18 / 42
第015話、訪問1件目、少し専門的な話です。
しおりを挟む2022/03/03、修正してます。
トッキーさんと共に訪問治療の1件目に到着、平屋で、年数はそれなりに古そうだが、立派な家だ。 家に入る前に患者さんについて説明をうける。
「ここは、寝たきりではないけどあまり活動的ではない男性が奥さんと二人で住んでいます、70歳です」
「はい」
「では…… こんにちはー!! ノキさーん! 訪問治療でーす!」
玄関の前に立ち、トッキーさんはいきなり大きな声で呼び掛ける、突然だったので俺はびっくりした。
(声でかいなっ! 先に言って! 大声を出すからって)
「ここの二人は耳が遠いから大声でないと、聞こえないの」
しかし、反応がない、誰も出てこないし。
「留守ですかね?」
「たぶんいると思うけど、聞こえないのかも、裏に周りましょうか」
家の裏へ周り込んでみる、奥さんと思われる女性が掃除をしているのが見えた、いるじゃん。
「こんにちはー!」
女性に見えるように手を振りながら、トッキーさんは大声で挨拶をした、今度は気づいた。
「あ~、こんにちは、今日は診察の日だったかね?」
「はい! 今日は男性の治癒師さんも連れてきてます!」
「あら、今日は二人も来てくれたの? ありがとう」
「こんにちは! よろしくお願いします!!」
(あんまり大声で話すことがないから、慣れないな、話すだけで疲れる)
奥さんに案内され家の中に入ると、男性がベッドに寝ていた、顔はこちらを向いているが、俺たちを見ても特に反応無し、トッキーさんはここでも大声で挨拶をする。
「ノキさん、こんにちは!」
「あ~?」
トッキーさんが挨拶すると、男性は面倒くさそうな声を出す。 名前は『ノキ』さん、第一印象は偏屈そうなじじい、こちらが挨拶をさてるのに、挨拶を返さない、白髪で、少し痩せぎみ、背は高いようだ、足がベッドから少しだけはみ出てる。
「診察に来ました! 今日は男性の治癒師さんも連れてきました! よろしくお願いします!」
「こんにちは! サルナスです!」
「は? 帰れ!!」
俺が挨拶するといきなり、怒鳴られた、そんな怒鳴るなよ、なぜ人は年を取るといきなり怒鳴り出すのだろう、特に男はすぐ怒鳴る、とりあえず俺はだまって様子を見守ろう、トッキーさんが聞き取りを行う。
「そんなこと言わずに! 最近の調子はどうですか?」
「変わらん! 帰れ!」
なだめようと、トッキーが柔らかく話しかけるが、反応は悪い、寝たまま起きようともせず、そのままの姿勢で返事している。
(うわ~、見本のような、クソジジイ)
「あなた、そんなこと言わないで診てもらいましょうよ、お尻が痛いって言ってたじゃない」
「うるさい、余計なことを言うな!」
夫婦ケンカはやめて、奥さんは穏やかそうなのに、なんで旦那は偏屈なんだ、痛みがあるならちゃんと言えよ。
「お尻が痛むんですか? いつから?」
「ここ数日なんですけど、痛いって言うけど見せてくれなくて」
「わかりました、ノキさんお尻だしましょう!」
「男のケツをみてどうする? スケベな女だな!」
奥さんからお尻を痛がっている情報を得たが、ノキさんは見せてくれそうにない、この発言はセクハラではないだろうか、誰もじじいのケツを好き好んで見たくて言ってるわけではない、仕事なんだよ、俺はイライラしながら、思わず声をかける。
「まぁまぁ、じゃあ僕が診ましょう! それならいいですよね?」
(どうも、男尊女卑な感じがする、もしかしたら俺になら見せてくれるかも)
会話の途中で横から悪いとは思ったが、思わず声をかけた、ノキさんは無言だ。
「……」
「すぐに終わりますから、確認して治療したら痛みもなくなるし、楽ですよ、ね?」
「……」
ノキさんは無言だが、拒否もしないので、了解と受け取ろう、面倒なタイプだよな。
