説いてきている。先週の校内暴行事件により自宅謹慎処分を受けていたのだが、今日から復帰するとの話だ。
「メール、返さんでええの?」
「大した用件じゃないからほっといても平気。できれば関わりたくないところなんだけど……」
――でも、訊いてみる価値はあるかしら?
紅はふと思う。
遊輝もタリスマントーカーだ。紅や抜折羅が魔性石の浄化を得意とする能力者であるのに対し、彼は魔性石の探知に長けた能力者である。遊輝に訊いてみれば、〝氷雪の精霊〟について少しは情報を得られるかもしれない。
――何を要求されるかわかったもんじゃないけど、一人で行かなければ良いのよね。魔性石の浄化となれば、抜折羅にも助言をもらいたいし。
「学年トップの人気を誇る三人に囲まれとるっちゅう宝杖学院の全女子が憧れる状況でその反応ね」
「冗談。面倒なだけよ」
真珠のツッコミに紅は溜め息混じりに肩を竦める。
「金剛くんを彼氏にしてしまえばええやん。そしたら、ややこしい事態も収拾がつくんとちゃうん?」
「そういう問題じゃないわよ。――って、いつの間に抜折羅、学年一番人気にまで上り詰めていたのよ……」
ダイヤモンドのように妙に人を惹き付ける人間だとは思っていたが、そこまでいくとは正直予想していなかった。
「白浪先輩ぐらいの美形も星章先輩レベルの秀才も一年生にはおらんかったから、中途半端な時季の優秀な帰国子女は希少価値が高いんやない?」
「うーむ……」
色々と納得しかねる部分は多いのだが、宝杖学院内の反応はそういうことなのだろう。
「生徒会選挙までふた月ありませんもの。誰がメンバーになるのかも含めて盛り上がっているのですわ」
「せやな。現在のロイヤルブルー体制を上回る華やかさはそうそう出ないやろうってみんな思うとるみたいやけどな」
現在の生徒会は星章蒼衣、白浪遊輝、青空瑠璃、藍染海の四人で構成されている。それぞれ生徒会に選出される以前から人気者であり、メンバーの名前からロイヤルブルーの愛称で親しまれていた。庶務を担当していた五人目もいたそうだが、現在は空席だ。次回の選挙ではその枠も埋まるのだろう。事実上、生徒会選挙は宝杖学院の人気投票になっており、イベントとしても注目度が高い。
「あー、もうそんな時期なのね」
「他人事みたいな顔しとるけど、紅ちゃん、あんたの名前も挙がっておるんよ? 会長に白浪先輩、副会長に金剛くん、会計に宮古澤先輩、書記に翠川さん、庶務に紅ちゃんってのがもっぱらの噂なんやで?」
「白浪先輩は会長にはならないわよ」
「女房役の宮古澤先輩がおったら回せるって」
宮古澤彩は紅が美術部で世話になっている先輩だ。遊輝とは中等部からの付き合いで、自由に振る舞う彼をうまく操縦している。女装が似合うくらいに可愛い外見の遊輝と宝塚の男役ができそうな外見の彩が一緒にいる様子は、性別を超えた華やかさがあった。
「本人はやりたがらないんじゃないかしら」
「せやから、紅ちゃんを入れて釣っておくんよ」
「餌にしないで」
紅は苦笑いを浮かべる。
――気になるのは翠川皐月よね。やっぱり人気あるんだ。
翠川皐月は一年B組の生徒で、ツインテールがトレードマークの背が低い少女だ。本人は星章蒼衣の公式ファンクラブに所属しているが、彼女自身にも非公式ながらファンクラブが存在する。人形のような可愛らしい外見と気の強そうな振る舞いが見る人にとっては魅力的に映るらしい。
「生徒会選挙は自推他推のどちらもありですわ。巻き込まれる覚悟は決めておいた方がよろしいのではありませんの?」
「光……忠告ありがとう。そういう未来が訪れないことを切に願っておくわ」
そこで昼休みが終了し五限の準備を促す予鈴が鳴った。
「ぐふっ……いきなり話をぶっ飛ばさないでくれるかしら?」
真珠の唐突な問いに、紅はむせながらも問いで返す。
「気持ちを確かめていないのですの?」
光がのほほんとした口調で問うてくる。この手の話題には疎いはずだが、幼なじみでもある紅の恋愛ごととなれば興味が湧くようだ。真珠に便乗することが多くなったことに、紅は頭痛を感じずにはいられない。
「彼とはそういう仲じゃないから」
紅はきっぱりと答えて、ナプキンで口元を拭った。
金剛抜折羅は六月という中途半端な時季にやってきた転校生。そしてタリスマントーカーを支援、あるいは管理をしている組織タリスマンオーダー社の社員である。彼自身も青いダイヤモンド〝ホープ〟のタリスマントーカーだ。紅は公私ともに彼と付き合いはあるが、恋愛感情の有無は今ひとつはっきりしていない。
――近いうちにアメリカに帰っちゃうわけだし、あたしに構う理由ももうないものね……。
抜折羅は世界に散らばっている魔性石〝ホープ〟の欠片を求めてアメリカから日本にやってきた。紅はその欠片を集めるのに協力していたのだ。だがつい先日、彼は目的を達成したため、タリスマンオーダー社のあるアメリカに戻ることになっている。そのあとも付き合いが続くかどうかは正直わからなかった。
自然と漏れるため息。
そんな様子の紅を見て、光と真珠はお互いに顔を見合わせた。光は困ったという顔をし、真珠は苦笑を浮かべている。
先に紅に視線を戻したのは光だった。
「気持ちは伝えた方がよいですわよ? もやもやするくらいなら、ぶつかってゆくのが紅ちゃんだと思うのですが」
「そうそう。らしゅうない。完全に恋する乙女の顔をしているのに、うちらをごまかせると思うん?」
「いいのよ、これで。あたしたちにはあたしたちの事情があるの、そっとしておいてくれないかしら?」
今の抜折羅は恋愛事など二の次だろう。彼にはやらねばならないことがあり、そのためには恋人を作る余裕などない。それを理解できてしまう程度には親しくなっていることに紅は気付き、その上で胸が痛むのを感じ取る。
「せやけど、このままじゃ星章先輩に嫁がなあかんことになるんとちゃうん? 後悔せんの?」
さすがは校内一の情報通とも言われるだけはある。真珠の指摘に、紅は憂鬱の種を思い出す。
「その話はしないで。家族協議中だから」
星章蒼衣は宝杖学院高等部の生徒会長である。そして家族ぐるみで付き合いのある星章家の長男だ。色々あって親同士の取り決めにより婚約者にされている。公に発表されるのは彼の誕生日である今月二十九日だが、すでに噂は広まりつつあるようだ。
そこでスマートフォンに着信があった。メールらしい。紅は手に取って確認する。
〝今日は美術室に来る?〟
紅はすぐには返事を書かず、テーブルにスマートフォンを置く。
「噂をすれば影が立つ?」
ニヤニヤしながら問うてくる真珠に、紅は小さく肩を竦める。
「残念ね。抜折羅でも星章先輩でもないわ」
「あらあら。話題にしなかった白浪先輩からですのね」
「光……そういうところに第六感を発揮しないでくれる?」
これでは肯定しているようなものだが、時々発揮される光の鋭さは侮れない。
「そういえば、自宅謹慎は昨日で終わりやったな。今日はまだ見掛けてへんけど、芸術棟に籠もってるんか?」
「そのまま向こうにいてくれればあたしには有り難いわね」
白浪遊輝は宝杖学院高等部の生徒会副会長を務めている。美術科の生徒であり、本人はプロの絵描きだ。紅を絵のモデルにするためにずっと口説いてきている。先週の校内暴行事件により自宅謹慎処分を受けていたのだが、今日から復帰するとの話だ。
「メール、返さんでええの?」
「大した用件じゃないからほっといても平気。できれば関わりたくないところなんだけど……」
――でも、訊いてみる価値はあるかしら?
