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第031話、心臓に毛を生やせ!
しおりを挟む執事服を着た男性はとても丁寧にこちらへ話しかけてきた、俺はどう答えてよいかわからず黙っていると、ネネタンが対応してくれた。
「こんにちは★ 『居酒屋 のんだくれ』のネネタンと申します、娘さまのことで領主さまにお会いしたいのですが、あいにく約束はしておりません、申し訳ないのですが話を聞いてもらえるかご確認をお願いします★」
ネネタンすげーな、屋敷の執事さんと落ち着いて会話してるよ、でもこれで出直すことはもうできない、今から帰ったらそれこそ失礼にあたる、はぁードキドキする。
「……少々お待ちくださいませ」
執事服の男性は屋敷に戻って行った、さてどうしようか俺が考案した治療方法に問題はないと思う、だが今までにない方法だからな、場合によっては捕まえられて牢屋に入れられて、その時はネネタンと同じ牢屋なのか、それはキツいな。
俺は不安のため、いろんな想像を膨らませている、想像の中では最終的にネネタンと心中になった、かなりの小心者なので怖くてたまらない。 俺がオロオロしていると執事服の男性が戻ってきた。
「旦那様がお会いになられるそうです、こちらへどうぞ」
どうやら許可が降りたようだ、オネェさんと幼女とオロオロしている挙動不審な男、よく許可が降りたな。 キョロキョロしながら執事服の男性の後をついていく、執事さんはこちらをチラッとみて挨拶をしてきた。
「申し遅れました、わたくしは『メイドン』といいます、お見知りおきを」
「あ、よろしくお願いしますです」
なんか変な言葉になってしまった、緊張しながら廊下を歩き立派な扉の前に到着した、領主様の執務室らしい。
「旦那様、連れてまいりました」
扉をノックして部屋に入る、正面に机と椅子があり領主様が座っている、机の上にはかなりの量の書類が置いてある、周りの棚には書物だらけだ。
「店の名前を聞いてもしやと思ったがやっぱり君か、いつも愚痴を聞いてくれてありがとう、屋敷に訪ねてくるとは思ってなかったが…… ところで今日は娘のことで話があると聞いた、その二人は?」
領主様は俺とエステン師匠を見て、少し怪訝そうな表情をした、そりゃ幼女とオロオロ男だからな当然だろう。
「いえいえ★ いつも当店をご利用頂きありがとうございます、この二人は私の友人で優秀な治癒師です★」
「は、初めまして治癒師のサルナスです」
「治癒師のエステンじゃ」
俺の方をチラッとみて領主様は口を開いた、ネネタンに話す時より低くて深みのある声だ、警戒されている?
「ほ~治癒師、だけど君は男性のようだが、もし女性だったら詫びよう」
「いえ、わたしは男です、けど、治癒師、です」
緊張で言葉につまる、余計に怪しまれそう、もうやだ帰りたい、帰って布団に潜り込んで寝るんだそしたら全部夢でしたで終わるはず。
「サルナスちゃんは初の *男性の治癒師* なの、だから普通の治癒師にはない力も持っているわ★」
その言葉に領主様がピクッと反応した、目つきが鋭くなりネネタンの目をしっかり見ながら声を発する。
「なるほど、君の店で娘の話をしたから治癒師を連れてきてくれたのか、だが今までにも治癒師には診てもらった、口を揃えて無理だと言われた、それなのにそこの男性の治癒師なら治せると?」
部屋の中が静かになり視線が俺に集まってくる、とても怖いです、こんな緊張は就職のときの圧迫面接以来だな、けど今回の場合は命もかかっている、恐怖は比較にならない。
「あ、あの、お嬢様は心臓が弱っていると聞きました、それで体を動かすと息切れがして胸に痛みもはしる、そのために運動もできずベッドで寝ていることが多い、心臓全体が弱まっているので治癒魔法も一時的な効果しかなく、あまり意味のない状態だと」
「……その通りだ、娘はいつも苦しそうだ、できることならかわってやりたい」
苦い顔をして目を細める領主様、俺の方を見て続きを促す、俺はひと言で治療方法を話す。
「お嬢様を治療する方法はずばり、心臓に毛を生やします」
最初のひと言で領主様がキレた。
「ふざけるなっ!」
顔を歪めて領主様が怒鳴ってきた、こうなるとは予想していたがなんとか落ち着かせて説明を最後まで聞いてもらわないと。
「お待ちください! 冗談ではなく本気です、最後まで話を聞いてください! 聞いた上でダメなのであれば何もいいません」
領主様も怖いが隣の執事さんはすでに懐の何かを握っている、凶器なの? 投げるの? 殺気が駄々漏れだけど? ごめんとにかく話を聞いて。
「……」
あー怖かった、領主様は無言になっている、落ち着いてはいないがとりあえず話は聞いてくれそうだ、俺は説明を続けた。
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