宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

文字の大きさ
153 / 309
【番外編】ルビーという名の特効薬で

*10* 10月18日金曜日、20時過ぎ【A】

しおりを挟む
ひかり抜折羅ばさらにお大事にって」
「あぁ、うん。もう完治してるけどな」
「あたしの体力と引き換えにしてね」

 わざとらしく言ってやると、抜折羅の顔色が曇った。

「それは本当に申し訳ないと思っている……」
「引き止める口実で意図的にしていたなら、一発以上はビンタを飛ばしているところよ」

 今は力が入らないのでビンタすることはできないが、回復次第そうするだろう。
 きっぱり言い切ると、抜折羅はずいっとこうの顔を覗き込むように近付いてきた。反射的に身体を退くと、すぐに背が当たる。逃げられない。ふさふさとした睫毛の一本一本を数えられそうな距離だ。鏡のように映す抜折羅の真っ黒な瞳がとても近い。

「――そういう心積もりなら、正直に言おうか?」
「え、何を?」
「俺は多分、この状況を楽しんでいる。悪いとは思っているが、同時に紅のそばにいられることが嬉しい。それに、今なら抵抗されない」

 紅の頬に触れた指先は、優しく顔の輪郭をなぞる。その動きがくすぐったい。

「あの……抜折羅? 熱で頭がショートしてません?」
「紅、お前、相手が俺だからって油断し過ぎだ。無条件でいつまでも欲望を抑えられるとでも思っているのか?」

 顎を持ち上げられて、目を合わせられる。

 ――なんでだろう。すごくドキドキする。不本意なことをされているのに。

「俺に喰われても、文句言えないことをしているって自覚はしておいてくれ」

 顔がさらに近付いてくる。自然と目を閉じていた。
 唇がそっと軽く触れて、次は強く押し当てられた。柔らかで熱い。

「コラ……脅しているんだから、素直に受け入れるなよ」

 抜折羅の呟きで目をゆっくり開けると、彼の瞳には困惑の色が滲んでいた。

「えっと……久し振りのキスだったものだから、つい」

 そうなのだ。抜折羅がアメリカから日本に戻ってきて一週間が過ぎている。色々な出来事があったものの、供にいる時間は長かったはずだ。それにも拘わらず、彼とはしていないのである。

 ――ってか、何かそういうの避けられている感じだったし……。互いの気持ちを確認したあとだっていうのに、ひどい仕打ちじゃない?

「――確かにそうか。エナジーの供給や暴走時の処置以外でしたのも、初めてだな」
「……そうなるわね」

 改めて言われるとこっぱずかしいものがある。紅は俯いて、視線だけを窺うように彼に向けた。

「っ……その仕草、俺の前でするな」

 突き放すような強い語気で抜折羅は告げると、紅の頭を乱暴に撫でる。

「え、ちょっ!? あたし、何かしたっ!?」

 寝起きで既にボサボサであるのに、さらに乱されてはあとが困る。紅は抜折羅の手を掴むが止めてくれない。

「白状すると、お前の上目遣いに弱いんだよっ!! あんまり煽ってくれるな!!」
「知らないわよ、んなことっ!」
「だったら覚えておけっ!」

 言い付けるように告げると、抜折羅は紅から離れる。充分な距離を取ったところで、彼は紅を見た。

「夕飯、適当に調達してきてやるから、留守番してろ。ついでに頭を冷やしてくるから」

 今さら気付いたが、抜折羅は薄手のパジャマ姿ではなく、スウェット姿だった。紅が寝ている間に着替えを済ませたらしい。

「うん。わかった。気を付けてね。とりわけ、カードキーの持ち忘れには」
「わかってる」

 不機嫌そうな口調だったが、彼の顔には優しい微笑みが浮かんでいた。身近で観察していないと、それが笑みなのか判別がつきにくいのだけど。

「行ってらっしゃーい」
「ん、行ってくる」

 出て行った抜折羅が照れくさそうに見えたのは気のせいだろうか。

 ――きっと、気のせいよね。

 思わず、小さく笑う。部屋に独り残されたのに不思議と寂しさはない。彼の匂いを感じる毛布にくるまっていることに幸せを覚えてしまう自分を、紅はほんの少しだけ浅ましく思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。 飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...