宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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White Day's Rhapsody

★5★ 3月14日金曜日、早朝

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 大したことを願ったつもりはなかったのだが、抜折羅ばさらの希望は叶わなかった。

 ――どうしてここに……。

 エキセシオルビル一階のホール。そこには見知った少年が壁に背を預けて立っていた。長い銀髪が外の光を受けて煌めく。車に向かおうとしていた抜折羅たちに気付いたらしく、彼の赤い瞳が向けられた。

「二人っきりで旅行かい?」

 人懐っこい笑顔で訊ねてきたのは白浪しらなみ遊輝ゆうき。抜折羅は咄嗟にこうを下がらせる。

「旅行じゃない。仕事だ」

 抜折羅は落ち着いた声で否定する。湧き上がった僅かな苛立ちは、普段なら丁寧にしている語尾が乱れているところに表れてしまう。

「ふふっ、確かにそうとも言えるね。伊豆まで一泊二日の簡単なお仕事。出水いずみ千晶ちあきが今までやってきた浄化の仕事でしょ?」

 出水千晶――本名は火群ほむら千晶。去年の春に亡くなった紅の祖母の名だ。

「……ヨータから聞いたんですか?」

 やけに詳しい。情報がリークしているとしか思えない。

「聞いたというか、陽太ようたくんから正式に依頼を受けたんだよ。二人の監視と手伝いを兼ねてね。バイト代、はずんでもらっちゃった」

 真実だと証明するように、遊輝は真っ白なトレンチコートのポケットから綺麗に畳まれた紙を取り出す。受け取って見てみれば、透かしもきちんと入ったタリスマンオーダー社の依頼書である。今回の任務について、英文で詳細も記載されている。

「あいつ、社員じゃないくせに……」

 依頼書を破ってやりたかったが、そこはぐっと堪えて遊輝に返す。

「出水の本家からの要請なんだってね」
「本家から?」

 遊輝の補足に、様子を窺うようにずっと黙っていた紅が反応する。
 出水本家は紅の親戚であり、つい最近もめたばかりだ。一応の決着には持ち込んだが、いつ再びくすぶるかはわからない。彼女が気にするのは当然だろう。

「本来なら出水家がすべき仕事なんだけど、向こうは今、バタバタしているみたいだからね。一応の協力体制を整える意味も兼ねて、仕事を投げてきたらしい。任務は紅ちゃんだけにって話だったようだけど、いきなり単独任務ってないでしょ? だから、抜折羅くんと僕でサポートしようってわけ」

 抜折羅には面白くない話だが、遊輝の説明は正しい。
 紅を一人で行かせたくないという本音と、任務のこなしかたを教えるという建前からこうして出掛けることにしたのだ。抜折羅だけで彼女の面倒を見るつもりだったのだが、横槍が入ったらしかった。

「同行を許してくれるよね? 君だけじゃ、対象の魔性石を取り残さず浄化するのは無理でしょ? ねぇ、支部長サマ」

 にこにこしながら、遊輝は問うてくる。断られないと踏んだ様子だ。

「社員でもバイトでもない人間に支部長と言われたくない」
「僕はプロパーじゃないかも知れないけど、パートナーではあるでしょ? いつもなら断るこの手のお仕事に協力してあげるって言っているんだから、君は素直に頷くべきじゃないかな」
「っち……ヨータも変な手を使いやがって……」

 想定外の事態であるが、探知を得意とするタリスマントーカーの遊輝の同行は心強い。浄化を得意としている抜折羅や紅は、他の魔性石を探知することは多少できても、広範囲に渡ってとなると限りなく不可能に近いのだ。

 ――ヨータ本人がついてくるよりはマシだと考えるべきか否か。

 遊輝が紅を好いていることは知っている。学校でも外でも、隙さえあれば口説き、触れたがる。そんな人間とともに慣れない土地での任務に集中できるだろうか。
 苛々して、抜折羅は頭を掻いた。結論は出ている。

「……わかりました。俺からも協力を依頼しますよ」
「わーい♪」
「但し、白浪先輩は助手席で道案内担当ですからね? 給料分はしっかり働いていただきますよ」
「うん。今回はそれで了承してあげる」

 ――紅の安全より仕事を優先する俺ってのもどうなんだよ……。

 遊輝が優れた探知型のタリスマントーカーであると評価している。結局は遊輝の人柄はおいておき、その能力を買うことにしたわけだ。

「紅、なんだか申し訳ない」
「二人きりには憧れがあったけど、仕事だもんね。あたしは構わないわよ」

 肩を竦めて答える紅はすでに諦めきった様子である。ある意味、毎度お馴染みの展開だ。

「う……すまない。次に機会があれば埋め合わせをする」
「期待してるわ」

 苦笑する紅を見て、抜折羅はため息を堪えた。お互いにこんな状況を迎えることは日常茶飯事といえたが、理不尽さは拭えない。

「……行くか」

 抜折羅は紅の手を引いて、冬の寒さが残る外に出たのだった。
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