うっかり故郷を滅ぼしたくないので、幼馴染と旅に出る!

一花カナウ

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旅立ちは突然に

真夜中の訪問者

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 ――町が消滅するなんて、どうすればそんなことが起こりうるのかしら?

 町長に呼び出されたその夜。あたしは寝台の中でふと思う。
 町を一つ消滅させることができるほどの凶暴な生物は知らないし、そんな兵器も聞いたことはない。

 ――平和だと思っていたのにな……。

 この世界には大きな戦争はなく、あちらこちらで小さな紛争が起こるくらいだって学校で習った。『あくまでも自分たちの身を護るための兵器であり、他者を侵害するための武器は持ってはならない』と各国々をまとめるえらい人が言ったとかなんとかで、今はそれがちゃんと機能している。それを破ると様々な制裁が加えられることが決まっているそうで「それを恐れているうちは平和なんだよ」と歴史の先生が言っていたと思う。

 ――それこそ神の仕業、か。

 この世界を創ったとされる神様は、創造神であり破壊神でもある。気に入らなくなった世界を破壊して今の世界が作られた、という言い伝えもあるくらいだ。今の世界が気に入らなくなったので壊し始めたといわれても、そう違和感はない。ま、あたしには大迷惑だけど。
 コンコン。

「ん?」

 雨戸を叩かれる音に気付いたあたしは上体を起こす。

 ――こんな時間に一体誰?

 夜もだいぶ更けた時間だ。そんな時間に町を出歩く人間も少ない。
 あたしは警戒しながら窓の鍵を開ける。
 ガチャ。

「お、親切だな」

 声はマイト。

「なに? あたし寝ていたんだけど」

 窓はまだ開けていない。鍵のみを開けた状態で、相手の出方を窺う。

「開けてくれないってことは、お前、素っ裸、とか?」

 からかい口調全開のマイトの声。あたしは長くなった髪を枕元においていた髪紐で縛る。

「昼間とさして変わらない格好よ。――で、何の用?」
「ここじゃ話しにくいから入るぞ」
「どうぞ」

 あたしはしぶしぶ窓を開けてやる。自分らが小さかった頃はこうやって窓から出入りしていた。それぞれの家の玄関に向かうよりもこの方が近いのだ。マイトの家はあたしの家の裏側だから。

「うわー。久しぶりに入ったけど昔と全然変わってないな。色気なし」
「そんなに久しぶりだっけ?」

 小声で言うマイトにあたしは首をかしげて問う。

「お前のお袋さんが倒れた頃からこっちには出入してない」
「そっか。こっちから行くことはあっても来ることはなかったんだっけ」

 思い返してみればそんな気もする。あたしが家のことをやるようになってからはあんまりマイトと遊んでいない。学校で顔を合わせるくらいだったことに今更気付く。その学校を卒業してしまった今となっては、お隣さんでもそう接点はなかった。

「療養中のお袋さんを起こすわけにはいかないだろ? 俺なりに気を遣っているわけだ」
「で、そのマイトが何の用事?」

 あたしは寝台の上で胡坐をかきながら訊ねる。

「夜這い、とか?」
「泣き虫マイトが良い度胸しているじゃない」

 反射的に戦闘態勢。明かりを灯していない自分の部屋なら、物の配置を熟知しているだけこちらが有利。負ける気がしない。

「そこ、馬鹿にするところじゃなくて、戸惑うところだ。そんなんだから良い年頃になっても言い寄る男がいないんだぞ」
「し、失礼ね!」

 小声で反論。お母さんもお父さんも部屋で寝ているのだ。別室といえど騒げば起こしてしまうことだろう。

「それだけ整った顔で、綺麗な体型をしているのにもったいないと思わないか?」
「……え?」

 身体を鍛えていたから全体的に締まっている。腕も足も筋肉質ではあるが、女らしさを帯びてきた今なら健康的な感じだ。お母さんが結構目立つ胸をしていたからか、あたしの胸も順調に発育中。お尻だって小さい方が理想的なのに徐々に大きくなってきている。

 ――あたしはあんまりもったいないとは思わないけどな。

 外で身体を動かす方が好きであるあたしにとって、女らしい身体は不要なものだ。男を誘惑し子どもを宿すことを目的とした身体なんてあたしはいらない。あたしは戦いの最前線で軽やかに戦っていたい方の人間なのだ。

「俺は、お前のことが嫌いじゃない」

 ――って、待て待て。

 寝台の方にゆっくりと近付いてくるマイト。結構表情が本気っぽい。何に対して本気なのかわからないけど。

「き、嫌いじゃないって言われても」
「じゃあ、素直に告白しよう。――ミマナのことが好きだ」
「!?!」

 ――な、何、この展開? あたしにどうしろと? ちょっと待て、待ってったら待って! ちょっと、この部屋狭すぎ! 逃げ場ないし、近付きすぎだし!

 降りる前にマイトはあたしの寝台に入ってきた。あたしの後ろは壁。

「じょ、冗談ならそこでやめておきなさいよ! 後悔するわよ!」
「俺は後悔しないし、後悔もさせないよ」

 本気で逃げ場がなくなった。

「あたしはあんたのことは好きでもなんでもないしっ! ただの幼なじみとしか思っていないし! 大体あたしに勝てない弱っちいマイトに惚れるわけないでしょ! あたしはあたしより強い男じゃないと嫌!」
「馬鹿だなぁ、ミマナ」

 追い払おうと振り上げた腕をあっさり捕まれ、あたしは壁に押さえつけられる。

 ――だから、だからだからだからっ! 顔が近い! あたしに触れるだなんて十年早い!

 そう言ってやりたいのに言葉が口から出ない。

「お前を本気で殴れるわけないじゃん」

 文句の一つも言ってやろうかとしたとき、唇をふさがれた。マイトの唇で。

「!」
「――ん……。もう少し抵抗されるかと警戒していたんだが」

 マイトはそう呟くと、それ以上のことはしないでおとなしく離れた。
 で、あたしはというと。
 自由になったにもかかわらず、そのままの体勢で固まっていた。

 ――き……キスされた?

 思い出すだけで全身が熱くなる。その上、思い出さないようにしようと思えば思うほどと身体がまったくいうことを利かない。突然の出来事に対処できず、固まってしまっているのだった。

「あのー。ミマナ? それ以上のことはしないつもりだから緊張を解いて大丈夫だぞ? その先も期待しているなら考えなくもないが」
「……」

 パクパクと口を動かすことはできるが、どうにも声が出ない。情けない。

「くっ……おもしれーな。男にこういうことされるって想像したこともなかったのか?」

 大声で笑いそうになるのを必死にこらえながら問いかけるマイト。

 ――む、失礼な奴ね!

 そうは思えど声が出ない。身体の緊張はだいぶほぐれてたものの、振り上げたままの腕は地面と仲良しになったまま固定。さっぱり身体が動かない。
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