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【番外編】キューピットストーンの粋な計らい
★12★
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「僕が劇団を出入りするようになった頃には父さんは復学していて、教員免許を取得したんだ。家計を安定させるために、彫刻家としての道をお休みすることにしたそうだよ。――紅ちゃんは知っていたよね、父さんが宝杖学院で美術の先生をしていたこと」
「えぇ。彫刻家として名前が売れてきたから退職されたんだとも聞いてます。兄が習ったことがあるんですよ」
「なるほどね。だけど、名前が売れてきたからってのは建前だと思うよ。教員以外での収入が上がっていたのは事実だと思うけど。おそらく実際は、僕を宝杖学院に入れたかったからじゃないかな」
「そんなことで教員を辞めるものなのか?」
収入を安定させるために教員になったのなら、息子を宝杖学院に入学させることを理由に辞めるものだろうか。むしろ話を聞いてきた感じだと、諦めかけていた夢が叶いそうだから転職するという方が似合っている。
遊輝は質問をした抜折羅を見ながら、補足をする。
「一応、教員とその子どもは同じ学校にいちゃいけないらしいからね。理事長から色々融通してもらってはいたけど、そこは教員としての自分と親としての自分で悩んだって言ってた。ちなみに僕、小学校では美術の展覧会によく出してもらっていたんだよね。割と上位に入っちゃう常連で。父さんとしては、自分が学んだ場所が気に入っていたから、同じ環境で学ばせたかったらしい」
――そういうものなんだろうか?
抜折羅の両親は物心がつく前に相次いで亡くなったために、親という存在がどんなことを考えて子どもに接するのかイメージできない。なんだか不思議な感覚だ。
素直に納得できないでいると、紅がぼそりと呟いた。
「小さな頃から才能があったんですねぇ……」
その呟きを拾ったのか、遊輝が紅に顔を向ける。
「才能かどうかはわからないよ。ただの落書きでも添削して突き付けられるような環境で育ってきたから。頼んでもいないのに、やたら熱心でね。だけど、父さんの指摘の通りに直すと、最初よりもよく見えたから素直に従っていたんだけど」
「羨ましい環境です……」
紅の夢はジュエリーデザイナーになることだ。その努力の一環として美術部に所属し、その腕を磨いている。整った環境に憧れる気持ちは容易に想像できた。
「そう? ――あ。本当にそう思ってくれているなら、僕が直接指導しても良いよ? ここに通ってくれれば、喜んで添削してあげる」
「いえ。羨ましいのは本当ですけど、お断りします」
紅は苦笑していた。遊輝が何を企んでいるのか察したのだろう。
「えー。遠慮しなくていいのに。夕食もつけるし、なんなら宿泊もオーケイだよ?」
――って、自分からあっさり白状するんかいっ!
「あんたはよくそういう台詞がポンポンと出るもんだな」
呆れて、抜折羅は突っ込みをせずにはいられなかった。遊輝は肩を竦める。
「思っていることを素直に言っているだけだよ。チャンスがあるなら、全力で挑まなきゃ」
「もう少し自重って言葉を覚えた方が良いんじゃないですか?」
「ふふっ。抜折羅くんも言うようになったね。良いことだ良いことだ」
満足げに言われる意味がよくわからない。返す言葉が浮かばなくて、抜折羅は黙った。
「――話にオチを付けるのを忘れたけど、僕の昔話はこれでおしまい。宝杖学院に入学してからの話は二人とも知っているだろうし。そろそろケーキも食べようか」
楽しげに告げて、大型の冷蔵庫に遊輝は向かう。
――紅は今の話、どう思ったんだろうな。
遊輝の昔話を知ったところで、とりわけ何かが変わったようには思えない。もともと興味がなかったからという理由に思い至ると、紅がどのように受け取ったのかが気になる。彼女が少なからずとも遊輝に憧れの気持ちを抱いているのを知っている。何かしらの感情の変化があっても不思議ではない。
抜折羅は紅の横顔を見ながら、温かいブラックコーヒーを啜ったのだった。
「えぇ。彫刻家として名前が売れてきたから退職されたんだとも聞いてます。兄が習ったことがあるんですよ」
「なるほどね。だけど、名前が売れてきたからってのは建前だと思うよ。教員以外での収入が上がっていたのは事実だと思うけど。おそらく実際は、僕を宝杖学院に入れたかったからじゃないかな」
「そんなことで教員を辞めるものなのか?」
収入を安定させるために教員になったのなら、息子を宝杖学院に入学させることを理由に辞めるものだろうか。むしろ話を聞いてきた感じだと、諦めかけていた夢が叶いそうだから転職するという方が似合っている。
遊輝は質問をした抜折羅を見ながら、補足をする。
「一応、教員とその子どもは同じ学校にいちゃいけないらしいからね。理事長から色々融通してもらってはいたけど、そこは教員としての自分と親としての自分で悩んだって言ってた。ちなみに僕、小学校では美術の展覧会によく出してもらっていたんだよね。割と上位に入っちゃう常連で。父さんとしては、自分が学んだ場所が気に入っていたから、同じ環境で学ばせたかったらしい」
――そういうものなんだろうか?
抜折羅の両親は物心がつく前に相次いで亡くなったために、親という存在がどんなことを考えて子どもに接するのかイメージできない。なんだか不思議な感覚だ。
素直に納得できないでいると、紅がぼそりと呟いた。
「小さな頃から才能があったんですねぇ……」
その呟きを拾ったのか、遊輝が紅に顔を向ける。
「才能かどうかはわからないよ。ただの落書きでも添削して突き付けられるような環境で育ってきたから。頼んでもいないのに、やたら熱心でね。だけど、父さんの指摘の通りに直すと、最初よりもよく見えたから素直に従っていたんだけど」
「羨ましい環境です……」
紅の夢はジュエリーデザイナーになることだ。その努力の一環として美術部に所属し、その腕を磨いている。整った環境に憧れる気持ちは容易に想像できた。
「そう? ――あ。本当にそう思ってくれているなら、僕が直接指導しても良いよ? ここに通ってくれれば、喜んで添削してあげる」
「いえ。羨ましいのは本当ですけど、お断りします」
紅は苦笑していた。遊輝が何を企んでいるのか察したのだろう。
「えー。遠慮しなくていいのに。夕食もつけるし、なんなら宿泊もオーケイだよ?」
――って、自分からあっさり白状するんかいっ!
「あんたはよくそういう台詞がポンポンと出るもんだな」
呆れて、抜折羅は突っ込みをせずにはいられなかった。遊輝は肩を竦める。
「思っていることを素直に言っているだけだよ。チャンスがあるなら、全力で挑まなきゃ」
「もう少し自重って言葉を覚えた方が良いんじゃないですか?」
「ふふっ。抜折羅くんも言うようになったね。良いことだ良いことだ」
満足げに言われる意味がよくわからない。返す言葉が浮かばなくて、抜折羅は黙った。
「――話にオチを付けるのを忘れたけど、僕の昔話はこれでおしまい。宝杖学院に入学してからの話は二人とも知っているだろうし。そろそろケーキも食べようか」
楽しげに告げて、大型の冷蔵庫に遊輝は向かう。
――紅は今の話、どう思ったんだろうな。
遊輝の昔話を知ったところで、とりわけ何かが変わったようには思えない。もともと興味がなかったからという理由に思い至ると、紅がどのように受け取ったのかが気になる。彼女が少なからずとも遊輝に憧れの気持ちを抱いているのを知っている。何かしらの感情の変化があっても不思議ではない。
抜折羅は紅の横顔を見ながら、温かいブラックコーヒーを啜ったのだった。
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