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8:魔導師として宮廷入りしたので、国のために頑張ります!
殿下の機転
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リシャールが向かった先は聖水の湖のほとりだった。
深夜だからではなく、季節がらだろう。ネグリジェにショールを合わせただけのアルフォンシーヌの格好ではさすがに肌寒い。吹いている風は乾燥し、さらに熱を奪う。
「こんなところで何を?」
メルヒオールが警戒している。リシャールに言われるがままについてきてしまったが、それ以上の打ち合わせはしていなかったからだ。今の彼は、聖水に触れることを過剰に恐れていた。
「心配しないで。勝算はあります」
そう答えて、リシャールは王都のある方に顔を向ける。空が薄っすらと赤い。炎の勢いを察することができた。
「メルは風の精霊の守護を得ています。アルちゃんは火の精霊の寵愛を受けていますよね」
「寵愛かどうかはわかりかねますが、火の魔法は得意ですよ」
宮廷魔導師として修行を重ねてきた結果、アルフォンシーヌが生み出せる火力は魔導師の中でも上位に入れるようになった。コントロールも火の魔法に関してだけかなり正確に操れるつもりだ。
アルフォンシーヌが自信を持って答えると、リシャールはにこやかに笑った。
「頼もしい返事で何より。――そして、私がここにいるので、どうにかなりますよ」
「ああ、そういう」
リシャールのざっくりとした説明で、メルヒオールは理解したらしかった。周囲を見渡し、早速何かを確認している。
風向きが変わり、空気が魔力を帯び始める。
「えっと……ちゃんと説明してください」
地面に何かを書きつけているリシャールに、アルフォンシーヌは尋ねる。
ん? この図形は……。
星明かりで読み取れるリシャールが描いた図形は、魔導書で見たことがあるものだ。
「私はね、魔導師特性はないし、魔力もほとんどないのですけれど、こうして陣を描くことでちょっとだけ魔法を使うことができるんですよ。水の精霊に愛されているらしくて、水を操るくらいしか芸はないんですが」
風、火、水。
その三つの要素で何をしようというのだろう。
「基本的には宴会芸程度の力なんですが、今はアルちゃんから魔力を受け取っていますし、それなりの威力が出るのではないか、と」
三人の足下にはリシャールが両腕を広げた程度の陣が描かれていた。周囲に水の精霊の気配が集まってくるのがわかる。アルフォンシーヌにとって少々苦手な相手であるためか、水の精霊たちははっきりと感知できるのだ。
「さてと。メルのほうはいかがですか?」
リシャールがメルヒオールに問うと、ゆっくりと頷いてみせた。
「ええ。ここから王都までならなんとか」
「あの、まだ説明が足りないんですが」
「ああ、うん。アルちゃんは湖の水を蒸発させて。聖水に住む動植物たちは私の方で隔離しておきますので、思いっきりどうぞ」
「は、はい?」
湖の水を蒸発?
そうすることで何が起こるのか、アルフォンシーヌは想像できなかった。首をかしげると、メルヒオールが片手を額に当てた。頭痛らしい。
ど、どうせあたしは出来の悪い弟子ですよーっだ。
「アル。我々三人で、王都に雨を降らせます。聖水の大雨であれば、魔法で作られた炎であっても消火できますから。それぞれの特性を活かす魔法ですし、規模は大きくても危険は低いはず。アルだったらできますよね?」
聖水の湖の水を使って雨雲を発生させ、それを風で王都に運び雨を降らせる――え、本気で言っていますか?