「じゃあ、確認していきますね、、、 ん~皮膚が赤くなってますね、それと少し皮もむけてます」
「これは "褥瘡(じょくそう)" ね」
トッキーさんがお尻の状態について、説明してくれた。
「じょくそう? 怪我とは違うんですか?」
「一般的には "床ずれ" と呼ばれることが多いの、怪我との違いとしては、怪我の場合は、例えば腕をどこかにぶつけた傷、刃物で切ってしまった傷など」
「はい」
(治療院で治療するのはこの場合がほとんどだな)
「褥瘡(じょくそう)の場合は、ぶつけたり切ったりが原因ではなく、栄養状態の低下、長時間ベッドに寝ることからくる皮膚に対する圧迫、布団やベッドと皮膚との摩擦、骨が突出している部分に集中的にかかる圧迫、まだ他にもあるけどね」
「はぁ~」
(そんな違いがあるのか、褥瘡って原因がいくつもあるんだな、奥が深いな)
「さわるとよくわかるけど、お尻の上の方、ここは "仙骨(せんこつ)" といって、この部分は特に骨が突出してるでしょ? こういう部分は褥瘡になりやすいの "好発部位(こうはつぶい)" と呼ばれる部分で、他にも肩甲骨、背中、肘、カカト、が褥瘡になりやすいし、それ以外でも寝る体勢によっては違う好発部位もあるのよ」
「それ、、、全部覚えてるんですか?」
(何も見ずにスラスラ答えてるけど、覚えてるの?)
「全部、ではないけどね、ある程度は覚えておかないと患者さんに説明ができないから、治療だけでなく原因を追求して場合によっては生活習慣などを指導したりするのよ」
「はぇ~」
(なんか、治癒師って治療だけしてたら良いと思ってたけど、まだまだ勉強不足だ)
「では、治癒魔法をかけておきましょう、サルナスさんお願いできるかな? もっとひどい場合は違う魔法も必要だけど、これくらいなら魔法は怪我の時と同じでいいから」
「はい、わかりました、ケガナオール!」
俺は赤く皮膚がむけた部位に手をかざして治療魔法をかけた、みるみる皮むけが治り、皮膚の赤みもなくなっていく。
「あ~よかった、ありがとうございます」
奥さんは嬉しそうにお礼を言ってくれた、それに比べて旦那は。
「……」
「ノキさん、またベッドに寝てばかりいたんでしょう! 歩けるんだから散歩したりとか、奥さんと出掛けるとかしてくださいって前にも言いましたよね? あと好き嫌いせずに食事してくださいとも、言いましたよね?」
「知らん!」
トッキーさんが注意すると、ノキさんはそっぽを向いて、知らん顔する、態度が悪っ!。
「知らん、じゃありません、寝てばかりいるとそのうち寝たきりになってしまいますよ、ひとりで動けなくなったらどうするんですか?」
「めんどう!」
「軽く家の周りを散歩するだけでも違いますから、歩いてください!」
「ふんっ!」
ノキさんは聞く耳をもたないようだ、トッキーさんの言うことにいちいち反発してくる。
「では、今日はこれで失礼しますね」
「はい、ありがとうございました、すみませんね、態度が悪くて」
奥さんはノキさんの態度について、謝罪する、奥さんは謝らなくていいよ、あのじじいが悪い。
「いえいえ、いつものことですから、まぁ少しでも歩いてくれるといいんですけど、ではまた来ますね」
挨拶をして、家を出る、トッキーさんは最後まで優しい雰囲気で話していた。
***
「ノキさんは散歩するでしょうか、難しそうですね」
「根気よく説得するしかないかな、奥さんが優しいからノキさんも甘えてしまうのよね、短期間では難しいから長い目でみて対応していくことが必要かな」
その場だけではなく、長期的な関わりが重要なんだな、治癒印ではその場その場で対応して終わりとかだもんな、次の訪問先はどんなだろう、俺はそう思いながら次の訪問先へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる