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【番外編】ルビーという名の特効薬で
*10* 10月18日金曜日、20時過ぎ【A】
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「光が抜折羅にお大事にって」
「あぁ、うん。もう完治してるけどな」
「あたしの体力と引き換えにしてね」
わざとらしく言ってやると、抜折羅の顔色が曇った。
「それは本当に申し訳ないと思っている……」
「引き止める口実で意図的にしていたなら、一発以上はビンタを飛ばしているところよ」
今は力が入らないのでビンタすることはできないが、回復次第そうするだろう。
きっぱり言い切ると、抜折羅はずいっと紅の顔を覗き込むように近付いてきた。反射的に身体を退くと、すぐに背が当たる。逃げられない。ふさふさとした睫毛の一本一本を数えられそうな距離だ。鏡のように映す抜折羅の真っ黒な瞳がとても近い。
「――そういう心積もりなら、正直に言おうか?」
「え、何を?」
「俺は多分、この状況を楽しんでいる。悪いとは思っているが、同時に紅のそばにいられることが嬉しい。それに、今なら抵抗されない」
紅の頬に触れた指先は、優しく顔の輪郭をなぞる。その動きがくすぐったい。
「あの……抜折羅? 熱で頭がショートしてません?」
「紅、お前、相手が俺だからって油断し過ぎだ。無条件でいつまでも欲望を抑えられるとでも思っているのか?」
顎を持ち上げられて、目を合わせられる。
――なんでだろう。すごくドキドキする。不本意なことをされているのに。
「俺に喰われても、文句言えないことをしているって自覚はしておいてくれ」
顔がさらに近付いてくる。自然と目を閉じていた。
唇がそっと軽く触れて、次は強く押し当てられた。柔らかで熱い。
「コラ……脅しているんだから、素直に受け入れるなよ」
抜折羅の呟きで目をゆっくり開けると、彼の瞳には困惑の色が滲んでいた。
「えっと……久し振りのキスだったものだから、つい」
そうなのだ。抜折羅がアメリカから日本に戻ってきて一週間が過ぎている。色々な出来事があったものの、供にいる時間は長かったはずだ。それにも拘わらず、彼とはしていないのである。
――ってか、何かそういうの避けられている感じだったし……。互いの気持ちを確認したあとだっていうのに、ひどい仕打ちじゃない?
「――確かにそうか。エナジーの供給や暴走時の処置以外でしたのも、初めてだな」
「……そうなるわね」
改めて言われるとこっぱずかしいものがある。紅は俯いて、視線だけを窺うように彼に向けた。
「っ……その仕草、俺の前でするな」
突き放すような強い語気で抜折羅は告げると、紅の頭を乱暴に撫でる。
「え、ちょっ!? あたし、何かしたっ!?」
寝起きで既にボサボサであるのに、さらに乱されてはあとが困る。紅は抜折羅の手を掴むが止めてくれない。
「白状すると、お前の上目遣いに弱いんだよっ!! あんまり煽ってくれるな!!」
「知らないわよ、んなことっ!」
「だったら覚えておけっ!」
言い付けるように告げると、抜折羅は紅から離れる。充分な距離を取ったところで、彼は紅を見た。
「夕飯、適当に調達してきてやるから、留守番してろ。ついでに頭を冷やしてくるから」
今さら気付いたが、抜折羅は薄手のパジャマ姿ではなく、スウェット姿だった。紅が寝ている間に着替えを済ませたらしい。
「うん。わかった。気を付けてね。とりわけ、カードキーの持ち忘れには」
「わかってる」
不機嫌そうな口調だったが、彼の顔には優しい微笑みが浮かんでいた。身近で観察していないと、それが笑みなのか判別がつきにくいのだけど。
「行ってらっしゃーい」
「ん、行ってくる」
出て行った抜折羅が照れくさそうに見えたのは気のせいだろうか。
――きっと、気のせいよね。