ようやく作戦を理解してメルヒオールとリシャールの顔をアルフォンシーヌが交互に見ると、二人は大真面目な視線で協力をしいてきた。
「属性一つであれば俺一人でも制御できますが、属性の違う魔法を使うには身体への負担が大きい。殿下に魔導師特性があるのであれば、水から雨雲を生むことは可能ですが、実際は出来ません。アルの力を借りることで、初めて成立するのです」
「……わかりました。聖水の湖が干上がっちゃたら、そのときはフォローしてくださいよ?」
精神統一。アルフォンシーヌは目を閉じて呼吸を整える。
周囲に火の精霊が集まってきた。ほのかに暖かく、陽だまりの中にいるような心地よさがあった。
深夜だからではなく、季節がらだろう。ネグリジェにショールを合わせただけのアルフォンシーヌの格好ではさすがに肌寒い。吹いている風は乾燥し、さらに熱を奪う。
「こんなところで何を?」
メルヒオールが警戒している。リシャールに言われるがままについてきてしまったが、それ以上の打ち合わせはしていなかったからだ。今の彼は、聖水に触れることを過剰に恐れていた。
「心配しないで。勝算はあります」
そう答えて、リシャールは王都のある方に顔を向ける。空が薄っすらと赤い。炎の勢いを察することができた。
「メルは風の精霊の守護を得ています。アルちゃんは火の精霊の寵愛を受けていますよね」
「寵愛かどうかはわかりかねますが、火の魔法は得意ですよ」
宮廷魔導師として修行を重ねてきた結果、アルフォンシーヌが生み出せる火力は魔導師の中でも上位に入れるようになった。コントロールも火の魔法に関してだけかなり正確に操れるつもりだ。
アルフォンシーヌが自信を持って答えると、リシャールはにこやかに笑った。
「頼もしい返事で何より。――そして、私がここにいるので、どうにかなりますよ」
「ああ、そういう」
リシャールのざっくりとした説明で、メルヒオールは理解したらしかった。周囲を見渡し、早速何かを確認している。
風向きが変わり、空気が魔力を帯び始める。
「えっと……ちゃんと説明してください」
地面に何かを書きつけているリシャールに、アルフォンシーヌは尋ねる。
ん? この図形は……。
星明かりで読み取れるリシャールが描いた図形は、魔導書で見たことがあるものだ。
「私はね、魔導師特性はないし、魔力もほとんどないのですけれど、こうして陣を描くことでちょっとだけ魔法を使うことができるんですよ。水の精霊に愛されているらしくて、水を操るくらいしか芸はないんですが」
風、火、水。
その三つの要素で何をしようというのだろう。
「基本的には宴会芸程度の力なんですが、今はアルちゃんから魔力を受け取っていますし、それなりの威力が出るのではないか、と」
三人の足下にはリシャールが両腕を広げた程度の陣が描かれていた。周囲に水の精霊の気配が集まってくるのがわかる。アルフォンシーヌにとって少々苦手な相手であるためか、水の精霊たちははっきりと感知できるのだ。
「さてと。メルのほうはいかがですか?」
リシャールがメルヒオールに問うと、ゆっくりと頷いてみせた。
「ええ。ここから王都までならなんとか」
「あの、まだ説明が足りないんですが」
「ああ、うん。アルちゃんは湖の水を蒸発させて。聖水に住む動植物たちは私の方で隔離しておきますので、思いっきりどうぞ」
「は、はい?」
湖の水を蒸発?
そうすることで何が起こるのか、アルフォンシーヌは想像できなかった。首をかしげると、メルヒオールが片手を額に当てた。頭痛らしい。
ど、どうせあたしは出来の悪い弟子ですよーっだ。
「アル。我々三人で、王都に雨を降らせます。聖水の大雨であれば、魔法で作られた炎であっても消火できますから。それぞれの特性を活かす魔法ですし、規模は大きくても危険は低いはず。アルだったらできますよね?」
聖水の湖の水を使って雨雲を発生させ、それを風で王都に運び雨を降らせる――え、本気で言っていますか?
ようやく作戦を理解してメルヒオールとリシャールの顔をアルフォンシーヌが交互に見ると、二人は大真面目な視線で協力をしいてきた。
「属性一つであれば俺一人でも制御できますが、属性の違う魔法を使うには身体への負担が大きい。殿下に魔導師特性があるのであれば、水から雨雲を生むことは可能ですが、実際は出来ません。アルの力を借りることで、初めて成立するのです」
「……わかりました。聖水の湖が干上がっちゃたら、そのときはフォローしてくださいよ?」
精神統一。アルフォンシーヌは目を閉じて呼吸を整える。
周囲に火の精霊が集まってきた。ほのかに暖かく、陽だまりの中にいるような心地よさがあった。
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