紅はふと思う。
遊輝もタリスマントーカーだ。紅や抜折羅が魔性石の浄化を得意とする能力者であるのに対し、彼は魔性石の探知に長けた能力者である。遊輝に訊いてみれば、〝氷雪の精霊〟について少しは情報を得られるかもしれない。
――何を要求されるかわかったもんじゃないけど、一人で行かなければ良いのよね。魔性石の浄化となれば、抜折羅にも助言をもらいたいし。
「学年トップの人気を誇る三人に囲まれとるっちゅう宝杖学院の全女子が憧れる状況でその反応ね」
「冗談。面倒なだけよ」
真珠のツッコミに紅は溜め息混じりに肩を竦める。
「金剛くんを彼氏にしてしまえばええやん。そしたら、ややこしい事態も収拾がつくんとちゃうん?」
「そういう問題じゃないわよ。――って、いつの間に抜折羅、学年一番人気にまで上り詰めていたのよ……」
ダイヤモンドのように妙に人を惹き付ける人間だとは思っていたが、そこまでいくとは正直予想していなかった。
「白浪先輩ぐらいの美形も星章先輩レベルの秀才も一年生にはおらんかったから、中途半端な時季の優秀な帰国子女は希少価値が高いんやない?」
「うーむ……」
色々と納得しかねる部分は多いのだが、宝杖学院内の反応はそういうことなのだろう。
「生徒会選挙までふた月ありませんもの。誰がメンバーになるのかも含めて盛り上がっているのですわ」
「せやな。現在のロイヤルブルー体制を上回る華やかさはそうそう出ないやろうってみんな思うとるみたいやけどな」
現在の生徒会は星章蒼衣、白浪遊輝、青空瑠璃、藍染海の四人で構成されている。それぞれ生徒会に選出される以前から人気者であり、メンバーの名前からロイヤルブルーの愛称で親しまれていた。庶務を担当していた五人目もいたそうだが、現在は空席だ。次回の選挙ではその枠も埋まるのだろう。事実上、生徒会選挙は宝杖学院の人気投票になっており、イベントとしても注目度が高い。
「あー、もうそんな時期なのね」
「他人事みたいな顔しとるけど、紅ちゃん、あんたの名前も挙がっておるんよ? 会長に白浪先輩、副会長に金剛くん、会計に宮古澤先輩、書記に翠川さん、庶務に紅ちゃんってのがもっぱらの噂なんやで?」
「白浪先輩は会長にはならないわよ」
「女房役の宮古澤先輩がおったら回せるって」
宮古澤彩は紅が美術部で世話になっている先輩だ。遊輝とは中等部からの付き合いで、自由に振る舞う彼をうまく操縦している。女装が似合うくらいに可愛い外見の遊輝と宝塚の男役ができそうな外見の彩が一緒にいる様子は、性別を超えた華やかさがあった。
「本人はやりたがらないんじゃないかしら」
「せやから、紅ちゃんを入れて釣っておくんよ」
「餌にしないで」
紅は苦笑いを浮かべる。
――気になるのは翠川皐月よね。やっぱり人気あるんだ。
翠川皐月は一年B組の生徒で、ツインテールがトレードマークの背が低い少女だ。本人は星章蒼衣の公式ファンクラブに所属しているが、彼女自身にも非公式ながらファンクラブが存在する。人形のような可愛らしい外見と気の強そうな振る舞いが見る人にとっては魅力的に映るらしい。
「生徒会選挙は自推他推のどちらもありですわ。巻き込まれる覚悟は決めておいた方がよろしいのではありませんの?」
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