宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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【番外編】キューピットストーンの粋な計らい

*1* 10月24日木曜日、夕方

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 十月二十四日木曜日、夕方。
 火群ほむらこうはステーションワゴンから赤く染まる住宅街に降り立った。

 ――遅刻はせずに済みそうね。

 クラス担任に捕まってさえいなければ一度家に帰って着替えてから出るつもりだった。なのに雑用を押し付けられて約束の時間に間に合いそうになかったため、サファイアブルーの宝杖学院の制服のままである。待ち合わせをしていた金剛こんごう抜折羅ばさらには、「そういうことなら着替えくらい手配したのに」などと、幼なじみの星章せいしょう蒼衣あおいが言いそうなことを言われたが、抜折羅が彼氏であっても頼むようなことではないと紅は思う。

「――誕生日にどういう趣向なのかしらね」

 隣に立った抜折羅に意見を求めると、彼は首を傾げた。

「さぁな。白浪しらなみ先輩の考えることはよくわからない」

 ここは白浪しらなみ遊輝ゆうきが住む家の正面。ガラス面の多いお洒落な一軒家の前にいる。

「二人が来てくれるならプレゼントはいらないから――なんてメールにはあったけど、抜折羅は結局どうした?」
「先輩が欲しがりそうなものが紅くらいしか浮かばなくて、俺はお前を全力で護ることにした」
「そ……そりゃどうも」

 冗談ではなく大真面目な顔をして言うのが抜折羅という少年だ。その発言はどこかピントが合っていないように思えるが、彼なりの配慮だとわかるのでよしとしよう。

 ――まぁ、抜折羅を抑止力ついでに呼ぶのも白浪先輩がよくやることだし。あたしも油断しないようにせねば。

 そもそも、今日こうして遊輝のもとを訪ねることになったのは、先日の宝石知識を競う試験で遊輝が一位を取ったからだ。試験で一位になった者の希望を叶える約束をしており、遊輝が出した希望は『十月二十四日木曜日に抜折羅くんと紅ちゃんの二人で僕のウチに来ること』だったというわけである。

「そろそろ行くか」

 抜折羅は紅に声を掛けるとインターフォンに向かう。ピンポーンと鳴ったのが聞こえるなり、玄関の扉が勢いよく開いた。

「待ってたよっ! 紅ちゃんっ! 抜折羅くーんっ!」

 扉の勢いそのままに紅たちに向かって飛び込んで来たのは、フリフリひらひらの白いエプロンを身に付けた美少年――白浪遊輝だった。並んで立っていた紅と抜折羅の両方を長い腕で抱き締める。まるで大型犬が飼い主の帰宅を喜んで迎えているような感じだ。彼の長い銀髪がさわさわと揺れるのを見ていると余計にそんなイメージがしっくりくる。

「もっと早く来てくれても良かったのに。待ちくたびれちゃったよー」
「す、少し落ち着け、白浪先輩。気持ちはわかったから離れてくれ」
「く、苦しいです……」

 紅がバタバタしているのに気付いたのか、遊輝が慌てて退いた。

「ごめん。二人を見掛けたら抑えられなくて。大丈夫?」
「は、はい」

 いきなり抱き締められてびっくりしただけだ。しかも抜折羅も合わせてぎゅっとされてしまったものだから、どう対処したら良いのかわからずパニックになってしまった。遊輝の行動はいつも読めない。

「――で、何故そのエプロン?」

 抜折羅が理解しかねるといった感じで眉間に少し皺を寄せながら問うた。

「ふふっ。案外と悪くないもんでしょ?」

 言いながら、遊輝はその場でくるりと回る。それに合わせてレースとフリルがたっぷりついた真っ白なエプロンが翻った。
 遊輝の外見は女装しても似合うくらいの美形だ。整った顔立ちも華奢な体格も、華やかで可愛らしい衣装によく馴染む。

「母さんの趣味なんだ。家にあるエプロン、このタイプしかないから使っているんだよ」
「……何かの呪いか?」

 抜折羅が呆気に取られている。色々と想像を超えた事態なのだろう。

「ん? 抜折羅くんも着けるかい?」

 遊輝がしれっと言うので、紅は思わず想像してしまう。

 ――いや、ないわ……。

 抜折羅の容姿だって悪くない。長めの前髪があどけなさを残す顔を邪魔するのが勿体ないが、顔立ちは充分に整っている。日本人の男子の平均身長くらいはあるし、何より筋肉質でたくましい。そんな男らしさが強く出る彼に、甘い印象のこのエプロンは似合わないだろう。

「漫才を続けるなら、あたし帰りますけど?」

 話が進まないので促すと、遊輝は素早く紅の手を取った。

「そんなこと言わないでよ、紅ちゃん。君とは夜が明けるまで語り合いたいのに」

 必死なのか、遊輝の声は明るい調子のものではなく、低めた真面目なものだ。表情もしょんぼりとしていて、引き込まれそうになる。が、心を掴まれるのはなんとか阻止した。

「いや、その前にはさすがに帰ります」
「えー、抜折羅くんのところには泊まるのに、僕のところには泊まってくれないのかい?」

 本気で言っているわけではないことは、声のトーンが明るくなったことですぐにわかる。この話題を振ったのは、抜折羅をからかうためだ。
 返答しないでいると、抜折羅が遊輝から紅の手を取って口を開いた。

「あんたが信用されてないってことだろ」

 抜折羅の頬がほんのり赤い。口調には表れなかったが、動揺しているらしいことが伝わってくる。

「ふふっ。抜折羅くんと紅ちゃんは仲が良さそうだね。僕はそんな君たちのことが大好きだよ。――さぁ、部屋に入って。夕食にしよう」

 楽しげににっこりと微笑むと、ようやく遊輝が家の中に入れてくれたのだった。

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