思わず、小さく笑う。部屋に独り残されたのに不思議と寂しさはない。彼の匂いを感じる毛布にくるまっていることに幸せを覚えてしまう自分を、紅はほんの少しだけ浅ましく思った。
「あぁ、うん。もう完治してるけどな」
「あたしの体力と引き換えにしてね」
わざとらしく言ってやると、抜折羅の顔色が曇った。
「それは本当に申し訳ないと思っている……」
「引き止める口実で意図的にしていたなら、一発以上はビンタを飛ばしているところよ」
今は力が入らないのでビンタすることはできないが、回復次第そうするだろう。
きっぱり言い切ると、抜折羅はずいっと紅の顔を覗き込むように近付いてきた。反射的に身体を退くと、すぐに背が当たる。逃げられない。ふさふさとした睫毛の一本一本を数えられそうな距離だ。鏡のように映す抜折羅の真っ黒な瞳がとても近い。
「――そういう心積もりなら、正直に言おうか?」
「え、何を?」
「俺は多分、この状況を楽しんでいる。悪いとは思っているが、同時に紅のそばにいられることが嬉しい。それに、今なら抵抗されない」
紅の頬に触れた指先は、優しく顔の輪郭をなぞる。その動きがくすぐったい。
「あの……抜折羅? 熱で頭がショートしてません?」
「紅、お前、相手が俺だからって油断し過ぎだ。無条件でいつまでも欲望を抑えられるとでも思っているのか?」
顎を持ち上げられて、目を合わせられる。
――なんでだろう。すごくドキドキする。不本意なことをされているのに。
「俺に喰われても、文句言えないことをしているって自覚はしておいてくれ」
顔がさらに近付いてくる。自然と目を閉じていた。
唇がそっと軽く触れて、次は強く押し当てられた。柔らかで熱い。
「コラ……脅しているんだから、素直に受け入れるなよ」
抜折羅の呟きで目をゆっくり開けると、彼の瞳には困惑の色が滲んでいた。
「えっと……久し振りのキスだったものだから、つい」
そうなのだ。抜折羅がアメリカから日本に戻ってきて一週間が過ぎている。色々な出来事があったものの、供にいる時間は長かったはずだ。それにも拘わらず、彼とはしていないのである。
――ってか、何かそういうの避けられている感じだったし……。互いの気持ちを確認したあとだっていうのに、ひどい仕打ちじゃない?
「――確かにそうか。エナジーの供給や暴走時の処置以外でしたのも、初めてだな」
「……そうなるわね」
改めて言われるとこっぱずかしいものがある。紅は俯いて、視線だけを窺うように彼に向けた。
「っ……その仕草、俺の前でするな」
突き放すような強い語気で抜折羅は告げると、紅の頭を乱暴に撫でる。
「え、ちょっ!? あたし、何かしたっ!?」
寝起きで既にボサボサであるのに、さらに乱されてはあとが困る。紅は抜折羅の手を掴むが止めてくれない。
「白状すると、お前の上目遣いに弱いんだよっ!! あんまり煽ってくれるな!!」
「知らないわよ、んなことっ!」
「だったら覚えておけっ!」
言い付けるように告げると、抜折羅は紅から離れる。充分な距離を取ったところで、彼は紅を見た。
「夕飯、適当に調達してきてやるから、留守番してろ。ついでに頭を冷やしてくるから」
今さら気付いたが、抜折羅は薄手のパジャマ姿ではなく、スウェット姿だった。紅が寝ている間に着替えを済ませたらしい。
「うん。わかった。気を付けてね。とりわけ、カードキーの持ち忘れには」
「わかってる」
不機嫌そうな口調だったが、彼の顔には優しい微笑みが浮かんでいた。身近で観察していないと、それが笑みなのか判別がつきにくいのだけど。
「行ってらっしゃーい」
「ん、行ってくる」
出て行った抜折羅が照れくさそうに見えたのは気のせいだろうか。
――きっと、気のせいよね。
思わず、小さく笑う。部屋に独り残されたのに不思議と寂しさはない。彼の匂いを感じる毛布にくるまっていることに幸せを覚えてしまう自分を、紅はほんの少しだけ浅ましく思った。
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